僕の能力は……?
「みんな、すごかったね!
特に最後の方。オルディンが狼たちを一気に引き受けて、そこにポップルの雷の魔法を落として一気に倒してたところ。
もう、びっくりしたよ。オルディンも一緒にやられちゃったかと思ったけどぴんぴんしてるのも凄い!」
「あれはリリアナ様の魔法防御結界のお陰です」
謙遜するオルディン。でも、そうだとしてもやはりすごい事にはかわりない。
「オルディンもリリアナもすごいよ。
頼もしい仲間に囲まれて僕は嬉しいよ」
初めての魔物たちとの戦闘に僕は少し興奮していた。オルディンやリリアナの回りをくるくると小躍りする。ふと視線を治療をしているマドーラへと向けた。
マドーラがシャンリーの腕に手をかざすとみるみる傷が塞がっていく。ファンタジー世界では常識な治療の魔法も、間近で見ると本当にすごい。
「すごい!」
「これはただの《治癒》です。ほんの初歩の魔法ですから大したことはありませんわ」
マドーラは少し顔を赤らめて答えた。
「そうかなぁ。でも、あんなにたくさんの魔族相手に簡単には倒しちゃうんだから、みんなすごいと思うよ」
「ありゃ、魔族じゃねーよ」
治療を終えたシャンリーが腕の感触を確かめながら言った。なんだろうか、少し不機嫌なようだ。怪我したのが気に入らないのだろうか。確かに、腕の皮がべろべろにめくれて血がぼとぼと出ていたし、機嫌が悪くなっても当然だろう。それより、魔族じゃないって言葉が気になった。
「魔族じゃないってどういう意味?」
「あれは魔獣。知能も低いし、魔力もない。図体はでかいがただの獣さね」
「そうです。本当の魔族は知能が高く、魔法も使ってきます。そして、狡猾で残酷。油断ならない相手です」
「そうなんだ……」
後を継いだリリアナの説明に僕は言葉を失う。お腹の中にずっしりと冷たく重い金属の塊を押し込まれたような感覚を覚える。
「まっ、この先の魔の森に入れば、嫌でも出会うことになるさ。魔族にね」
シャンリーは顎をしゃくり、僕たちの行き先を示した。鬱蒼とした森が目の前に見えた。
魔の森
僕はごくりと唾を飲み込んだ。出発する時に聞いていた森だ。目的地である魔王城は目の前に見える魔の森の中心にある。だから、どうしたって僕らは森の中に踏み込まなければならないのだ。そして、あの森には様々な魔族たちが棲息しているらしい。
さっきの騒ぎを聞きつけて魔族のパトロールが来る前に出発しましょう、とピクル様が言った。
「危ないですから、英雄様は私のそばから離れないでくださいね」
森に分け入る直前、リリアナが囁いた。
腕に微かにリリアナの胸が当たった。
うわっ、と思わず声が出た。
「どうされました?」
「い、いや。き、木の根っ子につまずきそうになったんだよ!」
僕は慌ててごまかす。
木の根っ子ですか?、とリリアナは不思議そうに地面を見た。間の悪い事に足を引っかけそうな根っ子なんてどこにもなかった。
「えっと!」
僕はなんとか誤魔化そうと言い訳を考える。
「僕にもさ、みんなみたいな事はできないのかな?
僕って大勇者とか言われているけど、なんにもできなくて……
なんて言うのかな、みんなの足手まといみたいで、すごく嫌なんだ」
「足手まといなんてとんでもないですわ!
大勇者様はいるだけで良いのです」
リリアナはふるふると首を横に振るとそう言った。そうは言ってくれたけれど、やはり、釈然としない。
この役立たずがっ!
頭の中で主任の声が響いた。その声を振り払う。
「そう言ってくれるのはありがたいけど、なんとか自分の力を知りたいんだ。それに、このまま、魔王と会うまで分からないってのもみんな不安だと思うよ。
ああ、みんなが持っている技能を知る方法とかないのかな」
「ないわけではありません」
「えっ? そうなの?」
僕は思わず聞き返す。
「はい。《審判の眼》を使えば、その人の能力を知ることができます」
「だったら、それで僕の能力を見てよ!
そうすれば魔王と戦う時に作戦を立てやすいじゃないか」
「そんな必要はありません」
「えっ? なんで? なんで、必要ないの?」
「あっ、いえ。その、実は既に《審判の眼》は使っているのです。
大勇者様が召喚された時にどこか怪我などをされていないか調べるために使っております」
「そ、そうなんだ。それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。で、結果はどうだったの?
僕はどんな能力を持っていたの?」
「……なにも」
「へっ? なにも……ってどういう意味」
「そのままの意味です。なにも持っていませんでした」
「あー、じゃあステータスが片寄ってるとか。防御力か敏捷力が極端に高いとか……」
リリアナはすまなさそうに首を横に振り、普通です、と言った。
「大勇者様の力や素早さは普通の一般的な人のものとほぼ同じでした」
つまり、僕は村人Aと言うことだ。
やあ、ここは○○村だよ
こんにちは
やあ、ここは○○村だよ
こんにち……
昔はまったロールプレイングゲームの村人のセリフが頭の中で繰り返される。
「そうなんだ……」
「すみません」
リリアナに謝られて、僕は余計気まずい思いになった。一体、こんな事で僕は本当に魔王を倒せるのだろうか?
僕は空を見上げる。
しかし、空は背の高い木の枝に遮られ、見ることができなかった。
僕はみんなの仲間として、なにがなんでも役に立ちたいと心の底から思った。
2021/03/21 初稿