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スタンピード3

翌朝、街がザワザワしているのに気がついて目を覚ます。


「んん...もう朝か」


窓からのぞかせる太陽の光が顔あたり起き上がる。下にはシーツ、横には柔らかい胸。気持ちのいい朝である。


「ん?胸?」


自分がなにか柔らかいものを揉んでいることを感じて恐る恐る自分の上にかかっている掛け布団をめくる。そこに居たのはやはりと言うべきかリアだった。


「ふふっギルぅそんなことダメだよぉ」


こいつはなんの夢を見ているのだか、だらしのない寝顔と発した言葉から大体予想はできるが今日はスタンピードが来る日だ、これよりさらに寝ることは出来ない。


「おい、リア起きろ朝だぞ」


揺すって起こそうとすると、リアがガバッと抱きついてきた。


「お、おい!寝ぼけるなって!」


抱きついてきたリアを引き剥がして、ほおペシペシ叩く。すると


「んんっ、ふぁぁぁ、おはようギルいい朝だね」


ペシッ


魔物の大群が押し寄せてくるのにいい朝と言っているリアに思わずチョップを入れてしまった。


「あいたっ、そんな痛くないけど」


「お前なぁ今日はスタンピードだそ?いい朝って....」


俺はそう言ったがリアみたいな能天気なやつが一人いれば戦いの中でもリラックスができるのかもしれないと思っていた。リアに限っては能天気ではなく興味が無いだけなのだが。


「ほら、行くぞ」


寝起きで目がまだしっかり空いていないリアに手を差し伸べて立ち上がらせる。リアを連れて1階に降りると昨日居た冒険者たちはもう居なくて俺たちだけになっていた。そんな静かになった宿屋を出てギルドの方に歩き出す。ギルドの前には人だかりができていて今日の作戦を前の壇上で話しているカノンの姿があった。


「今日は数年に1度の魔物が大量に街に攻めてくるスタンピードの日だ!冒険者たち!そして街を守る衛兵たちよ!全力を持って魔物たちを殲滅せよ!」


「「「「「オォォォォォォォ!!!!!!」」」」」


カノンの発言が冒険者や衛兵たちの士気を上げる。


「へぇ、カノンっていつもはあんなにのほほんとしてるのにさすがギルドマスター、一大事の時はしっかりとしてるもんだな」


ギルドで人の個人情報を盗み見るようなやつとは思えないほどの迫力があった。そんなことを思っていると、カノンは作戦を言い始める。


「今回のスタンピードの主格はオークロードキングということだ。オークロードキングはSSランクでも正直きつい相手だ。故にオークロードキングには私が1人で戦う。スタンピードは主格を殺すか魔物全体を殲滅するかの二つに一つだ。だから君たちには、街へなだれ込んでくる魔物の大群を相手してもらいたい」


「そんぐらいいいってことよォ!」「俺たちにかかればそんぐらいへでもねぇぜ!」そういった声が周りから上がり波紋のように拡がって冒険者ギルドの前は意気込んでいるもの達が数百人はいる。どいつもこいつもやる気で満ち溢れている。そして冒険者たちが待ちの外への移動を開始する。


「なるほどな、カノンにはしっかりとした実力と信頼があるんだな。いいギルドマスターじゃないか」


「そうですね。ここまで士気を上げるのは普通の人じゃ出来ないですよ」


リアがカノンを見て「やりますねぇ〜」と言ったような目でみていた。


「リア、わかっていると思うが昨日言った....」


「うん、だいじょぶだよ。途中でカノンさんの応援に行くんだよね」


わかってるよと言いたげなリアの耳元で「ありがとう」と言って冒険者たちの後に続いていく。後ろでリアが顔を真っ赤にしながらこちらについてくる。街の外に出ると、平原の奥、森の中から木が倒れるような音が近づいてきていた。


「これはすぐにでも魔物が攻めてくるぞ.....」


俺がそう言った直後に森から無数のゴブリンやオーク、オーガなどの下級の魔物の中にはハイオークや、ゴブリンロードもいるがこの数には些細なことだ。その数1万以上。


「来るぞ!ここにいる全員命を賭して戦う、それぐらいの気持ちで挑め!いくぞ!!」


カノンの号令とともに冒険者たちが魔物に向かって動き出す。


「「「「「うおぉぉぉぉぉお!!!」」」」」


「「「「「グルグァァァア!!!」」」」」


冒険者たちと魔物たちが激突する。


「よし、俺たちも行くぞ!」


「うん!」


「纏雷!赤雷!」


バチッバリバリィッ


俺は黄色い電撃と赤い電撃を体に纏う。


「かっこいいなぁ♡はぁはぁ」


「おいこらリア、こんな時に発情するんじゃない」


電撃をまとった俺を見て頬を赤らめているリア。状況を分かっていないのだろうか?


