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泣かない魔女の絢爛な葬送  作者: 模範的市民
二章:純白の存在証明とマキアヴェリズム
15/76

15.CrossFire

 ハートショットへと視線を向けたとき、彼女は既に構えていた。その初動はインヘルよりも余程(はや)い。それだけで彼女の手練手管が見て取れるようだ。


 その手に握っていたのは、予想外の汎用武器。


「(カルダン404――回転式拳銃(チャカ)かよ……ッ!?)」


 この時代の銃の主流はリボルバー型であり、薬莢が開発されてから未だそれほど時間が経っていない。弾倉を交換するだけで良いようなオートマチックの機構は存在せず、リロードに時間はかかる。


 勿論、そのぶん丈夫で長く使えるという利点はある。しかしその用途は常に殺しの道具であるとは限らない。

 彼女たちの常識では、銃の最もメジャーな使用法は、脅迫(おどし)であった。それも一般人を相手にするときにのみ使われる。


 インヘルは魔法使い同士の戦闘で拳銃を使うという例を未だかつて経験したことがなかった。何故なら魔法で対策を積まれてしまえば、それで終わりだからだ。


 すぐさま「合金」の魔法で、身体の急所を金属質に変化させる。弾丸など通すはずもないインヘルの魔法は、発動するだけで攻防一体の型になり得る強力な魔法なのだ。


 胸元に何発か、ガツンという衝撃が走る。

 身体を合金に変化させても、そのインパクトだけは逃がせない。骨が折れる事だってある。しかしインヘルの目的は最低限のダメージ管理。

 彼女には再生能力がある。弾切れまで損耗を抑えれば、リロードよりも確実に早く距離を潰すことが出来る。


 そして合計6発の銃弾を耐え抜き、インヘルはハートショットを睨み付けた。これで弾切れだ。再装填に少なくとも10秒はかかる。

 隙と呼ぶには余りにも大き過ぎる時間。彼女は瞬時に再生を終えると、そのまま力強く踏み込んだ。


 だがインヘルは妙なことに気が付いた。それは跳躍を一瞬後悔させるほどの違和感へと姿を変える。


 ――あの服のどこに拳銃なんか隠し持ってた? 構えるところは見えていない。あれは、まるで最初から手に持っていたようにも思える。


 結論がまとまらないうちに、なんとハートショットは有るはずもない7()()()の引き金を弾いた。


「な……ッ」


 ここで素早く鋭利に間を縫うために「合金」の魔法を解いてしまったのが仇となる。存在しないはずの7発目は確かに銃から放たれ、それは見事にインヘルの脳天を貫いた。

 出血はない。しかし痛みと衝撃は彼女の身体を大きく仰反らせ、体勢を崩した。一瞬意識を混濁させたインヘルだが、背が地面に接する前に持ち直すと、恐ろしいことに倒れず踏ん張って見せたのだ。


「(これでも背中に土を付けないなんて、大概バケモン……! 再生能力を甘く見てましたね……多分、インヘル先輩は腕とか脚を切断される方がダメージになるんでしょう)」


 視線が空を仰ぐインヘルに対して、ハートショットは全く油断することなく矢継ぎ早に次の手を講じていた。

 太陽を背に跳躍し、次に狙ったのは()()。頭を切り落とせば仕留めることは出来ずとも行動不能になると踏んだのだ。


 ハートショットの手には、またしてもいつ取り出したのか分からない大振りの鉈が握られている。空中で身体を大きく捻り、人体を切断できるだけの速さと力をもって首元へ振り下ろす。


 ――「合金」の魔法が寸前で間に合った。インヘルは首を硬化させ、鉈の刃を弾くと、自らの靴底を杭のように変化させ、地面に足を固定する。

 そして背部にジェットの噴出口のようなものを創り出し、続けざまに額を硬化させた。


「【機々械々(エクスマキナ)】――」


 「爆雷」の魔法で仰反っていた身体を強引に跳ね上げる。


「【鐘鼓機関(スレッジハンマー)】!」

「ひょっ!?」


 人体という軟弱なものが無事ではいられないであろう、インヘルの頭突きである。足下を杭で固定し、背面のジェットで跳ね上げ、堅牢な額でブッ叩く、何の工夫もないただの喧嘩殺法ではあるが、この威力を持つとそれは脅威以外の何者でもない。


 攻撃を弾かれたハートショットには回避の選択肢が無い。


 そこで彼女はインヘルの攻撃にあえて触れる。そのまま身を捩り、何度か空中で錐揉み回転をしながら衝撃をいなして見せた。この身のこなしは普通ではない。まるで野生動物のような軽業であった。


「(マジ……? 普通あの体勢から反撃スッ飛んできます?)」


 一瞬でも死のイメージに触れたハートショットの頬には冷や汗が伝っていた。だが彼女の実戦経験の功は見事に働き、全身が総毛立つようなそのカウンターに対しての怯みを引きずっていない。


