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アンダーグラウンド・サイコロジー

作者: 遥 一良
掲載日:2018/05/03


 見えないモノを求めて生きている。とは、人間のこと。心は形で見えないモノ。それを見られるのは、人が何かの行動、行為をした時。または、表情に出したり声の抑揚で相手に分かるようにした時だ。でも、自らが見えない壁を作った時、それが見えなくてもどうしてか、他人には分かられてしまう。


 彼女もそんな人だった。見えない壁を作って、会話と言う手段をやめた。コミュニケーションを求めることはしなかった。ただ1人を除いては。


 データを入力する仕事。ただひたすらに目の前のPC画面に視線を集中させて、キーボードをたたく。誰に言われるまでも無い、自分との戦い。言われてもいないけれど、正確に速くに文字と数字を埋めて行く。


 決められた時間の中にあって、人と会話をする時間は限りなく少ない。だからこそ、会話には感情を出して欲しいのだけど、彼女はその一切を必要としなかった。同じ入力者、仲間、同僚。その誰とも会話せず、彼女は入力という仕事に埋没した。


「あ、お早う。霧咲きりさきさん」


「……」


「え、えっと、今日は少し遅れて来たけど、遅延?」


「……」


 何も声が返って来ない。彼女と友達でも何でもない。同じ場所の同じ時間、席が隣と言うだけの関係。それでも、最低限挨拶だけはして欲しいというのは、平凡すぎる社会人としての平凡な望みなのだろうか。


 彼女は、わたしだけに返事をしないのではなかった。同じ入力者は他にも数人いる。男女問わずに、見えない壁を作っているのだ。たとえ、新人が入って来ても会釈だけ。彼女は今までどうやって生きてきたのだろう? そんな余計なお世話的な心配をしてしまった。


 こんな余計なお世話は、彼女には本当に要らぬ杞憂だった。それが顕著に見えたのは、とある男性との笑顔だった。


「えーーそんなことないですよぉ」


 一瞬、耳を疑った。え? 何今の……って、彼女ってあんなに笑うんだ。彼女が話す人。それは、会社の上司に当たる人。つまり、彼女の見えない壁はわたしたちだけに作られたものだった。


 ある意味で、職場の嫌なおっさんもとい、上司との関係を円滑に進め、業務を滞りなく進めている影の立役者なのかもしれない。わたしたちに彼女の心が見えなくても、仕事は進んでいるのだから。


 会社あるいは、その場所の偉い方には笑顔を見せて、丁寧な言葉遣い……そして愛嬌。彼女の生き方にケチなんて付ける筋合いなんて無い。それも一つの生き方だから。それでも、それはずっと通用するのだろうか。そう思いながら、わたしたちは今日も無表情、無口なままで入力を続けている。

アンダーグラウンドは直訳では地下ですが、今回の意味においては影もしくは見えないという意味で使用しています。

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