第五章~再会~/No.1
同じ頃、健は嘘の笑顔を振りまいていた。
高校を卒業して3年、健も綾と同じ歌舞伎町で働いていた。
3年前、高校を卒業して自分探しの旅にでた健は東京新宿に行き着いた。そしてすぐにスカウトのアキラに話しかけられ、その場は連絡先だけ聞いて後にしたのだが、数日経つとお金も尽きてしまい、アキラに電話して話だけでも聞くことにした。
住み込みの仕事ってなんだろう…そんなことを考えながら待ち合わせ場所のカフェに着くと、相変わらず綺麗な金髪の男が座っていた。健に気づき、大きく手を振って招かれた。
やっぱりこの人を信じて良いのか多少は迷ったが、とにかく話だけという名目で入った。
「お久しぶりです。東京は満喫してます?」
「まぁ多少…でももうお金も尽きてきちゃって…話だけでも聞こうかなって連絡しました。」
軽い世間話から入ろうとしたアキラとは対照的に、健はさっさと話だけ聞こうとした。
「なるほど!いやまぁ単刀直入に言うとホストなんですよ!一応、色々な店を紹介できますけど、お兄さんはかっこいいから良い店紹介できますよ!」
「ホスト…ですか?」
まぁ聞いたことはあったが自分がなるなんていうことは考えたこともなかった。というよりあんな華やかな世界に自分が馴染めるとも思わなかった。
「みんな最初は垢抜けてませんけど、垢抜けたらホストっぽくなりますよ!というよりお兄さんは素材がいいから垢抜けたら絶対売れます。今は1000万円売り上げる方もいますし、お兄さんならその位置を目指せると思うんですよー!」
健の心の声が聞こえてるのかといわんばかりに、何も言わずとも間髪入れずに健の疑問点を突いてくる。さらに続けて
「多少の抵抗があると思いますけど、1ヶ月だけやってみませんか?嫌なら連絡くれれば他の仕事も紹介することも出来るので!」
「はぁ…」
アキラのマシンガントークに押されてしまい、あいまいな返事してしまったが最後、アキラはそれをOKと捉えてすぐに店に電話し始めた。電話が終わってからすぐに
「お兄さん、今日って空いてます?」
「はぁ…」
もうここまで来たら後戻りも出来ない。アキラのなすがままにその日の内に体験入店ということになった。
お店に入ると普段の華やかなイメージとは違い、ほとんどのホストが無表情で携帯をいじっていた。健が来た瞬間も少し顔を上げただけで、すぐにその視線は携帯に戻る。不思議な世界だなと思いながらフロアを通って店のスタッフルームに連れて行かれた。
「おっアキラ!つれてきてくれたん?」
「はい!めっちゃかっこいいっすよ!」
「初めまして…」
「まぁとりあえず慣れるのが一番早いから今日は軽く体入ってことでやってみて!終わってから色々聞きたいからね。あと、未成年って聞いてるからお酒はNGだよ。」
まぁそもそも正月のお神酒以外でお酒を口にしたことがなかったので飲みたいとも思わなかった。とにかく言われるがまま体験入店というのが始まった。
健の教育係になったのは2歳年上でまだ入店して2ヶ月という「星矢」さんという方だった。
テーブルマナーから始まり、トークの仕方なども教えてもらった。すごく優しい方で本入店するのも星矢が居たからだといってもいいだろう。そしてその日の終わりに入店を決め、本入店することに決めた。
源氏名は「渉」。
健はおじいさんとおばあさんに貰った名前をそのまま使った。
そこから1年間は紆余曲折あった。そもそも住む場所が欲しくてそんなにやる気もなかったことで、新人時代はよく注意をされた。もっと愛想よくしろ、もっと喋れなどと毎日のように言われた。あまりにも毎日言われることに健はイライラして何も言われない程度に仕事をするようにした。そうすると、顔も整っている上に、次第に垢抜けてホストっぽくなってきたことでどんどん人気が出てきた。その都度、愚痴を星矢さんに話して、そしてアドバイスも貰ったことが功を成したのだろう。
1年後にはNo.5くらいまでに成長していた。もちろん健本人はNoになど興味ない。ただ生きていく為に…また、おじいさんとおばあさんに仕送りして恩返しする為にということだけを考えて仕事に励んだ。
ホストを初めて2年後…いつものように仕事をしていたら、初回のお客様から写真指名が入った。それはよくあることだが、席につくといつもと違った。お客様は目を輝かせていきなり
「本当にタイプです!付き合ってください!」
と言ってきた。心の中では面倒なのがきたなと思ったが笑顔で
「いきなりですね!さすがにいきなりは早いので、まずお互いのことを知りましょう!友達からでお願いします!(笑)」
と返した。
成人になり、お酒も飲めるようになっていたのでその日は普通に楽しく飲んで送り指名を貰い連絡先を交換した。
女性がお客さんになるかどうかは、ホストの連絡によって変わってくるといっても過言ではない。無趣味で基本的にお客様と出かける以外は外に出ることもなかった健は連絡もすごくマメだった。その女性はそのマメさにも惹かれてすぐに渉指名でお店にきた。
それからは煽ることもないのに高い飾りボトルを入れたりシャンパンを入れてくれたりして、見事に渉のエースとなった。
何の仕事をしているか知らないが、後輩が言うには有名なキャバ嬢らしい。あまりそういうことに興味がなかったので深く詮索することもなかった。そしてエースになってしばらくして告白され、渉はいつものように曖昧な返事をしてしまい相手はすっかり彼女という形になった。つまり、本営だ。
そして、その女性のおかげもあって今では不動のNo.1になった。役職も支配人という肩書きを貰った。
収入も人よりはかなりある方だったが、それでも健の心は震災以降満たされることはなく、そして健の過去については未だにだれも知らなかった。
そんなとき、エースの女性が枝…つまり指名の居ない友達と一緒にお店に来ることになった。
そう…健のエースは理恵、そしてその理恵が綾を健のホストクラブにつれてきた。




