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第七章~記憶~/二つの回復と一つの喪失

渉は急いで行ったのだが病院についてもまだ綾は手術室から出てきてはいなかった。

『手術中』という光が点灯しており、いつこれが消えるのかと考えながらじっとその一点だけを見つめていた。

どのくらいの時間が経過しただろう…

時計が今何時を指しているかわからないくらいただただ待っていたのだが、急に眠気に襲われた。それも今までにないくらいの強い眠気だ。こんなときに…なんてことを考えながらふっと意識が遠のいていった。


ここはどこだろう…目の前には…制服姿の綾ちゃん…?

渉は夢を見ていた。

恐怖におののいたような表情の学生が目の前に沢山いる。そしてどうしてか綾もいる。後ろからは津波…?震災の夢なのだろう。そして夢の中の渉は綾を津波が襲ってきそうになったところを助けて自分は波に飲み込まれた。

そこからシーンが変わり空を見上げていた…ここは海の上だろうか…津波に飲み込まれたが間一髪助かったらしい。そして渉の夢はそこで途切れて夢から現実世界に戻ってきた。


起きたときには渉…いや健は涙を流していた。

そう…この夢によって健は全てを思い出したのだ。高校時代、健と綾はお互いを想い合う同級生だった。普段からじゃれあっていて、震災で綾を助けたことで健は津波に飲み込まれたこと。そして、奇跡的に生きていて記憶をなくしておじいさんとおばあさんに助けられたことなど全てが繋がった。


綾が今までホストの健にどうして色々と聞いていたのか…その理由もわかった。そして記憶を取り戻したからこそ、健は今すぐにでも綾と会いたいと想っていた。綾とあって記憶を取り戻したことはもちろん、綾と出会う前の話なども話したいと思っていた。


そして気づいたら手術中のライトが消えていた。そして手術室の扉が開き、綾が運び出されてきた。まだ麻酔によって眠っているようだが手術は成功したと見えた。一安心しながら綾が運ばれていった病室に向かった。


病室に来たのは健しかいなかったので健に綾の状態を軽く説明されて綾と2人きりになった。ちょうどその頃、星矢が病室に入ってきた。


「悪い渉!なんか根掘り葉掘り聞かれてこんなに時間掛かってたよ。それで綾ちゃんは?」

「長かったですね…手術は成功らしいです。ただ、もしかしたら何かショックによる症状が出てしまうかもしれないということです。」

「そっか。とにかく目を覚ますまで待つか。渉は帰ってもいいぞ!」

「いや、そのことなんですけど…」


そこから渉は星矢にさっきの夢のことと共に、本当は記憶喪失であったこと、そしてその失った記憶が戻ったこと、さらには綾とは同級生であったことや震災のことなどを事細かに話した。


「そっか…だから綾ちゃんは渉にあんなに質問をしたりしていたんだな…納得したわ。それで今、お前はどう思ってるん?」

「はい…星矢さんの綾に対する気持ちも解っているのですが、記憶が戻った以上、僕も綾に気持ちを伝えたいと思っているんです。もちろんホストも辞めますし、星矢さんに殴られる覚悟もしています。」

「いや、殴らねーわ!というより、もうそれきいた時点で綾ちゃんが俺に全く振り向いてくれない理由もわかったし、なんかすっきりしたよ!渉…いや健だっけ?頑張れよ!」

「ありがとうございます…。」


健は星矢の優しさに涙が出た。星矢がいなければ健は今、この場にいないのはもちろん、ホストを続けることもなかっただろう。星矢とは一生付き合っていこうと誓った。そんな話をすると綾が目を開けていた。こちらを見ることもなく、天井の一点を見続けていた。


「綾…?」


健が話しかけると、ゆっくりとこちらを向いてきた。健と星矢は安心したが、次の一言で血の気が引いた。


「誰…ですか?」


健は思った。神様はなんて残酷な試練を与えてくるのだろう…健が記憶が戻ったと同時に、綾は記憶を失った。その後の医師の説明によると刺されたことによるショックが一時的に記憶を失わせてしまったのだろうということだ。しかし、いつ戻るのかはわからない上にもしかしたら一時的なものではないかもしれないという話もされた。

健と星矢は言葉を失くしたまま病院を出た。

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