第二章~祈り~/捜索
一睡も眠ることなどできずに朝になり、周りが見えるくらいになった頃に教師達が一斉に捜索に向かった。
「私もいっていいですか?」
「ダメだ危険すぎる」
「健は私のせいで津波に飲み込まれたんです」
「なんだと!?」
「お願いします…」
「それでもダメだ!お前は健が戻ってくるのをここで待ってろ。」
そういって担任は走っていってしまった。
確かに私が二次災害で何かあったらそれこそ健が生きてたら健が私を助けてくれた意味がなくなる…そんなことを思いつつ健が戻ってくるのをじっと祈りながらまっていた。
一人、また一人と難を逃れて避難していた生徒が戻ってくる。その間も震度4レベルの余震が頻繁に続き、その度にあの時の恐怖が思い出される。
早朝から捜索に向かった教師が昼頃になって全員戻ってきた。探せる場所は全て探したといったが、戻ってきた生徒の中に健の姿はなかった。
また翌日も捜索が始まろうとしていた頃、状況はさらに悪化した。
それは津波の影響によって原発事故が起こったからだ。東京電力の福島第一原発が起こり、放射線が漏洩するということで東日本全域に不安が広がった。
当然ながら近くにいる綾たちは言い知れぬ恐怖に陥った。政府は上空から水を撒くなどという意味の無いパフォーマンスだけを行い、状況は一向に改善しなかった。この間も健は海の中に居るのだろうか、どこかで生きているのだろうか、さらに家族の状態もわからないので綾は精神的にどんどん落ち込んでいった。
しかし、悲しいかな人間というのはどれだけ悲しくても空腹と眠気が出てきてしまう。
初日には食欲も眠気もなかったのだが、今日になって急に生きたいという気持ちが出てきたのだろうか。非常食を食べて少し休んだ。ただ、食べても寝ても心が晴れることはなく、どんどん気持ちは落ち込んでいった。
「先生!いつ帰れるんですか!?」
我慢できなくなった生徒が怒りの混じったような声で叫んだ。
「今、先生達で帰れる道があるかを随時確認しているからもう少し待っておきなさい。」
「もうこんなの嫌です!」
「帰らせて!」
「帰りたい!」
優しい口調でなだめるように先生が答えても、精神状態が不安定になっている10代の少年少女には届かなかった。さらに一人を皮切りにどんどん不満を言う人が増えていった。
その直後、
「よし!帰るぞ!」
学校ではいつも嫌われている生活指導の先生が今日に限っては凄く頼もしく見えた。生徒達は今まで目に生気が無かったが次第に目に輝きが出てきた。
もちろん綾もようやく帰れると安堵し腰を上げた。