襲撃!
「どりゃあ!」
気合いとともにガイナックが巨大な斧を振り下ろす。大きな熊のような生き物が断末魔の咆哮をあげながら地面に倒れた。普通の熊ではないのは4本の腕を見れば一目瞭然だ。
そのすぐ横ではシャンリーが風のような早さで、これまた大きな狼の群れの中を走り回っていた。
「はちゃぁ、りゃりゃりゃ!」
ただ、走り回っているだけではない、シャンリーが通り過ぎると狼たちが風に吹かれた木の葉のように吹き飛び、昏倒していく。
熊みたいなのはヨツデベアー、狼はダイアウルフと呼ばれているらしい。
召喚の洞窟から魔王城へ向かい始めた僕らは半日もしないうちに、こいつらの襲撃にあった。
「うわっ」
他の奴より一回り大きな狼に飛びかかられたシャンリーは声をあげた。なんとか腕をクロスして攻撃を凌ぐが、勢いまでは殺せず数メートル後ろに弾かれる。両腕の皮膚が破れ、激しく流血する。
三匹の狼が同時にシャンリーに襲いかかった。
「《小さな魔法の矢》!」
ギャン
クゥン
グワン
三本の光の矢が狼たちを空中で打ち落とした。剣と盾を持ち、甲冑に身を包んだオルディンが狼とシャンリーとの間に割って入った。
「シャンリー、下がれ。
ここは私とピクル殿で支える。
お前は治療してもらえ」
オルディンは剣を天上へ掲げると叫んだ。
「《八面玲瓏》!
《難攻不落》!」
見た目に何かが変わったわけではない。ただ聞くところによるとオルディンやガイナック、シャンリーは技能という身体能力を上げる能力を持っているそうだ。オルディンのは大地の技と言う防御に特化した技らしい。
八面玲瓏は全ステータスの能力を少し上げ、難攻不落は防御力を大きく上げる。
「こっちだ!
《夢幻泡影》」
狼たちの視線がオルディンに集中する。あれは、どうやらターゲット変更の技能のようだ。
「ガイナックさん、防御に回ってください。
ポップルの範囲魔法で一気に決めます。
《光の守りの福音》」
キラキラした光の渦がリリアナの手から放たれオルディンの体を包んだ。次の瞬間、10体を越える狼が一斉にオルディンに襲いかかった。オルディンは狼たちの攻撃を盾と剣で必死に防ぐ。頑張っているがそんなに長い時間耐えれるとはとても思えない。助けに行かないと、と言おうとしたその時、ポップルが叫んだ。
「《雷竜の咆哮!》」
凄まじい落雷がオルディンたちに襲いかかった。もうもうと煙が立ち上ぼり、周囲に肉の焦げる臭いが立ち込めた。
「オルディンがっ!」
僕は慌てて駆け寄ろうとしたが、リリアナに止められた。
「危ないですから」
「危ないのはオルディンでしょ!」
「オルディンは大丈夫です。私の結界が守ってくれますから」
リリアナの言う通りだった。薄れる煙の中、オルディンの姿が浮かび上がった。黒焦げになったダイアウルフの群れの中、1人平然としていた。
2021/03/21 初稿