13.Talented Strays
私が募集をかけていた人材は斥候系で、小回りの利く暗殺者タイプの魔法使いだった。アサシンでウィザードとか何だよって話だが、探してみれば居るには居る。
戦闘検査カテゴリーはB以上。実戦経験必須。掃除のスキルがあればなお素晴らしい。私やインヘルはどちらかと言えば綺麗好きだが、レイジィが特にまずいのだ。彼女は書斎を埃まみれにする天才でもある。
「ん」
「……レイジィ。帰ってたなら言ってくださいよ。召喚魔法でしたっけ? 心臓に悪いです」
「いやぁ、たはは。申し訳ないねリーダー。実はちょっと調べたいことがあって、必要なものの準備の為に一時帰宅したんだ」
「どちらかと言えば丁度いいです。前から募集していた人がようやく捕まったんですよ。ほら、挨拶を」
「コホン……拝啓! 魔獣日和の鬱陶しい季節ですが! 雨の日は木犀の香りが芳しく――!」
「待ってこの子すごい長い挨拶文読み上げようとしてる?」
「……ハーティ。この人は悪い先輩ではないのでそんなに緊張しないで」
「緊張してないよね? むしろ全力でフザけに来てたよね?」
おそらく人見知りという言葉を知らないであろう彼女は、その余りに露出の多い服に恥を感じもせず、堂々とレイジィに挨拶をしてみせた。伸縮性の高い布をただ最低限巻きつけたみたいな格好だが、動きやすさに関しては一級品らしい。
「……それとその子、痴女?」
「彼女はハートショット・オレアンド。ただの痴女ではありませんよ。元気の良い痴女です。挨拶がうるさい、などの利点があります」
「痴女が生き生きしている世の中を厭いたいものだね」
「違います! これは家族に教えてもらった、大都会流行のふぁっしょんです! 動きやすいと聞いたんですよ!」
「それが流行っているのは1000年後か10万年前の話だろう? インヘルの陰気くさいローブとは気が合いそうだけど」
「ううっ、パラノイヤ先輩にも似たようなこと言われました……やっぱり私の地元、どこかおかしいんでしょうか」
「常識を切り替えるのは大変だと思いますが、一緒に更生していきましょう」
彼女の肩をぽんと叩いて慰めるフリをしながら、自己紹介は終わりだと説明して退室してもらう。これで書斎には私とレイジィの2人だけが残った。
暫くの沈黙を経たのち、私の目論見をとっくの以前に看過していたであろうレイジィが静かに口を開く。
「彼女自身は白だね。隠し事の色は無い」
「……そうですか。最初の可能性が杞憂なのは有難いことです」
「一芝居うってまで、まどろっこしい事するね〜。無理やり会わせたって事は、あの子は押し付けられたんだろう? 言っちまいなよガール。『要りません』って」
「馬鹿を言わないで下さい。楼員に紹介された人材ですよ? 上司の意見には絶対服従、これが世の常です」
「かと言ってそんな遠回しに腹を探ろうというのは背信じゃあないのかい」
「むしろ誠意でしょう。もし楼員の思惑が私の歯車と合致すれば、秘密裏に成功に導くことができます」
「合致しなくても君は服従するんだろう。社会の犬」
「クサレニート」
「おっ、言ったな?」
見ての通り私たちは仲が良い。……いや、皮肉とか冗談ではなく。ただ、対極的な考えを持っているせいで意見の不一致が多過ぎるだけであり、この程度は軽口に過ぎないのだ。
少なくとも私はレイジィを信頼している。向こうもそうだろう。そしてその信頼は、対極的だからこそ起こり得るものだ。犬猿の仲、ゆえに「事実の補強」には持ってこいの相手だ。
「……まっ、いずれにせよ誰かに良いように使われてる可能性はまだ考慮しておくべきだろうね。無自覚犯って奴さ」
「(あの短い会話の中で、現状の全てを見抜きますか……やはり人間業じゃないですね)」
レイジィ・フランベルジュ。
彼女を一言で表すならば「天才」である。むしろ天才という言葉が彼女の為にあるのかもしれない。
