第五章~再会~/本物
行きつけのバーというところに着き、ここでも理恵は常連のようだ。
「おっ理恵ちゃんじゃん」
「おつかれー!今日はかわいい子連れてきたから後できてね!」
「おっけー!」
こんな会話をしつつ慣れたようにバーのソファに腰掛けた。シャンパンを一気飲みさせられて少し酔っていた理恵はそのままの勢いでホストについて綾に語りかける。
「ねぇ渉って超かっこいいでしょ!星矢さんも良い人だから綾ちゃんが気に入ったら一緒に行こうね!」
「楽しかったです!機会があれば!」
先輩を立てつつ確実な約束はしないように上手く良い回しを考えて返答した。そんなことよりも綾は本当に渉が健に似すぎていることに少しドキドキしていた。もちろん、健に似てるからといって健じゃないのは確かなので好きという感情までは行かなかったが、それでもあまりにも瓜二つであり、ずっと気がかりだった人だけに変な気持ちの揺れがあった。
そんな気持ちを抱えつつ、理恵と、そしてバーの店員さんである優介と自己紹介を含めた当たり障り無い会話をしているとバーの扉が開き、渉と星矢が入ってきた。
「うぃー」
「うぃー」
「うぃー」
と渉、星矢、優介が変な挨拶をして席についた。私の隣には星矢がきて色々と話をした。軽くほろ酔いの状態で、さらにお酒を飲んだことで全員が酔ってきたころ理恵さんが潰れてソファに寝てしまった。
それからしばらく3人で話しながら少し飲むペースを抑えて飲んでいたのだが、ふと綾が渉の方をみると、頬杖をつき、そのついた手の小指で唇を触っていた。これは健の癖だ。
(健だ…確実に健だ。)
綾は気づいてしまった。目の前にいる渉というホストは健で間違いない…顔だけではなく癖も一緒な人間がこの世に2人もいるはずがないと綾は思った。でも1つ疑問が残る。それは、どうして私のことを覚えていないのかということだ。理恵に気を使って本当は気づいているけど気づかないフリをしているのかというのも頭を一瞬よぎったが、そういう感じでもない。本当に私のことを知らないそぶりを見せている。
でも生きていた…。それだけで綾の心は高揚している。それとなく健かどうかを確かめてみようと、質問をしてみる。
「渉くんはどこの出身なの?」
「宮城だよ」
「星矢さんは?」
「俺は京都やで!」
「じゃあ渉くんは東北出身で私と一緒だね!」
「そうなんだ。どこなの?」
「私は岩手だよ!」
その後も年齢や出身高校を聞いてみたが全然健とはかけ離れていた。そして少し核心を突くような質問をしてみた。とにかく冗談交じりな口調で
「私の同級生にも渉くんと同じことする人いるんだけど、小指で唇触るの癖なの?」
と聞いてみた。すると
「あーそうなんだよね。これ物心ついたときにはやってて今でも抜けないんだ。」
そんな癖がある人は健以外いないだろう。もう少し話をしていたかったが時計も6時を超え、理恵も限界という感じだったことでその日はお開きになった。しかし、家に帰っても綾の中で高揚感とモヤモヤが消えることはなかった。




