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第一章~刻命~/3月11日14時46分18秒

カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…

秒針がいつもと同じようにメトロノームのような寸分狂わぬペースで回っていく。

あと7分…

あと6分……

あと5分………

あと4分…………

…………………ガタガタガタガタッ!!!!


「地震だ!」

クラスのムードメーカーの横山が叫んだ。高揚とも興奮とも取れる声で。

実際に綾も地震を経験することなんてあまりないので少し興奮していた。一昨日も少し大きめの地震があったなと心の中で独り言をつぶやきながら動くこともなく胸の鼓動だけが高鳴っていた。


少し大きいなと感じた、その地震は収まることなくガタガタという音と共に大きくなる。

「机の下に隠れろ!!揺れが収まるまでは絶対に出るな!!」

普段は声が小さくて聞き取れないなと感じていた吉田先生の怒号が飛ぶ。

大きくなっていく地震の揺れは私の高揚した気持ちを一瞬にして恐怖に落としいれる。

長い…このまま収まることがないのではないかというくらい長い揺れを感じていた。

しかし、そんなことはなく少しずつ揺れも収まっていく。

教室中に安堵感と少しの笑い声や安心のため息、そして後ろを確認すると健が私に話しかけようとしている。

健が綾の名前を呼ぼうとしたその瞬間


……………………ガタガタ…ドンッ!!!!!!!


床が抜け落ちたのではないかという衝撃を受けた瞬間、さっきより大きな揺れが私達を襲った。

悲鳴と泣き声が飛び交う。

綾はとにかく目をつぶって耳を塞ぎ、ただ揺れが収まるのをまった。


このとき、たった数十秒の地震が私には何時間という長さに感じる程で、そしてこの後さらに何かが起こるということなど考えもしなかった。


2011年3月11日金曜日午後14時46分18秒、東日本大震災の発生。

この瞬間から綾とその家族、東北地方に住んでいる多くの人の時間が止まり、人生が大きく変わった。


数十秒後、揺れが落ち着いた瞬間、緊迫した声で担任の吉田先生が叫ぶ。

「今すぐ教科書を頭の上に載せて校庭へ出ろ!!早くしろ!!」

すすり泣く声とざわついた教室は一瞬にして緊迫し、どんなにいう事を聞かない不良まがいの生徒でさえも全員が吉田先生の指示に従った。教室から移動している最中も余震が続いていて、揺れる度にまた、さっきの恐怖が訪れるんじゃないかと全員がビクビクしていた。

綾も例外ではなく、恐怖と戦いながら廊下を急いで落ち着いて進んでいた。そのとき、健が後ろから話しかけた。

「綾、大丈夫か?」

「う…ん……」

「大丈夫。俺がお前を守るから。」

「わかった…ありがと。」

このとき、綾は健も男らしいところがあるんだなとふと思いながら校庭にでた。


校庭に出ると街中にサイレンが鳴っていて津波が来るという警報が鳴っている。誰しもが津波といわれても経験したこともなければテレビで見たこともない。

なんとなく波が押し寄せてくるイメージが付くくらいで特にそれ以上のことを考えることはなかった。

もちろん、生徒だけではなく教師も全く津波に対しての知識がなかった。


「まだ、揺れてるな…お前、おじさんとおばさんと柚に連絡したか?」

「あっ…そっか…」

恐怖からまだ抜け出せてない綾は健の冷静な判断に関心しつつか細い声で答えた。

「でも健はしたの…?」

「俺はさっき連絡したら大丈夫って返事が来た」

「そっか、よかった…」

少し安心して、すぐに綾は両親と妹の柚葉にメールをした。幸い、父が今日は家に居るから大丈夫だろうと思っていた。

高校生までは両親の存在は非常に大きく、父親が居れば大丈夫という根拠のない自信を持っている。綾もまだ17歳の高校生。父親がいることで大丈夫という確信を持っていた。

その期待通りに、すぐに返信メールが来た。

「よかった…お母さんもお父さんも柚も大丈夫だって」

「よかったな。」

そんな会話を交わし終わって少し健と綾の間に気まずい沈黙が通り過ぎた後、教務主任の先生が拡声器を片手に叫んだ。

「津波が来ているから、これから高台へ行く。担任の指示に従って行動しろ。落ち着いて行動しろよ!」

まだ、誰もがピンと来ていない。全員が全員、さっきまでの地震の恐怖を忘れ軽い遠足のような気分で早足で高台を目指した。


健から離れないように少し早足で付いていく。

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