第二章~祈り~/健の両親との対面
どのくらい抱きしめあったかわからないが、家族の温かみを感じることで3人は徐々に落ち着きを取り戻してきた。それぞれが同じタイミングで抱きしめた腕の力を弱めていき、手が完全に離れる前に綾の母親が口を開いた。
「お父さんが行方不明なの…」
「えっ…?どういうこと?一緒に居たんじゃないの?」
綾はまだ頭の中で整理が出来ていない。
その間に続けて父親と離れたいきさつを話しはじめた。
「地震が起こる前、お父さんとお母さんは家にいたの。そしたら突然、揺れが始まってどんどん大きくなってお父さんとお母さんは棚とかが倒れないように押さえて揺れが収まるのを待ったの。揺れが収まって大きかったねなんて言ってたら放送が流れて津波が来てるって…とにかくゆっくり高台の方に避難をしようとしたんだけど、思ってたより津波のスピードが早くて…私は先に出て高台で待ってたけど、お父さんは色々と大事なものを持ってくるっていって…結局こなかったの。どこかで生きているといいんだけど…」
まくし立てるように話す母親の口調は不安じみていたが、子供に不安を与えないように必死に隠そうとしていた。また、行方不明になっているが、必ずどこかで生きているという願いをこめたような伝えた方をした。
「お父さんはきっと生きてる。あんなに大きいんだから。」
綾自身も自分に言い聞かせるように声を出した。もう頭の中には父親を探すということがあり、身体が動きそうだったがそれを遮るように妹が今までの経緯を話始める。
「私は地震が起きてすぐに全校生徒で避難所に向かってすぐにお母さんに会えたの。友達が心配だけど…」
簡単だったが分かりやすい。でも妹が母親とすぐに会えてよかったと思った。妹の話が終わった後、母親と妹が同時に私の顔を見つめた。意味がわからなかったが、すぐに気づいた。私のこれまでの経緯を話していない…そして、地震発生から津波に巻き込まれそうになったが健に助けられたこと、そして健が行方不明であるということをゆっくりと話始めた。
ちょうど私の話が終わろうとした、その時…
「えっ!?」
後ろから大きな声が聞こえて振り返る。
するとそこには健の母親が立ち尽くしていた。
健の母親は綾の姿を見つけ、声をかけようとして近づいていった。その時に健が津波に流されたという話が聞こえて思わず声を上げてしまっていた…。
そして、綾が健の母親と目があった瞬間、お互いに涙が溢れ、母親は泣き崩れてしまった。綾はすぐさまかけよって抱きしめて2人で声を上げて泣いた。
しばらくすると2人は落ち着きを取り戻しており、健の父親とも合流してことの経緯を伝えた。
「本当にごめんなさい…私がいなければ健は今ここに居たかもしれないのに…」
「健も男だね…私はそんな健を誇りに思うわ。命をかけて綾ちゃんを守ったんだね…」
「でも健が地震当時にどこにいたか、どういう状況だったのかがわかってよかった。」
綾は話し始めるとまた涙がこぼれた。そして、全員の心の中は希望しかなかった。明日から探しに行こう…そして今日のことが思い出話になることを祈ろう…とそんな会話をした。
全てを話した後、あらゆることが一気に起こったことで疲れが溜まっていたのか綾はすぐに眠りについてしまった。横には母親もいる、そして健の家族もいることが安心感を与えたことがすぐに眠れた理由の一つかもしれない。明日は父親と健を探しに行く…そんなことを眠りにつく直前の意識が朦朧とする中で考えていた。
しかしその翌日、父親の遺体が見つかることをまだ今は誰も知らない。