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第2章

女神像と見紛うほどの美貌を持つその女性は、アレンへ尋ねたのだった。


「そなたはサムライか」と、


その甲冑を身に纏った女性の名はレイチェル・スコフィールドといい、ブリタニアと言う西の果てにある王国からやって来たと言う。


ジェラルド・ピサ著「Gershwin's the million」によれば、

このレイチェル・スコフィールドはブリタニア第十二騎士団という独立騎馬連隊を指揮していたと言う。

数十名の騎馬兵の他に数百名の重装歩兵を引き連れていたとある。

しかし、一個連隊と言えば、大隊を束ねたものであるから、だいたい16世紀半ばを基準に考えると千数百名~2千名に及ぶ部隊を意味する。

そう考えるならば連隊と呼ぶには異様に少ない人数なのである。

これは私の推論であるが、

山越えに際し、多くの死者が出たり、途中逃げ出した者や、暇を出された者もいたかもしれない。



ピサは超常現象の真偽について厳正な視点を持つ男である。

ただの言葉のあやであるはずはない。

アレンの手記、もしくはアレンから冒険談を伝え聴いた親族からの証言を一言一句忠実に記したに違いないのであるが、その整合性についておざなりにする人物ではない。



レイチェル・スコフィールド率いるブリタニア第十二騎士団は、ヒタラン族の集落で2日間野営することになった言うが、その2日間で、

輜重兵が市場の食料の殆どを買い占めてしまったと言う。


ヒタラン集落の街道沿いに開かれた市場では、通貨として金貨が使用されていたような描写がある。


普通兵站と言えば接収である。

軍資金とは言え、なぜこれほど金貨を所持し、それを支払っていたのか、


アレンが、ブリタニアの兵士から聞いた話によると、レイチェル・スコフィールドはどうやら、元はブリタニア王家の王女だったらしい。

詳しい家系図は知る術もないが、王位継承権の低い方の王女だったらしい。


連隊の誰もが彼女を(うやうや)しく扱っていたに違いない。

野営に際しても、彼女1人と取り巻きの婦人兵3名だけが、ヒタラン集落で最も権威のある神殿に泊まったとある。


このレイチェルが神殿に入るため禊のような儀式があったようである。

この儀式の後、祭司を務めたヒタランの長老シューミクァンが、兵士に首を斬られそうになっていたとの記述があるが、

一見して卑猥に見える儀式であったのか、アレンにしたようにレイチェルにも接吻を施したかは定かでない。


アレンはこの時から暫くブリタニアの兵士たちと行動を共にすることになる。


兵士たちとの度重なる会話の中で、ここに記された世界の一端が明らかになっている。


ブリタニア王国は、近隣諸国との100年にも及ぶ戦争の後、国民は疲弊し、国力は著しく衰退した。

そのため現在は、カゾソメニア帝国を中心に拡大した連邦国家、通称“西の帝国”の支配下にあるという。


アレンが持参した地図で言うと、ユーラシア大陸をこのヒマラヤ山脈あたりから東西に分断することの、西側が西の帝国、東側が東の帝国と大雑破には見えるが、そうなっていると言う。

