第四章~漂流と記憶~/記憶
最初に眠りについたときの夢…実はそれは本人の過去の記憶。
本人は過去の記憶だということに気づいてはいない…。
それは間違いなく健の記憶だ。健は生きていた。
震災の日、地震の後の津波を注意する呼びかけにいち早く気づいた健はすぐに綾を探した。
全校生徒が混乱している中でなかなか綾を見つけることが出来ず、気づいたら津波の勢いはすぐそこまできており、その時ようやく綾の姿を見つけた。
綾は呆然としており津波に気づいていない。
全校生徒が逃げ惑う中、健はその人の波を逆走して綾の背中を押して叫んだ。
「逃げろ!走れ!」
その瞬間、早すぎる津波の勢いに何も出来ないまま健は飲み込まれてしまった。
一度飲み込まれてしまったらその強い波の勢いに身体をじたばたさせることしかできず、それをあざ笑うかのように波は健を飲み込んでしまった。
津波にさらわれた健は綾が助かったことを信じつつ、また何も出来ないと察して身体を動かすことをやめ、そのまま意識を失った。
意識を失った直後。
綾を助けたことを神様が見ていたのか、家屋の瓦礫、船、車など危険な浮遊物があるなか、健は流されてきた布団に身体を包まれてその布団は浮遊物の上に乗った。身体を動かすことをやめたことも功を奏して体力があまったまま奇跡的に助かったのだ。
しかし、意識を失ったまま誰に見つかることもなくしばらく海の上を漂流していた。
津波による波も引いていき、健は嵐が去った後のような穏やかになった海の上をあらゆる瓦礫と共に流れていた。そんなときにおじいさんとおばあさんに助けられた。
「おじいさん…また遺体が流されてきましたよ…」
老夫婦は何度もその光景を見ており、遺体を見つけては陸に上げて手を合わせていた。
「本当だねぇ…一体どのくらいの人が亡くなったんだろうか。」
「引き上げて布を被せておきましょう。」
何度この会話をしたのかわからないくらいだったがついつい同じ会話をしてしまっていた。
それだけ多くの方が津波によって亡くなっていたことを物語っていた。
今日ももう5人目…
そう思いながらおじいさんは流れてきた健を陸に引き上げた。
しかし、いつもの遺体とは少し様子が違うということに気づき、耳を口元に近づけた。
かすかにだが息をしている…
その瞬間、驚いた顔をし、近くにいたおばあさんに興奮した声色で
「生きてるぞ!!」
と叫んだ。
おばあさんは一瞬意味が理解できずに
「はい?」
と疑問を持ち、おじいさんが急にボケたのかと心配しつつ近づいてみた。
…しかし顔を見た瞬間、おじいさんがボケていないことがわかった。顔色もいいし、良くみると呼吸をしていることがわかる。
おばあさんはすぐにおじいさんに背負うように伝えて家で布団の準備をした。
身体が冷え切っている健の濡れた服をおじいさんが自分の寝巻きに着替えさせ、おばあさんは部屋にストーブを持ってきて暖かくした。
3月は春というイメージがあるが東北はまだ寒い。
これ以上、身体が冷えてしまったら命を落としてしまうことも充分に考えられた。
今出来ることの全てを行い、後は健が目覚めるのを待つことにした…。
どのくらいの時間が過ぎた頃だろうか…健が目を覚ました。




