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泣かない魔女の絢爛な葬送  作者: 模範的市民
幕間:好奇なる魔弾
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12. Newbie : Hypnotized Insane

 規律というのは、とりわけ「上司の言うことを聞く」ということだ。私は、自分より立場が上の者は正しいと思っている。もちろん盲目的にではない。

 彼らの経験的知識は豊かであり、私は若造で、そしてそれを自覚しているからだ。

 インヘルのように彼らのそれを「古臭い考え」だと傲慢に切り捨てるべくもなければ、艱難汝を玉にすという言葉もある通り、年長者の考え方はむしろ洗練されている。

 特に上層部も上層部、楼員(パトロン)たちの意図は、従っておきたいというのが、私の立派な奴隷根性だ。


「遠路遥々のご足労に感謝します。ジョルダーニ・ピッグペン様。来るなら事前に連絡して頂ければ、迎える準備出来たのですが」

「ふん、構わんよ。インヘル・カーネイションが居なければ我慢できる」

「……うちのチームメンバーが何か? 始末書ならしっかり書いたと言っていましたが」

「少しばかり因縁が……いや、まあいい。今日来たのは人員の補填だ。以前より、4人目の募集をかけておっただろう。私が推薦する魔法使いを1名呼んで来た」

「それは……ジョルダーニ様の手を煩わせる程のことでは無いのでは?」

「チームへの加入条件を厳しくしすぎだ。あれでは未来永劫集まらんぞ。……しかし君の功勲は申し分ない。我々としても援助を考えていた」


 コンコンと、表に繋がる窓を拳で軽く叩くような音が聞こえた。ふとそちらに視線を移すと、物珍しそうに部屋の中を眺める女が居る。

 日に焼けたとはまた違う、浅黒い肌。色素を感じさせないアルビノのような短髪。

 私と同じくらいの風采をした、何の虚飾もない純真な、それでいて鳥のように見開いた目をしている、ひとことで言えば「活発そう」な女性だ。彼女は私と目が合うや、少し照れ臭そうに笑った。

 窓を開けて欲しいと頼んでいるように感じた私は彼女のそばへ近寄り、鍵を開けると、嬉しそうにぴょんと跳ねて、土足のまま部屋の中へと飛び込む。


「いんやぁ、都会ってのは扉が狭ぇんですねー! 『こんぱくと』ってヤツですか? あっ、入室の作法って違うんですかね! だとしたら申し訳ないです!」

「……この方は?」

「本日付で君のチームに入る――」

「ハートショット・オレアンドであります! ハーティと呼んでください!」


 朗らかなその笑顔に、底知れない不安を抱いたのは、きっと気のせいではないだろう。彼女は普通じゃない。まずその立ち姿だ。

 芯を一本通したように伸びた背筋と、窓を飛び越えた時の身のこなし……まず間違いなく、後方で支援をする、レイジィのようなタイプとは違うだろう。

 私は自分でも、人の能力を見る目は有ると思っている。でなければインヘルやレイジィなどという問題児をチームに含める理由がない。そして、彼女からも、あの問題児たちと同様の匂いがしていた。しかし何より最も気になっているのが――


「えっと、取り敢えず、ここ土足厳禁です。そこも扉じゃないですよ」

「うぇぇ!? す、すみません! ()()から初めて出たもので! こっち……ですかね?」


 どれだけ退廃的な地元なんだろうか。これは天然……っぽいな。って、そこも扉じゃないですよ。こら、靴を窓から捨てようとしないで。メッ。不法投棄メッ。


「……抜けてそうな子ですね、ジョルダーニ様」

「常識は色々と知らぬが、仕事に関してはプロだよ。戦闘力検査は『カテゴリーA』で通った。実戦経験もある。知能はインコとさして変わらんかったが」

「鳥頭じゃないですか」

「あっ、分かりますよ私! それ悪口ってこと!」

「そうですか。偉いですね」

「えっ! 偉い? 私、偉いですか!? えへへ!」

「どんな育児放棄を受ければこんな無垢な生物が出来上がるんです?」

「それでもプロだ」

「プロであることを補って余りある欠点では……?」


 しかし、カテゴリーAか……私がカテゴリーBで、うちのエースでもあるインヘルがカテゴリーCと考えると、戦闘面では即戦力だろう。何より実戦経験というのは魅力的だ。

 「恐慌慣れ」は実戦でなければ身に付かない。御多分に洩れず、私も初めて魔獣と対峙した時は、討伐できるだけの実力が備わっていたというのに、恐怖で何も出来なかった。

 死が埒外でない場所にある……これほど極限のストレスに曝されるような状況は、殺し合いの場にしか存在しない。


 その点、インヘルが唯一無二なのは、頭のネジが外れてるのか、全く恐怖を感じないところだ。どんな重圧にも普段着で対応してしまう。


 まあインヘルは何年か前の戦闘試験で怠けたらしく、そのせいでカテゴライズは残念な結果になっているのだが、私の見立てでは彼女もカテゴリーAの実力があるだろう。そんな筆頭と互角ともなると、使えそうな人材だ。


