第三章~喪失と崩壊…そして1年後~/父の死
「あぁ…良く寝た」
久しぶりにゆっくりと眠れた日の翌日…まだ日が出たばかりの早い時間に綾は目が覚めた。
地震での不安、健のことなど色々なことが頭を駆け巡ったことで、ここ最近は不安でしっかりと眠れていなかった。
さらに精神的にも不安定になっていたが、深い眠りにつけたことが原因なのか、その日はいろいろなことを前向きに考えることが出来た。
もちろん、まだ父と健が行方不明になっているという現実があることで精神的に完全に安定しているという訳ではなかったが、きっと見つかるという気持ちになっていた。
避難所も少しずつ笑顔になっている人がいて、さらに綾の前向きな気持ちの背中を押す。
母親や妹、健の両親が起きてくるのを待とうとも思ったが、いてもたっても居られず、起さないように静かにに外に出た。
まだ3月の寒さを感じるが、太陽が私を照らしてくれることで少し温かみも感じる。
周囲は地震の爪あとをしっかりと残し瓦礫の山になっており、陸地なのに船があったりとこれまでの日常生活を一新するような悲惨な状態になっている。しかし、そんな綾の状況はおかまいなしに寒さの中に突き刺すように太陽は私を照らした。
深い眠りについたからか、天気と同様に気分も晴れており、早速、父親と健を探しに歩き出した。
周囲には早朝にも関わらず綾と同じように人探しをしている人がいる。
綾も周りと同じように
「おとうさーん!けーん!」
と叫びながらとにかく歩いた。どこに何があるのかわからないので足もとに注意しながら、ゆっくりと周りを見渡して探し回った。
とにかく可能性を考え、他の避難所を目指した。
1つ目の避難所は何度も見渡したがいない…諦めて次の避難所に行く。
2つ目の避難所では綾の母親と妹も起きて探しに出ていたらしく、合流した。
「綾!どこ行ってたの…心配したわ。」
「ごめんね!なんか早起きしちゃっていてもたってもいられなくてお父さんと健を探してたの!」
「気持ちはわかるけど、まだ外は危険だから出て行くときは声をかけてね…帰ってこないかもって不安になっちゃったわ。」
「わかった…」
「お姉ちゃんどこを探してたの?」
「あっちの避難所だけしか行ってないよ。いなかったけど…ここはいたの?」
「まだ来たばっかりだからこれから探す!」
そんな会話をしながら探したが、結局ここにも父も健もみつかることはなかった。
その後も全ての避難所を回ったが1日かけて結局みつかることはなかった。
そして、綾の家族が行き着いたところは津波で亡くなった方々が置かれている場所…正直、ここだけは行きたくなかったのだが、いないことを祈りながら向かった。
水を身体が吸収してむくみというより膨らんだ遺体を一人一人、手を合わせながら顔を確認した。そして11人目にかけられたビニールを開いたところで綾は身体が震えた。
そこにいたのは父だった。
「うわぁぁぁぁあああお父さん!お父さん!目を覚ましてよ!」
父親を見つけた瞬間に綾と柚月は泣き叫んだ。
父親も水を吸い込んで身体が膨らみ息をすることなく横たわっていた。
見た瞬間にあらゆる父との思いでが脳裏を一気に駆け巡り、もう枯れ果てたと思っていた涙が自然にながれた。
子供の頃から、綾の父はすごく優しく綾と妹はずっと父親に甘えてきた。叱っても愛情があり、本当に誰よりもいい父親であるということをずっと思って過ごしてきた。
父親がいなくなるなんてことは想像もしていない急な悲劇。もう父に会えないということを考えたら冷たくなった父親を抱きしめて声を上げて泣いた。
ただ、いくら綾が抱きしめても父親が目を覚ますことはない。受け入れられない現実と向かい合いつつ、もう父親の声も聞けない、顔も見れない、出かけたりすることもできないことを理解して咽び泣いた。
そして父親の手には大事そうに綾と柚月の写真が握られていた。