彼女曰く、相手が言語を解する限り、言葉には相応の反応行動を取ってしまうという。そして彼女はその膨大な反応パターンを解析することで、相手が嘘を吐いているかどうかは勿論……相手が何か「不都合」を抱えているかすらも見抜いてしまうのだ。
リアクションはコンマにも満たない僅かな間隙で行われる。レイジィは動体視力が良い方では無いが、見たものを勝手に脳みそが処理してしまうのか、反自然的なまでに「それ」を見抜いてしまうらしい。
極め方に差はあれど、これは占術師なども使うコールドリーディングという技術に似ているものだろうか。
いずれにせよ、どうして読み取れるのか自分でも分かっていないが、とにかく分かるのだ。それを天才と言わずして何と言おうか。
声色、呼吸、表情筋の動き、ボディランゲージ。
ほんの僅かな目配せ一つだけでも、レイジィは初対面の相手の深淵すら覗き込む。彼女が人嫌いなのはこの「超能力」とも呼べる、魔法とは異なる力にも起因している。
さっきの私の褒め言葉すら、この子は読み取っているだろう。だから本音で話さなくて良いのだ。言ってスカッとすることを言っておけば、あとはレイジィが勝手に本音を読んでくれる。
「……」
「『レイジィは、どうして私にこの技術のことを教えたのでしょうか?』」
「お見通しですか」
「それは簡単なことだよ。君が信じられないほど、全てに怯えていたからだ。皆は君のことを、仕事の鬼だとか奴隷だとか、そういう風に思ってたみたいだけど……ボクから見ればキミは単なる人間不信の仔犬さ。甘噛みすらしない人にこれを教えたって、なんの不都合もない」
「随分ハッキリ言ってくれますね」
「いや、むしろボクにはそれが信頼できたんだよ。……私だけを怖がっていない。私以外も全員怖がってる。それは私を、他の奴と同じように扱ってくれてるってことだろう?」
「……ではインヘルは?」
「君と真逆かな。君は自分以外の全てに怯えている。そしてインヘルくんは――何にも怯えていない。あの子、心と言葉に一切の乖離が無いんだ。珍しいどころの騒ぎじゃないよ全く。口は悪いけど全部本心なんだろうね。……要するに、君たち2人ともボクを変に特別視してないんだ。だからこのチームはとても居心地が良い。ボクが働かないでも良いほどの優秀な労働者も揃ってるし」
「最後のが本音って事だけは分かりましたよ」
「あはははっ! 全部本音だよ。ってな訳で、ちょっと出掛けてくるから仕事は任せた!」
「あ、ちょっ――」
さっきからそわそわしていたのは、早く会話を切り上げて自分の用事を済ませたかったからなのだろう。私の用件を済ますと、彼女はすぐさま魔法で何処かへと飛んでいってしまった。
最近、妙に外出……というかテレポートが多いような気がするが、何か悪い事でもやっているのだろうか。まさか仕事?
「……いや、それだけは無いですね」
そろそろインヘルが長期の多重依頼を終え、此処へ帰ってくるという知らせがあった。そしてそんな依頼中にも、また依頼が溜まり始めている。
魔獣をとにかく狩り続けたいインヘルだから文句は言わないと思うが、その負担は限りないだろう。……主にインヘルではなくラストラリーちゃんの方が。
こんな現状もあり、私は次に2人が帰還した時、ハーティと合流させようと思っている。楼員の命令通り彼女たちで仕事を分散することが出来れば、ラストラリーちゃんの負担も相対的に減るだろう。
チームの儲けが増えるのも悪いことじゃない。全然悪いことじゃない。安定経営最高だ。余裕ってのはいつだってまず懐から生まれてくる。
この依頼がいつ途切れるかは分からないので、今のうちにたんと稼いでもらおう。裏方の私もキツいが、嬉しい悲鳴というやつだ。
「溜まってる依頼でも確認しますか」
面白い、続きが楽しみ、と少しでも思ってくだされば、是非貴方の本棚に入れていただけると幸いです。ブックマーク、作品評価などお待ちしてます。




