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クリスマスの夜、とある少女のことを考えて……


むかし、ね。

まだ、若かったころ

(あ、もっと、って、意味ね?)

自分はまだなにものでもないと

思っていた。


まだ、


なにものでもないけど、

未来、

輝けるようになってやるッ!


とか、


なになに王に、オレは、なるッ!


って、感じの夢と

そんなにたいして変わらない夢を


みてた、なぁ。


なになに王になれるのは、

その物語の主人公だから、でね。


けっして、

フツーに生きてきた過去しか持たなかった人の

目指せるものじゃないんだって

まだ、

うっすらとしか、

気づいていなかった。




むかし、ね。

まだ、いまよりずーっと若くって、

だから、もう幼いといか言いようのない

若かったころ、ね。


私のばあい、

夢をみることだけは

許されていたから、

いっぱい夢をみていたなぁ。


ほんと、

いっぱいいっぱいの。


でね、

いまね、

思うんだ。



寒い寒いクリスマスの夜、

帰らせてもらえる暖かいお家もなく、

吹きっさらしの街を歩いて

凍えるほどに寒くって


道端のゴミ箱の陰で風をよけながら


もう、このまま、………


とか、思っていたあのころのこと、

思い出して、さ。




あゝ、だから、

か?


だから、

いっぱいの夢を。


いっぱいいっぱいの、夢を

みていたのだなぁ。

夢くらいみていなければ

いきてゆけなかった




あのね、

むかし、幼いころ

私のお姉さんから聞いたことがある。

マッチ売りの少女って、

作者は、男の人でしょう?

で、私が過去に経験したような

寒くて凍える暗黒時代を過ごしたことがあって、

その想いを、物語にしたんだって。

で、ね。

そのころは、

夢をみていいのは

男の人だけだったんだって。

だから、

主人公を少年にしたら

その暗黒時代のリアルさに

そして、けっきょく、

夢は夢でしかないという切ない哀しみに

本来未来の理想を目指すべき

夢みる少年たちが打ちのめされないように、

主人公を不幸な少女にして、

マッチを擦らせたんだって。


少年、では、リアル過ぎるから。



その話を

私に話してくれた姉は

もう、

ずいぶんとむかしに

死んじゃったんだけど、ね。


だから、

その話が、

作品の評論分析なのか、

姉の思いつきの創作なのか、

姉の、こころの奥底からの

悲鳴だったのか、

いまとなっては、

確かめようもないんだけどね。


ただ、私は、体験した、さ。

その少女と同じばめん、を。


あの、クリスマスの夜、


もう、このまま、………


とか思ってしまったあのころ

私は、街で、

マッチを擦っていた、さ。

いっぽん、擦るたびに、

夢があらわれる

夢のマッチを

えんえんと

凍え死んでもいいよう、と、

なにかに取り憑かれたように

擦り続けていた、

道端のゴミ箱の陰で

吹きっさらしの身を切り裂く凍った風を

ほんの少しだけ避けながら

いまにも消えそうな火を

大事に大事に守りながら

いっぽんいっぽんマッチを擦って

いっぱいいっぱいの夢をみながら


もう、

死んでもいいかも、

と、

思っていた。




いや、ね。

むかしのはなし、さ。

あのころ少女だった私は、

お酒を飲むことも知らなかったからなぁ。

知っていれば、

マッチなんて擦らなくたって、

お酒を飲んで、クダ巻いて


あたしだってさぁ、

むかしは、さぁ、


ってね。

あ、違う。

未来を夢みるお酒の飲み方

(って、そんな飲み方、あったっけ?)

を、して、さ。


心の石を

溶かしていただろう。




むかし、ね。

まだ、若かったころ

(あ、もっと、って、意味ね?)

自分はまだなにものでもないと

思っていた。


まだ、


なにものでもないけど、

未来、

輝けるようになってやるッ!


そうして、時は過ぎゆき


いま、未来、

そんな未来はなかったけど、ね。

ちっとも輝いてなんか、いないけどね。




でも、マッチ売りの少女のような

少年の身代わりで夢をみさせられた

少女に比べれば

たとえそこに挫折しかなくても、

自分の夢に砕けて挫けたのなら、

まだ、

納得いくでしょう?




ごめんね、

マッチ売りの少女。

私は、それでもまだ、

夢を、

自分の夢をみられた私は、

まだ、あなたに比べると

努力が足りなかっただけの

ただのギスギスした

痩せっぽちの少女だったね、

不幸なんて、

この身に纏っていなかったね。


ただ、

哀しみだけは、

身に纏っていたけれど………あ、りとる






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