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泣かない魔女の絢爛な葬送  作者: 模範的市民
幕間:好奇なる魔弾
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11.Tiny Evil

 ボクは知っている。結局のところ、意識して怠けるのがいちばんいいのだと。わりかし「暇」というのは苦痛だ。何もやる事がないからつまらないとか、そういう理由ではなく、何もしていないことに罪悪を感じてしまうのが苦痛なのである。

 ボクらの人生はいつも義務というやつによって窮屈にされていて、赤ん坊のときくらいしか、全てを他人任せにはできない。

 「こんちきしょう、義務め、直近の未来程度が、私の現在を手狭にしやがって!」という感じかな。だからと言うべきか、意識して怠けることで、その罪悪を感じないように心がけるのだ。


 やりたいことだけやればいい。そう思うことによって、犠牲になる今日に対して、申し訳ないと感じてしまわないようにするのがボクの信条である。はあ、やるべき事がないとは、何と幸せな事だろう。


 ということで、いまボクはやるべき事ではなく、やりたい事のためにふらふらと彷徨っている。今の興味はインヘルくんが出会ったというフレデリカ・グラヤノ・フルボディについてだ。


 なるほど、後学のためとはこういう事を言うのだろう。かくいうボクもフレデリカ様のことを一度は理解しようとしてみた経験がある。


 しかし、その試みは簡単に手詰まりになった。こういうのはいずれぽろりと手掛かりが手に入るということもあるので後回しにしていたのだが、やはりその言説というのは多少なりとも正しいらしく、湧いて出たようにしてまた機会というものを手に入れた。

 インヘルくんは割と必死なんだろうけど、ボクとしては、また手詰まりになったらすっと諦めてしまおうと思っている。だってボクの人生には関係ないんだもーん。他人の為に労力を使う気なんてさらさら無いのです。


 ということでボクが足を運んだのは、王立魔法図書館の中にある、禁書庫と呼ばれる領域だ。もちろん閲覧許可とかは貰ってないので、古より伝わりしコソ泥スタイルである。

 ただし、ボクのコソ泥スタイルは一味違う。無属性魔法の一種、召喚魔法を扱う事が出来るボクに死角はない。


 自分を禁書庫に召喚することで、セキュリティを完全にパス。この魔法は一度行った場所や、接触した人物の元へと瞬時にモノを送り届ける事が出来るのだ。

 ちなみに最初の侵入時は嘘泣きをすることで許してもらった。仏の顔は三度までらしいが、ボクにその重要な「一度目」を向けてしまったのが運の尽きだ。善意につけ込むのは得意なのでね。


 お目当ての歴史書らしき表紙を何冊か手に取ると、誰にも見つからないように今度はチームハウスへと飛ぶ。これで返却の時は本棚に直接戻してやればよい。便利な郵送手段だ。まさにものぐさなボクに相応しい魔法だろう。


「(……『魔女』の歴史。今のボクたちの常識では、魔女とは罪を犯した魔法使いの総称だけど、その言葉の意味はどこで変遷したのだろう)」


◆  ◆  ◆


 ――インヘルくんたちが魔獣狩りに出てから約1ヶ月が経過する。


 面白い事が分かった。

 魔女について明確な記録が無いのだ。


 何処を確認しようと、ボクの蔵書を全部引っ張り出そうと、「魔女」の意味については、まるで何かの意図が働いているかのように、言葉の意味の変遷を確認できない。むしろ意図すら感じてしまうほどに。

 いったいどの時代から魔女が現代の意味に変わったのか、それを探る為の手掛かりというものが残されていないのだ。趣味と道楽で詰まった記憶の中を探り出そうとしてみても、類似する知識が見当たらない。


 これは……ふふっ、燃えるじゃないか。思えば初めてだな。まるで歴史に中指を立てるような真似は。しかし、まだ手詰まりという感は無い。魔女の言葉の意味については見当たらなかったが、禁書の中に興味深い記述があった。それは古代文字で書かれ、おまけに強力な「保存」の魔法がかけられている古書だった。


