召喚
気がつくとなにか冷たく固いところに寝かされていた。
「成功です」と言う声が聞こえた。
微かにエコーがかかった不思議な声音に、重い瞼を開くと目に飛び込んできたのは見知らぬ女の顔だった。
金髪碧眼。
まだあどけない少女の面影のある美女が心配そうな表情で覗きこんでいた。
「大丈夫ですか?
私の声が聞こえますか?」
どうみても外国の人の顔立ちなのに発せられる言葉は完璧な日本語だった。
僕は……
返事をしようとして盛大にむせた。
「だ、大丈夫ですか?
無理をしないでください」
その名前も知らない女の人はあわてて僕を抱き起こすと優しく背中をさすってくれた。さらさらした金髪が僕の頬をくすぐるように撫でた。
少し良い匂いがした。
まるで聖女様だ、と思った。
僕は涙をためながら、何度もコクコクと首を縦にふる。きっと端から見ていると間抜けな様子だと思ったけれど、聖女様は嬉しそうな笑みを浮かべると柔らかな声で言った。
「ああ、良かった。私の言葉が通じるのですね。
皆さん! 召喚は成功しました!!」
そこで僕は初めて、彼女が一人ではないことに気づいた。
彼女の背後には見慣れぬ出で立ちの男が二人ほど立っていた。やはり外国の人のような風貌だった。そんな人たちがみんながみんな無言で僕のほうをじっと見ていた。正直に言うと凄く怖かった。思わず体が硬くなった。それを敏感に感じ取ったのか、聖女様が再び僕の方へと顔を向けた。
そして、再び花が綻ぶような笑みを浮かべる。
「安心してください、大勇者様。
みんな、あなた様の忠実な部下でございます」
「大勇者……? 部下……?
一体何を言っているの?」
聖女様の言葉に戸惑い、呟く。すると、聖女様は胸に手を当て、片膝をついて恭しく頭を下げた。
「ようこそ! リグンシャラへ!!
お初にお目にかかります、大勇者様。
わたくしめはリリアナと申します。
あなた様にお仕えし、守護する者です」
どぎまぎしながら、慌てて正座になる。こういう時、日本人はなんで正座をしたくなるのか謎だ。でも、この時にはそんなこと微塵も疑問に思わなかった。もっと頭に引っ掛かる事が山ほどあったからだ。
「えっ? わっ!?
こ、こちらこそ……どうも……
って言うか、大勇者?ってなに?」
僕の言葉にリリアナは一瞬驚いたように笑いだした。別にバカにされた笑いという感じではなく、見ていると心が和むようなほがらかな笑いかただった。
「勿論、あなた様のことですわ。
あなた様は、大勇者としてこの地、リグンシャラに召喚されたのです!」
2021/03/20