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この世界を救うにはリョナるしかない!  作者: 手厚いサービス
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賑やかな街・ハラパン

 昨夜は部屋に運ばれた夕餉を平らげ、早々に寝てしまった。

部活からの召喚、半日プラスされた時間で体内時計がズレていたらしい。


「チュンチュン」

 外からスズメより少し低いが鳥の鳴き声が聞こえる。


「こっちでも朝チュンか」

 言いながら伸びる。凝りをほぐして体の調子を確かめる、問題なさそうだ。


「おはようございます、ニシダ様」


「おはよう、イェンナさん」

 イェンナさんは既に朝の身支度を済ませているようだ。寝巻きを見た記憶がない、少し残念だ。


「ところで、身支度をしたいのだけど、トイレ、洗面所、お風呂は何処にありますか?」


「トイレは廊下に出て右、洗面所はこの部屋の食器棚の横に小さいですが付いてます、お風呂は申し訳ありません、貴族様のご家庭にあったりなかったりです」


「ラジバンダリ?」


「?」


「すみません、忘れてください」


「街のものは、週に何度か公衆浴場に行きますね。以前は毎日お入りになられてたのですか?」


「そうですね、そうなります」

 下を向く。昨日までの当たり前の毎日を思い出し、一瞬泣きそうになったが何とか堪えた。


「神官様にそれとなくお伝えしておきます、便宜が図れると良いのですが……」


「ええ、助かります」


「それとこちらにお洋服を用意いたしました、どうぞご利用ください」


「分かりました」


「それでは私は隣の部屋におりますので、何かありましたらベルでお呼びください。失礼します」


 そう言い残し、イェンナさんは部屋から出て行ってしまった。


「さて、顔でも洗いますか」




「チリンチリン」

 暫くして、パタパタと廊下から足音が聞こえ、部屋のノックが2回。イェンナさんが部屋に入ってくる。


「お呼びでしょうか?」


「神官様が来るまで、まだ少し時間あるよね?ちょっとで良いから街の様子を見たいのだけどダメかな?」


「うーん、そうですね」

 明らかに困った顔を浮かべさせてしまった。


「私と一緒だと少し難しいかもしれません」


「1人なら?」


「可能ですが、すみません、あまり離れないように言われまして」


「それなら、そこの広場を1周はどうだろう?」


「あ、それなら大丈夫ですね。少々お待ちください、近衛兵の皆さんに協力をお願いしてきます」

 言うが早いか、部屋から出て行った。



——5分後


「ニシダ様、こちらお使いください」

 フルフェイス近衛兵セット。イェンナさん有能ですね。


 さっそく装備して広場へ向かう。


「私はこちらでお待ちしてます。目立たないように近衛兵がこっそり見張ってますのでご安心ください」


「はい、それでは行ってきます」


 協会の宿泊所から一歩二歩と踏み出す。

初めに太陽の眩しさが、そして街からは朝の喧騒が大きな波となって押し寄せる。


「神の使い様のグッズ発売中だよー!」


「ミス・ハラパンのイェンナちゃんイラストはこっちよー!」


「ヤァ近衛兵のアンちゃん、朝メシまだだったら今食べて行っちゃいなよ出来立てホカホカ!」


 広場だけで1000人以上集まっている。しかもイェンナさんと俺目当てがほとんどだ。


「参ったな」

 思わず心の声が漏れる。



「オッケー、コンソール」


「サーチ」


 何箇所か光る。広場を1/4ほど歩く。


「サーチ」

 何箇所か光る。広場を1/4ほど歩く。


「サーチ」

 何箇所か光る。広場を1/4ほど歩く。


「サーチ」

 何箇所か光る。最後に中央の噴水付近へ移動する。


「サーチ」

 概ね広場にいて視界に入った範囲は問題なく光らせることが出来た。

街は渋谷のハロウィンほど無法地帯でなく、夏祭りのような賑わいで、程よく活気に溢れてて嫌いじゃなかった。


「そろそろ戻りますか」





 部屋に戻り、フルフェイスセットをイェンナさんに返す。イェンナさんが近衛兵に装備を返しに行くタイミング、入れ替わりで神官のキースさんが入ってきた。


「おはようございます、ニシダ樣」


「キースさんおはようございます」


「おや、疲れも幾分か取れてるようですね。昨日よりはだいぶ顔色が良いですよ」


「えぇ、昨日は随分早く寝てしまいました」


「何か困ったことはございますか?」


「……。とりあえず今日の予定を教えてください」


「まず広場で王都に行くことを宣言します。基本的な進行は、不詳ながら私めが務めさせて頂きます、ニシダ様からも一言頂ければと存じます」


「その後、辺境伯の馬車で王都に向かいます。今夜はハーヴィー子爵の邸宅に一泊いたします」


「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」






 目だ。いくつもの2つの目がじっとこちらを捉えて離さない。


「ご紹介に預かりました、ニシダです。私は元の世界に帰りたいと考えています。それが結果としてこの世界を救うことになるなら、やります。元の世界に戻る方法がなければ、私も皆さんと同じように日々を暮らしたいです。どうぞ宜しくお願いします」

 

 ぺこり。


 万雷の拍手にはならないが、そこそこ歓声も聞こえる。滑らなくて本当に良かった、内心ヒヤヒヤした。

 

「いいぞー!」


「きゃー!かわいいー!」


 

 神官キースさんが後を繋いでくれてる。パカラ、パカラ、ガラガラガラガラと馬車の音が響く。


「えー、皆さんお待ちかね。我らが領主のご登場です!」



 広場の前に馬車を乗り付け、白髪長髭のナイスミドルが颯爽と降り立つ。


「ノーウェン・ルーズである!」


 キースさんが立っている朝礼台まで歩いて行き、観衆に向けて言い切った。


「君が神の使いか、歓迎しよう。そして君に出来る限りの協力をこの場を借りてぇ、宣言する!」


 

 沸き立つ観衆、飛び交う歓声がやがて一つに収束される。


「ノーウェン!」「ノーウェン!」「ノーウェン!」「ノーウェン!」



 ノーウェン辺境伯が手を掲げ、静まり返る。


「これより神の使いを王都に送り届ける!吉報を待っておれ!!」


「ノーウェン!」「ノーウェン!」「ノーウェン!」「ノーウェン!」


 神官キースさんに促されて、ノーウェン辺境伯に近づく。ノーウェンが最高の笑顔をこちらに向け、手を差し出した。場の雰囲気に完全に飲まれて、握り返す。


 ワッと歓声に包まれてお互いの耳元で声を張る。


「ニシダです。西田サトシ。宜しくお願いします」


「ノーウェン・W・ルーズである。領民の手前、偉そうにしておるが何、ただのジジィよ。宜しく頼み申す」



 ノーウェン辺境伯は再び慣習に向き直り、一言告げる。


「では行って参る!」

 

 ノーウェン辺境伯が手を高々と掲げている間に、僕らは馬車に乗り込んだ。

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