 ()()()()()。これは新発見だ。フレデリカ様と英傑……すなわち楼員たちの遠い祖先が競り合ったという、いわば両名の因縁の元となる出来事だろう。

 楼員の祖先と言えば、子供が読む英雄譚としても語られるほどの偉大な魔法使いたちである。そんな彼らとフレデリカ様がいざこざを起こしたというのは、一部の魔法使いの間で、まことしやかな噂話程度に語られているのだが、どうやらそれは実在したらしい。


 時はおよそ2000年前。フレデリカ様は、どうやら「ある場所」への不可侵を誓っていた国を二つほど滅ぼしたらしい。その二国と同盟関係にあった我が国は、彼女の悪行に対して一念発起。選りすぐりの魔法使い……すなわち英傑13名を招集し、フレデリカ討伐隊を発足させた。


 結果は……国の力を誇示したい書き方をしているであろうこの本でも、ここまで酷い文体で描くということは、あえなく惨敗といった様子だろう。脱兎の如き大敗か。


 マジ? 数ページで国二つ滅ぼす奴なんている?


「(――星霜の魔女、その無比なる魔力で、本陣へ凶星を墜落せしむる。その僅か一撃するところにより、当方は撤退を余儀なくされた。……凶星ってのは隕石かな。フレデリカ様もフレデリカ様だけど、英傑たちも隕石で死人出さなかったの? 改めてとんでもない人たち)」


 とまあ、彼らの凄まじい実力を再確認しながらではあるが、特にボクが気になった記述があった。フレデリカ様が不可侵を約束していた「ある場所」とは、何処なのだろう。

 次の頁にそれが記された地図を見つけると、ボクは手早く座標を確認した。この地形は見た事がある。現在はうちの国の領土内だが、禁足地とされている森林の中だ。


 この国の領土になっているということは、フレデリカ様から誰かがその場所を奪った?

 いやいやまさか。素直に裏を考えるとしたら、元はフレデリカ様が滅ぼした国の領土だったが、今度はうちの国が管理を任されているということになるだろう。結局不可侵は存続しており、今度そこに不埒者が侵入でもしたら、この国が滅ぼされる……ええ? ピンチじゃん。いつの間にか国家崩壊の危機?


 成程、どおりであの場所の警備は異常なまでに厳重なのか。

 「魔力による災害が発生しているため立ち入り禁止です」とかいうカバーストーリーを掲げながら、実際はその奥に誰も入らないように厳戒態勢を敷いているということだろう。


「(でも、2000年前の古代では、フレデリカ様は『星霜の魔女』と呼ばれていた……これは単に犯罪を犯した魔法使いという枠で収まる言葉じゃないだろうね。つまり、2000年前は少なくとも、魔女という言葉は本来の意味で使われていた……うん。今度はこの時代の禁書を漁ってみようかな)」


 もしくは……実地踏査、とか。

 ははっ。すっと諦めるとか言ってしまって悪かったよ、インヘルくん。どうやらボクの好奇心は、とんでもない領域に足を突っ込んでしまうかもしれない。ボクが足を突っ込みたいんだ。


 ともなれば、益々気になるなあ。君とラストラリーちゃんは、いったいどんな存在なんだい? ひょっとするとボクの退屈を簡単に壊しちゃうくらいの、歴史上の重要人物だったりする?


 いずれにせよ、君たちが魔獣跋扈する人間退廃のこの時代を拓く、重要なピースであることには、尚更の確信を持ってしまったよ。


 果たしてボクの好奇心は、猫を殺すほどの毒薬になるのかな。藪を突いて蛇を出すのかな。今はそれすらも楽しみで仕方がない。

 さて、君はそろそろ、溜まった仕事を一旦消化した頃だろう。ボクの調査結果を送るよ。ただ、暫くは会えなさそうだね。


 久方ぶりだ。ボクが知らない地まで遠出を決意するなんて。

 ……意外と危ない橋だろう。何せ、秘中の秘を暴く「悪」を、自らの意思で敢行するのだから。

面白いと思ったら、ブックマークや作品評価で皆さんの本棚に入れてくださると幸いです。

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