第七章~記憶~/嫉妬
最近、理恵は妙に自分が苛立っていると感じていた。それはもちろん渉に関わることだ。家にも来てくれるし、優しくしてくれるが、理恵にとってそれはj分だけじゃないと気がすまない性質だった。
しかし、理恵が綾をお店に連れて行き、綾と渉が話す度に楽しそうにしているということが気に食わなかった。今まで、他のお客さんと渉が話しているところも見たことがあるが、そういったものとは違う…何か恋をしているように感じていてしまった。
そして、そういった考えが出てくるともう止まらない…理恵は4人で遊ぶ度に渉に話しかける綾に嫉妬し、楽しそうに会話している健に対してもイライラが募っていた。
かといってどうすることも出来ない理恵がいた。
渉にこれを伝えて喧嘩になって離れてしまうということも嫌であり、さらに綾もかわいい後輩なだけに言えなかった。そもそも決定的なことが無い状態でこんな嫉妬をするという自分にも苛立っていたことでどうしていいのかわからなかった。
そんな時に渉の先輩である星矢に相談された。
星矢は綾が好きだという話であり、もちろん見ていたら分かったのでこれを利用しようと考えた。星矢が綾と付き合うことになれば、少なからず今よりは嫉妬心も落ち着くのではないかと考えたからだ。
一通り、星矢の話を聞いた上で協力しようかと伝えた。
「協力してあげようか?実はね…ちょっと最近気になるところがあって渉と綾ちゃんが少し仲良すぎる気がするんだよね。渉もまんざらでもない感じがしてるし…だから星矢さんが付き合ってくれれば私としても嬉しいんだよね。」
自分の事情もしっかりと話つつ協力しようと軽い気持ちで言ったのだが、星矢から思いもよらぬ答えが返ってきた。
「えっ?ほんと?実は俺もそういう風に感じてたんだよ!綾ちゃんってそもそも渉のこと気があるようなそぶりだったけど、今では俺にも少し気が向いてきているかなって思って。だからこそここで理恵ちゃんの後押しがあれば多分いけると思うんだよね!それに渉と話すときも最近は綾ちゃんのことばかり話してくるから…俺に気を使ってるのかな?」
理恵はこの星矢の何気ない話を聞いて頭が真っ白になった。
綾ちゃんは健に気がある…そして最近の渉は綾ちゃんの話ばっかりしている…
そもそも嫉妬深い理恵にとって、綾を憎むには充分すぎる程の材料だった。
それからは4人で遊ぶときも綾と渉を観察し、家でも渉の様子を観察するようになった。そして見れば見るほど仲の良さそうなところばかりが目に付くようになり、次第に嫉妬心が強くなり、憎悪心が強くなっていった。
星矢に協力するとは言ったがそれどころではなかった…そして、ついに理恵の憎悪が頂点に達する日がきた。その日はお店でも渉がかなり酔っており、綾への絡みが酷くなっていた。
「渉、やめてあげなよ。綾ちゃん迷惑そうだよ!」
「えぇ~そうなの~」
「いえいえそんなことないですよ!理恵さんお気遣いありがとうございます!私は大丈夫です。」
理恵の目からしたら綾も少し嬉しそうに見える。そして決定的瞬間を目の当たりにしてしまった。それは絡んだ渉が綾のほっぺたにキスをしたところだ。そして渉はそのまま意識を失って綾の肩にもたれかかって眠りについた。
これを見た瞬間、もう理恵には感情を抑えるということが出来なくなった。そこから口数も一気に減り、一言でも話をしてしまうと罵詈雑言を浴びせてしまう恐れがあるので、話さないということを徹底するのが精一杯だった。
そしてその時が来てしまった…
もう時間も朝方になっており、渉の酔いもある程度冷めて目が覚めていた。それからは綾に謝りながら外にでた。外にでてからも渉と綾と星矢の順で横並びに歩いており、その後ろを理恵が歩いていた。
理恵の嫉妬、怒り、憎しみは理恵の意識を乗っ取り、理恵は無意識に用意していた包丁を鞄から取り出し…
「サクっ」
と綾を刺した。綾は「うっ」という声を出し、膝から崩れ落ちた。健と星矢は一瞬、綾が酔っているのかと思ったが背中に刺さる包丁を見て血の気が引いた。そして渉が怒声を理恵に浴びせる。
「おい何やってんだ!」
「やべぇよ…」
と星矢は何も出来ずにいるが、そんなことはおかまいなしに真っ赤な血が静かに道路に流れ落ちている。綾は意識を失っているようだ。理恵は何の感情も感じずに立ち尽くしていた。
渉は冷静に119番へ電話してすぐに救急車の手配、そして警察にも連絡した。
状況が状況なだけに5分以内にパトカーと救急車のサイレンが近づいてくる。その間も綾は血を流しており、必死に渉が圧迫し、そして理恵は星矢が押さえ込んでいた。
先についたのは警察で、すぐに理恵を逮捕した。その後すぐに救急車が到着し、そしてすぐに綾は救急車へ乗せられて病院に運ばれた。当然ながら事件性が高いことで渡ると星矢も警察のパトカーに乗せられて事情聴取をする運びになった。
警察で根掘り葉掘り聞かれて2時間後にようやく開放された渉は警察に綾が運ばれた病院を聞いて直行した。渉は気づいていた…自分が綾のことを好きだということを。




