劣等・醜悪
あれは、何なのだろうか。
あの、醜く黒い、生き物のような塊は。黒猫のように見えなくもないが、獰猛な獣にも見える。けれど、姿形がはっきりしていないので、アメーバのような単細胞生物にも見える。
ゆらゆらと、ぎらぎらと、漂うそれを見る度、不安が押し寄せてくる。
気味の悪い笑いを浮かべているのかもしれない。はたまた無表情なのかもしれない。いや、怒りと悲しみに満ちた、何とも言えない表情なのかもしれない。
それは、何なのだろうか。
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こんなにも愛し、お互いを理解しているはずなのに、何故、温もりを感じられないのか。
そっと触れてみても、声を掛けてみても、抱き寄せ、キスをしても、愛する人の温もりを感じられない。
狂っているのか、狂ってしまったのか、狂わせたのか。未だ解らず、あなたを抱いている。
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死は、意外と近くにあるかもしれないと、よく思う。それと同時に、実は遠いのではないかとも思う。
誰かが死に、誰かが生きる。隣り合わせだからだろうか。大切な人が今、朦朧とする意識の中彷徨っているかもしれない。小刻みに震える身体、規則正しい不快なリズム、微かに漏れる嗚咽、耐え難い孤独。ああ、ほら、誰かが呼んでいる。
ようやく逢えたんだね、おやすみ。
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幸福かそうでないかは、人それぞれ違う。食べることに幸福を感じる人もいれば、眠ることに幸福を感じる人もいる。だが基本、人は三大欲求を満たしさえすれば幸福なのだと思う。食欲、睡眠欲、性欲の三つだ。
それにプラスアルファでもっと幸福感が増すのだ。
では、これはどうだろうか。ただひたすら、人を虐げて笑うこと。この人は、幸福なのだろうか。
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この間、街中を歩いていた時にふと、誰かが言ったことがやけに懐かしく感じた。その方を見ると、何故か懐かしい人影が見えた気がした。何となく追ってみると、自分に似た背丈の人が歩いていた。そういえば、母は自分が産まれる前に子供を産んでいたらしいが、もしかして、あの人がその『子供』なのだろうか。それにしてもやけに似ている。本当に『自分が産まれる前に産んだ子供』なのだろうか。
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何の取り柄もない自分に、この人生を歩む資格があるのだろうか。何故世の中はこんなにも生きづらいのだろうか。現実よりもネットの方が生きやすい。同調の返事、又は批判でも、書き込めばすぐに反応がもらえる。これほど楽しいことはない。ああ、でもやはり、現実でも生きていかなくてはならない。辛い。
ああ、そうだ。自分が生きていたという証明をすればいいんだ。
「これでいいんだ、きっと。」
本日××時頃、○○駅のホームで列車との接触事故が発生しました。遺体は、△△市内住む16歳の高校生と見られています。目撃者によると、自らホームに飛び込んだようです。
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夜遅く、帰路を歩いていた時、とある家の窓に男が立っていた。その男は自分のことを見つめているようだった。
何かを訴えているのだろうか。普通ならば怖くて逃げるが、今回ばかりは何故だか興味が湧いていた。
しかし、男は自分を見つめるばかりで動かない。流石に時間もないので家に帰った。
次の日のニュースで、昨夜のあの家で男が首を吊った状態で発見されたらしい。しかし、縄の結び方があまりにもおかしいため、他殺だという見方が強いらしい。
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それは、突如として現れた。街の真ん中にぽっかりと空いた穴。異様な、どす黒い空間がそこにはあった。
けれど、道行く人達はそれに気付いていない。その上を、平然と歩く。
何日も、何週間も、はたまた何ヶ月経っても塞がれないその穴。いや、むしろ月日が経つにつれ、徐々に広がっているようにも感じた。僕がおかしいのだろうか?実は、僕はここにいないのでは?はたまた、頭を打ったのだろうか……いや、そんなはずない。僕は至って普通。いつもここにいる。
…あれ、おかしいな。いつも「ここ」にいるのか?
ここまでご覧頂きありがとうございます。
初投稿は短編集になります。読みづらい部分も多々あったと思います、申し訳ありません。
以前から書き溜めていた短編をまとめてみました。どれも、人の負の部分に着眼を置いて書いたものです。共感できる部分、できない部分、人それぞれ思うところがあるでしょう。そのような考察等をできるような構成にしております。お楽しみ頂けたのであれば幸いです。