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泣かない魔女の絢爛な葬送  作者: 模範的市民
二章:純白の存在証明とマキアヴェリズム
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46.Unexist Alter Ego

 晩餐室は刹那的に静まり返った。

 パーティとは斯くあれりといったようなテーブルの上には趣向を凝らした料理が大量に盛られ、調度品であるバロック調の煌びやかな椅子に、これまた煌びやかなドレスコードの連中が座っている。


 説明不要、コイツらは貴族。指先一本に至るまで貴族らしさに溢れている、狩人の対義語にあたる連中だ。


 立派な燭台。属性石のシャンデリア。透明で飾り気に富んだグラス。

 銀製のナイフとフォークがあるというのに、香り立つ花びらが入れられたフィンガーボウルまで用意されている。伝統ってヤツか?


 連中の前に躍り出たビナーはメインディッシュを両手に乗せながらもなお流麗な動きで、貴族の面々に華麗に会釈をして見せる。


「ゼビオ伯爵専属ハウスキーパー、ビナー・ハイドランと申します。この度は皆様お集まりいただき感謝の極みでございます。さて、こちらの御三方は本日、見事魔獣を討ち取り、民草の平穏を守護せし狩人の方々です」


 自らの影に私たちが隠れない立ち位置を取る演出家な一面を見せながら、あいつは賓客の一部だとでも言いたげに私たちを貴族へと御目通りさせる。

 連中の顔色は変わっていない。だからこそ不気味だ。権威とはすなわち、感情を出来るだけ表に出さないことで護られるもの。この場に立つ貴族たちは「それ」を徹底することが出来ることが証明された。


「身勝手かつ不相応な申し出にはなりますが、何卒その寛大な御心で、彼女たちをこの場で紹介することをご容赦下さい」


「よい、よいのだビナー嬢。其の方が忌々しき魔獣に鉄鎚を下した狩人か。大義であった」

「ええ。予定には無かったことゆえ少しばかり戸惑いましたが、そういうことでしたら歓迎致しますわ」

「なんと、こんな子供まで……狩人連盟には大変な仕事を任せているのを自覚したとも。今後とも連盟の益々の発展を願おうではないか!」


 静寂は束の間だった。すぐさま賑やかな話し声が響くパーティへと変貌すると、ハートショットたちはようやく落ち着いたように息を吐き出す。だが私はどうにも落ち着かない。

 気持ち悪い連中だ。こんな事を言っておきながら、肚の底では私たちの事など微塵も歓迎していないのがビンビン伝わってくる。


 「発展を願おう」だ? だったら寄付くらいはしろよな。神官やら教会やら騎士団やらに回してる分の一割程度で良いんだぜ。そうすりゃ給料ももっとマシになるだろうよ。

 貴族が連盟に与することなんざ今までで一度もなかった。楼員と貴族の仲がすこぶる悪いからだ。言ってしまえば楼員たちは、コイツらにとって「言う事を聞かなくなるほど影響力を持ってしまった豪商」だ。衝突もする。


 そんで皺寄せは私たちの扱いだ。狩人の待遇がここまで悪いのは魔法使いが高慢ちきな態度を取っていたツケだと言ったが、もっと詳しく言うと、大昔、楼員の近しい先祖である「英傑の末裔」とかいう連中が、王族の意に反して魔法を好き勝手使ってたせいで爵位を剥奪されたことがあったことに由来してる。


 更にその血筋が続いて、おまけに小賢しくのし上がって来てるんだから面白くはないよな。


 だからってよォ、こんな風にニコニコしながら私たちの足を踏んでくるような真似をしてんのは、的外れな恨みも甚だしいぜ。

 それに「英傑」って名前が残ってるくらいだろ? 基本的にそのご先祖様、つまり英傑当人たちは立派な奴等だったんじゃねーのか? どこの一族にも汚点はあるかもしれねぇけどよ、私は知ってるぜ。ずっとカンカンに怒り続けるのは疲れるんだ。私でもしねェ。

 そんなに大事なモンなのかね特権ってのは。多分私にゃ一生分かんねぇな。


 「何卒ご贔屓に。援助金もよろしくな」

 とか言ってやろうかと思ったが、流石にこの人数の貴族相手にいつものスタンスで接するとハートショットとパラノイヤが胃痛で倒れそうな気がしたので、すんでのところで思い留まった。


 よし、成長してるな私。

 前までの私なら考える前に吐き捨ててた。


「……さて、領主様はただいま遅れておりますが、皆様料理の方はお楽しみ頂けていますでしょうか?」


 形式ばった紹介で名前も明かしていない中、私が居心地の悪さを噛み締めていると、ビナーの奴は平坦な微笑を崩さないまま、貴族たちにそう切り出した。貴族連中もあいつの毅然とした態度に仮面のような笑顔で応酬すると、問いかけに肯定の意を示す。


