第三章~喪失と崩壊…そして一年後~/一年後…
東日本大震災から数ヶ月も経つと世間は落ち着いてきた。震災後はテレビCMも企業が自粛して同じようなものが流れていたがそれも次第に企業のCMが流れるようになり、物資や募金の募集を促すような内容の番組も減ってきた。
当然ながらまだまだ復興は程遠いが気持ちの上で綾も落ち着いてきた。
母親の状態は父親の亡骸を確認して以降、未だに変わっていなかったが父の葬儀も綾が出来るだけ手伝って終わらせ、さらに健も見つからないことで健の両親が死亡届を提出して葬儀を終わらせた。
どうして東北だったのか、どうして綾だったのか…綾は毎日自問自答した。
高校を卒業しても綾は将来が全く見えていなかった。
そして何も考えることなく震災から1年後…
綾にとって高校最後の1年は楽しいとはいえなかったが何かトラブルを起こすでもなく卒業の日を迎えた。
明日から高校生というネームバリューがなくなる…そう考えると不安でいっぱいだったが、家には精神が壊れてしまった母親と高校生になる妹がいるから考える暇もなく、とにかくお金を稼がないといけないということしか思考の行き着く場所がなかった。
何があっても時間が経過すれば解決するなんていわれるが、綾の中では時間が止まったままでいる。
精神が壊れてしまい、口数も最低限しか話さず、交友関係もなくなってふさぎ込み、10歳も実年齢より上に見えるような老け込んだ母親、健までもがいなくなったこと、そして将来どうすればいいか…全てあのときのままでいる。
この一年間、綾なりに出来ることは頑張った…
ただ、母親は立ち直る気持ちが本人に無ければ人間は脆い。結局は何も変わらずに綾はほとんど諦めた。そして諦めた瞬間に全てがどうでもよくなった。
高校までの一年間は東日本大震災により、国からもらえるお金に頼って生活することが出来たが母親は仕事をしていなかったから、裕福な生活にはならなかった。
そしてこれからは綾も働かないといけない、お金を稼がないと家族全員が餓死してしまう…そう考えてより稼げそうな東京へ行くことにした。
当然ノープランで上京してから仕事を探そうとしていた。
そしてその頃、時を同じくして上京した人がいた…。




