いつかの未来に
「ここを、こうすれば……っと」
景介はドライバーで慎重にネジを回した。確かな手応えが帰ってきたところで、二度三度と確認をした。
「か、完成だ!」
ドライバーを机の上に落とし、景介はイスから飛び上がった。その勢いでイスが大きな音を出して倒れた。
「ど、どうしたの、お兄ちゃん? 大丈夫?」
景介の隣の部屋にいた美晴が、驚いた表情で扉をあけていた。
「おお、美晴! ついに出来たんだ! 完成したんだよ!」
「何が完成したの?」
美晴は部屋の中に入りながら、景介に質問をした。
「お前へのプレゼントだよ! やっとあの時の約束を叶えられるんだ!」
「……やくそく? うーん、覚えてないやー。ごめんね」
美晴は申し訳なさそうに笑ってみせた。
「大丈夫だ! 美晴が覚えていなくても俺が覚えているからな! ハッハッハー!」
底抜けに明るく景介は高笑いした。
「どうする、美晴? 早速、受け取るかい?」
「お兄ちゃんこそ、私に早く見て欲しいんでしょ?」
「流石はわが妹! そこで待っていろ!」
景介はそう言って、先ほど完成したプレゼントを部屋の中心に持ってきた。コンセントを伸ばし、プラグを差し込む。
「これがプレゼント?」
「ああ、そうだ」
「手作りプラネタリウムに似てるね。前にテレビで見たことあるよ」
「その類ではあるが、俺が改造したから、そんじょそこらにあるものとは同じではないぞ!」
景介は美晴に部屋の真ん中に来るように手招く。美晴がゆっくりと真ん中付近に来たところで、景介は部屋の電気を消した。
「おお!」
部屋の中は一瞬で青色に染まっていた。
美晴は部屋の中を見回す。綺麗な珊瑚礁が佇まい、色とりどりの魚が優雅に泳いでいる。
「すごい! 海の中にいるみたい!」
「ふっふっふー」
景介は得意げに鼻を鳴らした。
「これ、写真じゃないんだね!」
「まあな。そこは俺の腕の店どころさ。でも、これだけで驚いてもらっちゃあ困るんだよな」
美晴が装置の近くにいる景介を見た。景介はゆっくりとしゃがみ、装置についている取っ手をくるくると回した。
すると、辺りを覆っていた青い世界はゆっくりと緑に囲まれた世界へと移り変わった。
「え!? 変わった」
「そう! こいつは取っ手をくるくると回すだけで景色を変えられるのさ! この仕組みが難しくて時間がかかってしまった」
景介は頭をかいた。美晴は景介の様子そっちのけで、部屋に映る映像に見入っていた。
「これ、山の中を進んでるの?」
「おお、よく分かったな」
「山頂まで行くの?」
「行くぞ」
美晴はじーっと映像を見続ける。ゆっくりと森の中を進む映像が続く。
「山頂まで行ったことないから楽しみ」
「そうか!」
そして木が生い茂る道を抜け、映像に表れたのは、澄んだ水色の空と燦々と輝く太陽の眩しさだった。
「おお、まぶしいー!」
「今、夜なのにそんなことも忘れてしまうな! 流石は俺!」
「そうだね! 流石はお兄ちゃん!」
「実はな、まだまだ映像はあるんだよ~」
そして景介は、取っ手をくるくると回し始めた。
装置の電源を落とし、景介は部屋の明かりを点けた。
「ありがとう、お兄ちゃん! これ、本当にすごいね!」
「だろ!」
二人は顔を見合わせて笑った。
「これからああいった景色を、自分ひとりで見れたらいいなぁ」
「何言ってんだよ。もうすぐ見れるじゃないか」
「うん」
「その時のために、こいつで予習しておくといいさ」
景介は美晴に装置を手渡した。美晴は両手で大事そうに抱え、丁寧に膝の上に置いた。
「よし、今日はもう遅いし寝るぞ!」
美晴は笑顔で頷いた。
景介は美晴が乗る車椅子のハンドルを持ち、タイヤを転がし始めた。
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