 ……ま、どうせすぐ退室するんだしな。コイツらに私たちの名前を覚える気もねぇだろ。それよりも気掛かりなのは、部屋に入る前のビナーの様子だ。


 ラストラリーまで思わずギョッとしていたが、ハートショットは何も感じてないってか? 私よりもそういうのには敏感なハズなんだけどな。……あの微笑を向けられていたのは私たちだけってことなのか? いずれにしろ、ビナーの態度は明らかに妙だ。人でも変わってしまったかのように。


「少々早いですが、メインディッシュをご用意しております」


「む? ゼビオ卿が不在であるというのにか?」

「まあ待て。卿がこの斬新な催しを、何のメッセージ性も与えずに許可したと思うかね? 我々はきっと手の中で踊らされているのだろうよ」

「まあ、楽しみだわ。普通のパーティにはならなそうね」


 私たちの登場、イベントの催し物の一環だと思われてたのか。飛び入りに近いんだけどな……いや、待てよ? そういえばビナーの誘い文句は、最初から私たちの参加を前提にしているような雰囲気だった。

 私たちは知らないうちに正体不明の企ての中に放り込まれた可能性がある訳だ。なら飛び入りとは言い難い。むしろ貴族連中のおめでたい想像通り、領主の野郎が私たちを何かに巻き込みやがったのか?


 それなら納得できるところもある。が、それでアイツが得られるメリットは何だ? 私たち狩人と貴族を鉢合わせにしたくないからと突っぱねた奴がやる事とは思えない。


 などと考え事をしていると、ビナーは小慣れた様子で両手に持っているクローシュ付きの大皿ふたつを、クロスの掛けられたアンティークテーブルの中央に置く。

 コトンという小さな音は低音のもので、察するにかなり重量感のある料理だろう。


 肉料理かな。貴族は大量の肉料理を食卓に出して、それを残すことで財力を示したりもするらしい。レイジィが言ってた。

 難儀な人種だぜ。幸福になる為によりも、幸福だと他人に思わせる為に四苦八苦してる。


 しかしビナーの奴、あんな重そうな皿を両手に持ちながら長ったらしい挨拶とか、格式ばった会釈とかを平然とにこやかに済ませてたのか。

 ……もったいつけるね。メインってのは何だ? 貴族のパーティを実際に見るのなんざ初めてだから、どんな料理が出るのかは純粋に興味がある。


 少し横を見ると、ハートショットやラストラリーも無意識のうちにその皿に視線を向けているようだった。つーか見たら帰ろう。押し黙ったまま重苦しい空気の中に長居すんのは肩が凝る。


 誰もがその注目度の大小はあれ、ビナーの手元に現れるであろう料理の方を見ていた。クローシュが取り去られる。


 ――その直後だった。


 先刻の静寂すら生ぬるいほどの凍り付いた空気が、その場を支配した。

 誰もが言葉を失った。目の前の光景を「現実」と見做すには、明らかに現実離れが過ぎていて、狂奔が可愛く思えるような震駭(しんがい)が、部屋にいた全員の脳天から爪先までを一斉に這い回る。


「は……?」


 辛うじて息漏れのように零れたのは、誰かのそんな間の抜けた錯乱だった。或いは、その声は私から出てきたものかもしれない。


 二つの首。


そう、首から、上だ。

 ピンク色の肉塊が入った、ドス黒い、スープのようなものに浸されて……えっと、

       クラメルと領主が、眠るように。目を瞑っていて、それで、何かが焦げたような匂いと、鉄の匂いが ダメだ。頭が、回らない。

   何だコレ。 何だコレ。 何だよコレ。


「うふふっ、自信作です――"道化の(Lügner)化かし合い風(Maskerade)"……素晴らしい出来でしょう?」


 ビナーは私に、歪んだ笑みと睨むような視線を向ける。


「ヒッ……あ、うあああああ!!?」

「キャァァァァッ!!」


 猫を被ってなどいられなくなった貴族たちが、全力を振り絞った悲鳴を上げる。逃げ出す為に椅子から立ちあがろうとした者も居たが……刹那、一斉に彼らの首から上が弾け飛ぶ。


 皿の上の惨状と同じように、黒い液体を断面から撒き散らしながら、頭を失った身体は椅子の上などに力無くもたれ掛かり、項垂れるようにして動かなくなった。


「ああ……駄目じゃないですか。しっかりと席につかなくては、貴族失格というものです」


 残されたのは私たち3人と、ビナーと、瞬きをする間に物言わぬ肉の塊となった貴族たちの骸。


「空席が出来ましたね。さあ、インヘル様。どうぞお好きな場所へ」


 静かに歩みを進めたビナーが腰掛けたのは、領主が座る予定だった席。奴はそこで艶やかに脚を組むと、普段と何ら遜色ない口調で、そして笑顔で、私たちにそう言い放った。

長らく投稿できず申し訳ありません。

今月中はかなり頻度下がると思いますが、来月からは新章も始まる予定なので、お楽しみいただけると幸いです。

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