 互いに一進一退の攻防。初動のみでお互いの力量は痛いほど伝わった。強いて言えば、同じトリックが通用しないハートショットが若干不利といったところだろうか。


 インヘルの能力は相手にバレても問題ないのが強みだ。初見殺しの技もあれば、それを外しても相手は警戒せざるを得ない。

 対してハートショットの用いたトリックは、読まれれば対策を練られるようなものばかり。敢えて弾数を把握されるリボルバーを使っているのはブラフを張りやすいからだ。


「(『カテゴリーC』? 試験官の目は節穴ですか? この戦闘センス……間違いなく本物! いや、それは分かってたんですけど……)」

「(チッ、頭痛ェ……弾が後ろに抜けたのは運が良かったな。こりゃ何の魔法だ? それに猿みてぇな動きしやがって……開けた場所ってのもあるが、コイツの足運びは無駄が無さ過ぎる。さしずめ魔法使いってよりは生粋の殺し屋)」


 インヘルの脳天の傷は既に完治しており、その予想以上の再生の早さにハートショットは素直に驚いていた。


 逆にインヘルも、ハートショットの身軽さには手を焼いているようだ。あの速度で繰り出したカウンターに応じる素の反射神経と身体能力は、おそらく自分以上。


 奇しくも、2人には同じ確信があった。


「「(本気(マジ)()るとしたら、絶対手ェ出したくないタイプだ)」」


 ハートショットは、インヘルの不死性を超える手段を見つけられない。つまりは殺すことが難しい。

 インヘルは、ハートショットの身のこなしが捉えられない。つまり「逃げの一手」を取られたら追い付く自信がない。


 仮に互いが本気で殺し合うことになったとしたら、おそらく互いに攻めあぐねるマッチアップだ。こんな時にまで実戦に目が向いているその思考も異常ではあるが。


 しかしこれは「喧嘩」で、尚且つ「場所」が決められている。

 余計なことを考えていた思考のリソースは、すぐさま互いをどう仕留めるかに割かれることとなった。


 2人はもはや、殺しは禁止などという甘いルールのことなど無視している。

 殺す気でやらなければ戦闘不能にさせられない、というのが正しい言い方だろうか。


「――そこまで」


 そんな攻防に水を差したのは他ならぬルールの制定者、パラノイヤであった。

 当然、まだ続ける気でいた彼女たち……特にインヘルが不満そうな顔で、突如として出されたストップに噛みつく。


「……おい、私はまだやれるぞパラノイヤ」

「続けさせません」

「何でだよ!」

「消耗戦になりそうだったので。そうなれば、傷を負わないインヘルが明らかに有利でしょう? するとハーティは益々手段を選ばなくなる。私まで巻き込まれるのは御免です。それに……目に本気が滲んでいました。本気で『殺す』という選択肢を考慮し始めたのは危険ですよ」

「じゃあ勝敗はどうすんだ――」

「ハーティ自身に決めてもらいます。そもそもこれは貴女の強さに疑問を持った彼女が発端ですから。……どうです? 信用は得られましたか?」

「……」


 ハートショットは口ごもる。彼女としても、もう少し続けさせてもらいたかった勝負だ。しかし、パラノイヤが言っていることは全てが事実。

 冗談ではなく本気で殺すことを考慮に入れ始めてしまったということは、ルール違反の可能性を存分に孕んでいる。その時点で、インヘルの「強さ」という点を否定しようとしていた自分の負けであった。


 少しの沈黙の後、彼女は渋々ながら口を開く。


「いえ……あの一撃だけで理解できました。そう理解させられた時点で、先輩を否定することは失敗だった」

「……との事です。消化不良ですみませんねインヘル。次の仕事から、頼みましたよ」

「私ゃまだ色々と納得いかねぇんだけどな!」

「まあまあ。今日のことは目を瞑って、仲良くやっていって下さい。……ちょうど面白い依頼も来ていたので」

「面白い依頼?」


 ハートショットが首を傾げる。本当に子供のように、コロコロと興味が移り変わる性分らしい。彼女がパラノイヤにうまく扱われている様子を見て、インヘルは大きく溜息を吐いた。


「はぁ……結局、お前の掌の上か」

「いざこざがあっては、やりにくい仕事でしょうからね」

「どんな依頼ですか!? 気になります!」


 元気とアホっぽい声色を取り戻したハートショットは、話題を逸らされたことにも気付かずにすっかりその「面白い依頼」というのに夢中だ。


「海辺の街アーテローヤルからの依頼です。内容は、ある魔女の捕縛」

「魔女ォ? 私は魔獣専門だぜ。そういうのは別の狩人に任せておけよ」

「面白いのはここからですよ。どうやらその魔女は、魔獣と繋がっているという話なんです」

「……何だと?」

「言葉を解する魔獣の次は、魔女と結託する魔獣……少し興味を惹かれるでしょう?」


 どうやらハートショットに引き続いてインヘルまでもがパラノイヤの話に乗せられているようだ。しかし、確かに興味を惹かれる案件ではある。


「この話が本当ならば、ハートショットが居た方が何かと便利です。魔女と魔獣、分業して進めるのが私は楽だと思いますがね」


 こうして、新たに生まれたツーマンセルでの初仕事が決定した。

 最後までパラノイヤに上手く転がされている気がしたインヘルは、若干の居心地の悪さを感じながらも、結局はその依頼の魅力に後押しされる形で話が進むこととなるのだった。

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