第五章~再会~/人気キャバ嬢への道
健と綾が高校を卒業して3年の月日が経とうとしていた。
2人は今年21歳になる。
「いらっしゃいー今日も来てくれたんだ!ありがとう!」
「ななちゃん今日も美人だねーシャンパンいれちゃおうかな!」
「いいよー無理しないで!」
ここは新宿歌舞伎町。
金、嘘、裏切りが街を覆っている眠らない街。
その中の有名キャバクラ店『COLOR CLOVER』で煌びやかなドレスを纏った綾がそこにいた。
源氏名はナナ。
歌舞伎町の中でも『カラクロ』という愛称で呼ばれている大箱店はモデルやタレントの卵も在籍しているようなS級店。薄暗い店内にシャンデリアが天井から幾つも垂れ下がっており、店内の高級感をさらに際立たせる。
そしてそんな有名店で綾は端整な顔立ちと明るい性格で人気嬢となっていた。
「今日も少し酔った…」
笑顔で明るい性格を売りにしているだけに、営業が終わるとふと我に返りため息まじりに毎日のように疲れの一言を漏らす。震災後、健の行方不明、父の死、それによる母の崩壊、そして妹はまだ高校生ということで生活費を稼がないといけないということで上京したのはいいが、上京後は昼は営業、夜はコンビニで働いて睡眠時間を削ったことも災いしてか、すぐに身体を壊して入院してしまった。
家族の為の生活費を稼ぐはずが、入院費用は思ったより高く、今まで稼いだ分は入院費としてなくなってしまった。途方にくれていた時にコンビニで知り合った先輩の理恵に相談するとキャバクラを紹介され、少し水商売に抵抗はあったのだが背に腹はかえられないと決意して体験入店に連れて行ってもらった。
「こ、こんばんわ…」
「あれ?新人さん?よろしくね!」
「はい…よろしくお願いします。」
こんな感じで始まった接客…初めてのキャバクラは緊張で最初は話が出来なかったものの、少し慣れれば綾の性格にも合っていたみたいで、体験入店で指名を貰った。お店も閉店時間となりスタッフルームに呼ばれた綾は入店しようかどうか悩んでいたが、お店の店長に入店して欲しいと懇願され、また時給も3000円からと聞いてお金に困っていた綾はその場でOKを出した。
入店してからは早かった。
最初は田舎から出てきたということもあり、まだ垢抜けていない一面があったが、化粧も次第に覚え、元々話も綾は上手な方なので、一気に人気嬢にかけあがった。
顔立ちや明るさだけではなく、社長、ホスト、サラリーマン、無職…どんな相手であっても分け隔てなく対応してきたことが綾をここまで一気に押し上げたのだろう。
もちろん人気が出てくればいじめのようなものもあったが、そんなことで負けていられない理由があったことで自分を奮い立たせて頑張った。
当然、それに乗じて給料も上がっていき、仕送りを多めにしても自分に使えるお金は増えていった。
そしてこの頃、綾には彼氏もいた。
健がいなくなってから男の人に一切の興味がなかったのだが、健のことも話して理解してくれ、励ましてくれた浩太だ。浩太は綾が健のことを好きでいるということを知ってはいたがそれでもいいと告白されて付き合うようになった。本当に浩太には今でも助けられている。
「ただいまー…」
「おかえり!」
別々に暮らしてはいるが時々、こうしてお互いの家を行き来していた。
「今日も凄い飲んだよ…お客さんできるのは嬉しいけどそれはそれで悩みが増えるね。」
「何その贅沢な悩み(笑)でもまぁ飲み過ぎないように気をつけて!」
浩太はいつも綾を気遣ってくれる。こういう優しさに惹かれて綾は浩太の告白を受け入れたところがある…もちろん甘えすぎているかもしれないが居心地がよくてそこに浸っていた。
そして、震災から3年も経ち仕事も生活にも余裕ができたこの頃、ようやく綾も健のことを忘れられそうになっていた。
あの日までは…