「そのぉ、ね?美味しいお肉を見るとヨダレが出るじゃん?それと同じだよ!かっこよくて強い者を見て発情しない方がおかしいよ!」


「開き直りやがった....まぁ、俺はもうちょい奥に行って魔物を相手する。リアはここを頼む」


「うん、行ってらっしゃい」


「あぁ!」


俺は足に力を入れて駆け出す。すると平原に赤と黄色の交じった電撃が一直線に現れる。電撃が通った所、その辺りだけ魔物が居なくなっていた。「なんだ!いまのは!」「黄色と赤の雷が通ったぞ!」「ま、魔物が!」

そんな声が周りから上がり俺はその声を後ろに奥へ奥へと進んでいく3秒もしないうちに森の中に突入する。


「カノンはどこに行った?そろそろオークロードキングとの先頭に入っているはずなんだが」


戦闘が始まって15分はたっている。SSランクの人間の足なら15分も走れば戦場を全て走破出来るだろう。と、そんなことを考えていると森の奥の方で爆発が起こる。


「そっちか!」


俺は全速力で爆発のあった方へ駆ける。爆発付近に駆けつけると血の匂いが鼻の奥にささる。


「すごい、戦闘の後だな。何体の魔物を殺してんだよ」


もう少し走っていると剣と剣がぶつかる音が聞こえてくる。俺は急いで音のする方へ駆けつけるとそこには満身創痍のカノンがいた。カノンは血だらけでその場にたっていた。剣を掴む力はないらしく剣が地面に落ちている。カノンの目の前には大剣を持った4メートルぐらいのオークロードキングが2()()立っている。


「あはは....流石に2体はきつかったなぁー....」


「そうだな、2体は予想してなかったな」


「えっ?」


俺がカノンに声をかけると、カノンがすっとんきょんな声をあげる。


「な、なんでここにいるの!君は街で魔物たちと戦っているはず!」


「あぁ、ちょっと心配でな。魔物はこっちに来る途中に倒してきたわ」


「心配はいいから君は逃げるんだ!僕で勝てないんだよ?君が勝てるわけないじゃん!」


カノンを心配してきたのに逆に心配される始末。


「誰が勝てないだ、勝てるに決まってんだろ?」


俺はそう言いきってカノンを見る。カノンは心配と、ちょっとの期待を孕んだ目でこちらを見ていた。何しろカノンに見せた偽造ステータスはオール1、偽装してあったとしても自分より強いはずがないと思うのが普通だろう。


「よし、行くぞ肉だるま、死ぬ覚悟は出来てるか?」


「「グォォォォオ!!」」


俺がオークロードキングにそう言うとオークロードキングもこちらを威嚇してか声を上げる。


「纏雷、赤雷、限界突破ッ!」


カノンのところに駆けつけた時と同じように黄色と赤色の雷を体に纏いさらに自分のステータスに極補正をかける。そして次に発動するスキルの名前を呼ぶ。


「神器生成レーヴァテイン!!」


スキルの名前を叫ぶと俺の手の中には一回しか使えない神器が現れる。刀身は青白く輝き、柄の周りには金色の龍の装飾が施されている。その剣、レーヴァテインを握りしめ、オークロードキングの目の前に移動する。オークロードキングに近ずいて俺は黄色と赤色の電撃を剣にも纏わせる。


「切り裂けっ雷切ッ!!」


叫ぶと同時にレーヴァテインに集まっていた電撃が溢れ出す。オークロードキングの首元めがけて一閃。バリバリィッという音と共にオークロードキングの顔面が弾け飛ぶ。


「グォォア?」


隣にさっきまでたっていたであろう塊にもう1匹のオークロードキングが何が起きたか分からないような声を上げる。そして、オークロードキングを切った神器はボロボロになって壊れてしまう。俺の武器が壊れたのを見てチャンスと思ったのかオークロードキングがこちらを襲いに来る。オークロードキングは大剣を俺に向けて振り下ろす。俺はそれを避けて、オークロードキングの懐に入り込む。


「筋力増強!」


スキルの名前を叫ぶと自分の体が軽くなる。限界突破と筋力増強のダブルコンボだ。懐に入り込んだ俺は纏雷と赤雷の電撃を右腕に集める。電撃を纏った拳でオークロードキングの腹を殴り付ける。


ボゴォォ!


殴りつけるとオークロードキングの腹に大きな穴が空いており、オークロードキングは絶命していた。


「うそ.....こんなにはやく.....」


一連の出来事を見ていたカノンが信じられないというような声を上げる。


「まぁ、見た通りだ。一様危機は去ったぞ」


「あぁ、うん、そうだね」


バタッ

その言葉を最後にカノンが地面に倒れる。


「おい!カノン!しっかり...」


カノンの元に駆けつけるとカノンは危機が去ったと言われて気が抜けたのか寝息を立てて寝ていた。


「ははっ頑張ったんだな」


こんな森の奥で気持ちよさそうに寝ているカノンを背中に乗せて歩き出す。主格を倒したことで他の魔物たちも引いているだろう。


「今回のスタンピードは俺たちの勝ちだ」


そう言って街へ続く道を歩きだす。

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