各々の帝国の内情は複雑極まりなく、一兵士の口から聞き出すのは酷な話だったようである。


ヒマラヤ山脈に相当するバーナボーシュと呼ばれる地域は聖域とされており、現在は西側にも東側にも属していないと言う。


レイチェル・スコフィールド率いるブリタニア第十二騎士団は、西方から東方へと向かって旅を続けていた。


東方へ向かっている理由については、アレンが気安く話せるような末端の兵士たちには知らされいなかったらしい。

しかし、ブリタニアを含めた西端の海域(つまり大西洋)に巨大な竜の群れが現れブリタニア王国や、ジブラール王国などの島国を襲ったという。

それは竜と血の契約を結んだ黒の魔導師の仕業であったらしい。

黒の魔導師へ恐れをなし恭順の意を示そうとする西の帝国元老院の意向に、異を唱えた一部の民衆は、反乱軍組織し蜂起した。


その状況下において、ブリタニアの王女レイチェル・スコフィールドは独立騎馬連隊を率いて、何故か東方へと脱走したのである。


レイチェルは、

東の帝国を越え、《ジャフー》と彼らが呼ぶ島国まで渡るため、精密な世界地図を持つアレンを道案内役としてスカウトした。


どうやら女好きのアレンは、レイチェルに対して並々ならぬ興味を示したようだ。(美人であったのだから仕方がない)しかし、すぐには彼女の求めに応じようとはしなかった。


それはヒラタンの長老シューミクァンとの約束を反故にしたくなかったと言う理由かららしい、半年間は集落にとどまると言うものだ。

律儀な男である。


そんなアレンの意向を伝え聞いたレイチェルは、彼を置いて行くのかと思いきや、

同じボーシュ地域に属する、

クウォード・ラサという城壁に取り囲まれた城塞都市へ彼を連れて行くことを、シューミクァンに対し申し出たと言う。


クォード・ラサは、バーナボーシュつまりヒマラヤ南斜面に位置する都市で、我々の世界で言うところのチベットあたりに相当する。


ここは聖域であるボーシュ地域の中でも、最も重要な拠点で、聖域中の聖域とも言って良い場所であった。


後でアレンがヒラタンの民から詳しく聞いた話によれば、クォード・ラサの民には特殊な霊能力のようなものがあり《ゲマカウエ》と言う神聖な人間、特殊な能力を持つ預言者のような人物が住んでいると言う。


レイチェルはおそらくその《ゲマカウエ》へお伺いをたてて、わざわざアレンを東方へ連れて行くためのお墨付きと言うか、大義名分を得ようとしたのではないかと推察される。

《ゲマカウエ》がアレンの東方行きを承認すれば、恐らくヒラタンのみならず騎士団の中でも誰も反対はできないと言うことになる。

レイチェルはとても狡猾な女のように私には思えた。


クォード・ラサ行きを激しく拒んだと見られるアレンは、大きな麻袋に入れられて、ジュブラという長い髭を持つ馬のような生き物の尻に吊るされたらしい。

ジュブラは歩きながら糞をする習性があり、麻袋はその糞が飛び散らないようにするため尻に吊るすのだと言う。


それ以上言及されてはいないが、普通に考えると酷い待遇である。

アレンは、レイチェルたち騎士団へ対しどれだけ激しい抵抗をしたのであろうか。


そんな些細なことは、さて置き、

ヒラタン集落からクォード・ラサまではまる1日かかる距離。

アレンもジュブラの尻でまる1日吊るされ続けたのであろうか、特に記載は無いが、時間も糞もかかる距離である。



クウォード・ラサでは、普遍性をもつ水晶を輪廻転生する魂の象徴として祀っているらしい、水晶(クォーツ)とクォードとても似た響きである。

英語でQuadと言うと「4個入る何か」と言う意味になるが、スペルは聞き取って書きとめたもので、定かではない。

レイチェルたちブリタニアの騎士団は、英語に似た言語を用いていたとある。

この名詞の響きの類似性はとても興味深い。

ルーツが気になる。

英単語の多くはラテン語やギリシャ語がルーツだが、ブリタニアで用いられていたそれも、母体となった言語があったに違いない。

しかし残念ながら、この書籍からはうかがい知ることは出来ない。


麻袋から出されたアレンは、1人城塞都市の外側で体を清められたと言う。(当たり前だが)


城塞都市に入ってからも、

記述としては、出迎えた女性たちの話に終始している。

ヒマラヤの高地でありながら、みんな薄着だったらしい。

クォード・ラサの女性は、みな黒髪のアジアンビューティだとか、西方から巡礼に来ていた女性は色白で美しい女性ばかりだとか、それよりも誰よりもレイチェルが群を抜いて美しいだとか、もっと城塞都市の様子を克明に描写して欲しかった。