 ちなみに、レイジィの戦闘力はカテゴリーFだ。

 戦おうと思ったら野良犬で死にかけるくらい? まあ、彼女の目を見張る点はブレインだから仕方がないと言えばそうなのだが、せめて召喚魔法ばかりに頼らないよう心掛け、虚弱と運動不足は解消するような努力はして欲しい所存だ。


「……まあ、それはそれとして。現在はどういう訳かインヘルに対しての指名依頼がとても多く、なかなか仕事を回せないと思うのですが」

「ならば彼女の補助として付けてやるといい。実戦経験があるとはいえ、ハートショットくんはまだ青い」


 即応の返事。ハナからそのつもりでジョルダーニ様はハーティを派遣したのだろう。

 私とて馬鹿ではない。この人材紹介には、間違いなく何か裏があることは分かる。インヘルへの依頼が急に増えたことから始まり、私たちのチームが得をし過ぎるのだ。裏で何かが動いているのだろう。


 カテゴリーAはとてもじゃないが遊ばせておく人材ではない。それを秘蔵していて、尚且つ私のチームに紹介してくるという事は……このハーティという女、誰かの息がかかってるか、それを知らされず無自覚に利用されているか、双方の可能性を考慮しておいた方がいい。


 と、いうことは……楼員の方々には何か狙いがあり、それを暗に遂行するのが私の使命となる。楼員が魔法の才に恵まれてはいないというのに権威を保っているのは、ひとえに賢く、加えて権力を持っているからだ。


 部下のためにハイどうぞ、なんてチャリティーじゃない。相利か、或いは全体への利か、少なくともあの老獪たちは慈善事業でこんな事はしないだろう。


 そしてその意図を知るべくもない私がやるべきことは――


「承りました」


 従属。隷属。これに限る。そもそもこの世に私のコントロールできないものなんて無数にある。楼員たちの思惑もその一つだ。

 そして、私はそんな出来事と直面した時、長いものに巻かれることにしている。思考放棄だ。察することすらキツいものは、どう足掻いても変えられない。

 ……どうにかして、この思考をレイジィに押し付けられないだろうか。いや、彼女は興味があることしか進んでやらない。無理だろうな。


 また私の仕事が増える。人事、経理、広報、営業、接待……そろそろ過労死するんじゃないのか私。気付けばコーヒーの摂取量が増え、目の下のクマが濃くなっていく。

 ……私の選んだ道なのだから仕方ないか。代わりにと言っては何だが戦闘面ではインヘルに、調査面ではレイジィに、絶大な信頼を置かせてもらおう。その信頼がハーティの加入によってより盤石になるのなら、それが私への利益にもなる。


 レールの上に沿って進めば失敗は無い。万事順調、完璧なプランニング。私が過労でげっそりすることを除けば。


「ところで、新参(ニュービー)を紹介しておいて何だが……パラノイヤくん。君の連盟への貢献度は素晴らしい。どうだね? この際チームリーダーは誰かに任せて、他のベテランの中でというのは」

「……素晴らしい提案ですが、申し訳ありません」

「まだ()()を引きずっているのかね」

「私が求めているのは保証です。例えひとつの側面であったとしても、その一点に関して、誰よりも強く保証してくれる。このチームにはそんな仲間が居ます」


 ある面でポンコツだろうが、出不精だろうが、イカれていようが、私はひとつを極めた者を求めている。結局は「私が」怖いのだ。周りを、私よりも何かに極端に秀でた者で固めなければ、私はもう何も信頼ができない。


 私は臆病なのだ。仲間云々言っといて、結局は自分の為さ。


 お陰様で癖の強い同僚が2人だけ揃ってしまったが、私はこの現状が何よりも安心できる。どれだけ過酷な雑務をこなしまくってもお釣りが来るほどに。


「ああもちろん、他にもあの2人並に狂ってる方が居るのならチームに歓迎します。是非とも紹介を」

「ふははっ、大した営業根性だな。……ハートショットくんは期待に添えそうかね」

「それは仕事ぶりを見てからですね。インヘルについて行けたら、まずは大丈夫でしょう」

「頑張ります! 応援よろしくお願いします!」


 彼女は屈託のない笑顔で、元気良く返事をした。

 楼員たちの目的は何なのだろう。何か狙いがあるとすれば、もっと知能のある奴を送るはずだが……この極度のバカアピールはブラフか?

 ともかく、私がまだ僅かな不安を無視するだけの時間を与えないまま、ジョルダーニ様は連盟本部へと帰還なされた。

ぽつりぽつりと書いているのにブックマークをして下さる方には毎度感謝しております。是非とも皆様の本棚に入れていただけると幸いです。

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