ここら辺のくだりはバッサリ割愛させて頂く。

著者としてはアレンの女好きが疎ましくなって来た。

こんな事を良い年になった老人が、子や孫に得意になって語っていたのであろうかと想像すると、少々腹立たしい思いすらする。


しかし宮殿に入ってからは、さすがのアレンも女の尻ばかり見ていたわけでは無かったようである。


まずは巨大な水晶の柱が視界へ入った。

それだけで宮殿の天井を支えられそうなぐらいの大きさの柱だったそうな。

しかもそれが4柱、御神体の如く祀られた部屋へ通されたのだと言う。


そこでアレンは《ゲマカウエ》なる神聖な存在と対面している。

人物の印象としては──、

それが、またしても、呆れるほどとびきりの美少女であったと言う。

《ゲマカウエ》は代々世襲だそうだが、主に穢れのない処女が受け継いでいる。

そう言う記載に関しては詳細である。


日本で言えば斎王のような巫女に当たるのであろうか。


《ゲマカウエ》は4柱の柱の対角線が交わる中央に置かれた玉座へ鎮座して、終始目を閉じていたと言う。


水晶の柱より内側は最も神聖な場所であり、《ゲマカウエ》以外の立ち入りは御法度。アレンはその少女の顔をもっと近くで拝みたかったらしいが当然叶わなかった。


アレン以外に入室を許されたのはシューミクァンとレイチェルであった。

彼らが見守る中、長たらしい儀式が執り行われ、まもなく《ゲマカウエ》から予言が下賜された。


「──この男は、竜によって導かれた異界の者である、この世界を救いもするが、滅ぼしもする──」


この言葉以外にも《ゲマカウエ》は延々と預言を話していたらしいが、アレンは軽い高山病にかかり、意識が朦朧としてその先の話を聞いていなかったそうだ。


しかしその後、レイチェルとシューミクァンの間で協議が行われたらしく、アレンの身柄はブリタニア騎士団側へと引き渡された。


次に目覚めた時、アレンはカシティマと呼ばれる騎士団の幌馬車の荷台上にいた。


既にヒラタン族の集落を出ていた一行はその時、何故か未だ山岳地帯にとどまっていた。


何やら外が騒がしいことに気付き荷台の幌から顔を出したアレンは、なんとも(おぞ)ましい光景を目にしてしまった。


ブリタニア兵士たちが巨大な鳥のような怪物に襲われ、応戦も虚しく次々と命を落としていたのである。


鳥かと思われたその怪物は、全身羽毛に覆われてはいたが、人間のような手足があり、兵士たちの武器を奪っては空から容赦ない攻撃を加えていた。


鳥人間はガースと呼ばれており、

見た目、習性とも“ハゲタカ”に類似していたと言うから、殺したブリタニア人の屍肉を食らっていたのであろう。


真偽の程は定かでないが、記述によればアレンもそのガースと言う鳥人間に応戦したと言う。

死んだ兵士の剣を拾って鳥人間を数体駆逐したと彼は言いはっている。


この時、アレンが気を失っている間に、ガースの群れによって屈強なブリタニア兵士それも重装騎兵の一個大隊が半ば壊滅状態になっていたのである。


その中で戦闘経験のない一介の山岳写真家が凶暴な鳥人間に応戦できるとは到底信じられない話である。


だいぶ後の記述を読み進めて行くと、何となく事の経緯が伺えた。


どうやらブリタニア第十二独立騎兵連隊は、既に《東の帝国》の国境へ到達しており、国境を警備していた部隊に助けられたようである。

この後の記述に登場するローラン=カーン・ウーと言う男が、青龍刀と言う刀に依って青龍を召喚し、鳥人間を駆逐したと考えるのが妥当であると筆者は判断した。


そこでこのくだりは、

“鳥人間ガースの群れの襲撃をうけ、危機的状況に陥ったアレンと騎士団の面々が一帯を巡回警備していた東の帝国の国境警備隊に助けられた”と言う記述に変更しておこう。


アレンはローラン=カーン・ウーと言う将軍とこの時初めて出会ったのだろう思われる。

ウー将軍の操る青龍も出現し、ガースに応戦したのであろうが、一切その記載は無い。


元の記述(アレンの談話)の通りだと、その後突然ローラン=カーン・ウー率いる部隊が国境線付近に現れてアレンたちを出迎えたと言うことになっている。


アレンは幌馬車の荷台に隠れて震えていたと言うのが関の山であろう。


一方でレイチェルは勇猛果敢に戦いを繰り広げていた模様。

彼女はジュブラに跨り弓矢で十数羽の鳥人間を射抜いていたらしい。

アレンは幌の隙間から彼女の様子だけはきっちり観察していた様である。

この時点で騎士団の人数が大幅に減ったのは言うまでもない。


いずれにせよ鳥人間の群れに勝利したレイチェルたちの健闘をねぎらった東の帝国の将ローラン=カーン・ウーは、自身の役宅へ彼らを招いたのだった。





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