コンソール
「オッケー、コンソール」
瞬時に、視界の左下に、新しい黒い画面が表示される。【召喚読本】の翻訳と重なっているが、外枠の部分で重なりが区別され、特に見辛くも無い。【召喚読本】に記載があった内容で、一番気になっていたステータスから試す。
「ステータス」
直ぐに画面の表示が切り替わる。
【西田サトシ 学徒 Lv1】
【魔法】
【スキル】暗記
【趣味】同人活動。部長の顔を舐めるように眺める
【ステータス】HP:10 MP:10 SP:10 体力:15
「……」
この趣味欄はダメだな。ひた隠しにしてる真実をさらけだして知られたくない事がバッチリ表記されている。幸いなことに同人活動の内容までは書かれていなかった。リアル知人は親友のトモキにしか知られていない、クラスメートに見られたら恥ずかしくて1日2日は寝込む自信がある。
「……」
ステータスはお世辞にも高くないだろう。俺ツェェ出来なくて少し残念。
イェンナさんが『ジッ……』とこちらを見つめてくる。可愛らしい大きな瞳、目が合って困惑している眉、淡い少し紅みがかった栗色の髪、少し厚めの唇にドキドキしてしまう。
「いかがですか?」
「うん、自分の状態が確認出来た」
「それで、その、お強いのでしょうか?」
「いや、全然ダメだね」
努めて明るく笑ってしまう。自虐的だが、事実だ、仕方ない。
「レベル差もあるだろうけど、神官のキースさんの方が確実に強いよ、100回戦っても100回倒される」
「それは……。最初ですからそうですよね。でも、儀式さえ終えてしまえば神から専門職が授けられますよ」
「それは、イェンナさんも?」
「はい、私も随伴する形で何かしらの変化があると聞いてます」
「契約後の職業がどうなるか、調べて見ようか」
『ステータス』で自分の画面が見れたのだから、『調べごと』もストレートにいけるのかなと安直に考える。
「オッケーコンソール」
「調べごと 職業」
>$ Usage: status, search, help, exit
どうやら違ったらしい。『ヘルプ』と『エグジット』は【召喚読本】に記載がなかった。試してみたい衝動を抑えきれない。これはもしからしたら、元の世界に戻れたり、何か不思議な力で助けが呼べる、凄い内容なのではと期待してしまう。
「エグジット」
おそるおそる、非常に丁寧に発音した。
一番手前のコンソールが消える。夢なら覚めて欲しかった。
「ヘルプ」
>$ コマンド及びコンソールの解説をします。
現在使えるコマンドは『ステータス』『サーチ』『ヘルプ』『エグジット』の4つです。
ヘルプはオプションとして、対象コマンドを指定することが出来ます『ヘルプ コマンド名』
「ヘルプ エグジット」
>$ コンソールを閉じます。
エグジットはオプションとして、『オール』のオプションが使えます。
「エグジット オール」
重なっていた2つのコンソールが同時に消えた。
「……だよなぁ」
虚無感から逃げるように、布団に潜り込む。一瞬元の生活に戻れるかもと期待してしまった分、たちが悪い。どうしよう現実を直視できない、辛い。
「あの。……大丈夫ですか?」
うなずけなかった。布団に潜り混みすぎてよく分からないが、かなり近い距離から囁かれてもショックからか体はピクリとも反応しない。
「何か暖かい飲み物をお持ちしますね」
そう言い残し、扉の開け閉めの音が聞こえた。格好悪いところを見せちゃったな、と少し反省した。布団からは出られそうにないが、現実と向き合うことにした。
「オッケー、コンソール」
「ヘルプ ステータス」
>$ 対象の現在のステータスを表示します。
ステータスはオプションとして、『ステータス 個を特定できる呼び方』が有効です。
オプションが未指定の場合は、第一優先として接触している対象を、第二優先として自身のステータスを表示します。
「ステータス イェンナ」
先ほど表示されたスリーサイズ込みのステータス画面が表示される。数値だけで人の心を満たしてくれる。大変グッド。めっちゃグッド。
「ヘルプ サーチ」
>$ 1.記憶のインデックスされている内容を検索します。
2.現在空間の探索が行えます。
サーチはオプションとして、『サーチ 名称』が有効です。
オプションが未指定の場合は、空間の検索のみを行います。
「サーチ 職業」
・戦士 力が強く、斧や大型の剣などが得意だ
・騎士 盾の扱いが上手く、貴族階級の最下層に位置する
・格闘家 身体の扱いが抜群に上手い、隙は無いように見えるが集団戦闘が少し苦手だ
・神官 傷を癒すことが出来る、パーティの要だ
・魔導師 強力な範囲攻撃が出来る。敵に囲まれた際に必ず必要となるだろう
・冒険者 斥候や荷物持ちを行う。力は強く無いが旅をするのに便利な技能を揃えてる
・狩人 弓、罠、気配を消す、急所狙いで一撃で死に至らしめられる
・盗賊 人の物を盗むとなる、奉仕ボランティアをする事で解除可能。粗野な人間が多く、元の職業が分からない、厄介だ
・罪人 正当な理由なく他者を殺した者。これに魔物は含まれない
・奴隷 この世界の奴隷に人権なんてものは存在しない
総数60(レア20)
なるほど。これは便利だ。
「サーチ」
扉が光った!それと同時にノックがされ、扉が開かれる。イェンナがお盆の上に、茶器を携えていた。どうやらイェンナさんのポケットが光り輝いている。
「紅茶です。ミルクはこちらに」
「イェンナさん、契約完了後の職業は分からなかったです。どこかで調べられると良いのですが……。ご存知ありませんか?」
「明日、神官様に聞いてみましょう。王都への移動は馬車で2日ほど掛かります。良い時間の使い方になると思いますよ」
両手をちょこんと合わせて答える。
さて主題だ。矢継ぎ早に質問した。
「それと、ポケットに入っている物をお聞きしても?」
笑顔だったイェンナさんの顔が一瞬固まった。
「……。すみません、護身用の針を持っています。不足の事態に備えてです、ご容赦ください」
張り付いた笑顔のままで、とんでもない発言をする。
「自分で言うのも少しどうかなと思うのですが、私この街では少し人気者なんですよ。それでニシダ様が召喚なされたでしょう。先ほどお茶を煎れる際に、母から手渡されました。『街の人たちがお前の話題で持ちきりだ、何かあってからでは遅いからコレを持て』なんて」
気軽に聞いた反動で、心が痛む。
「もちろん使うつもりはありません」
「あの、この部屋は安全ですよね」
「あそこの扉、前に2人、廊下に3人も辺境伯様の近衛兵がいますよ。召喚成功の知らせが届いて、先ほどからいらっしゃるみたいです。この街で最高の警備体制ですね」
扉を見て、直後に室内に1箇所ある大きな窓に目をやる。
「建物の外にも近衛兵がいます」
察し良く、聞かずとも答えられてしまった。
「あの、嫌でなければ今晩一緒の部屋に泊まりませんか? 幸いこのベッドはセパレートタイプのようですし、私も学徒のままでは元の世界に戻る方法が見つけられないと考えています、契約は調べてから行いますが、レア職になれるなら、あまり迷う必要もないと思ってます」
目を見開いて、頬を染めながら驚かれる。
「それは遅かれ早かれお前は俺の女だ、と言う事でしょうか?」
「え……。いや……」
「フフ、冗談です」
今までで一番艶っぽい笑顔。スッと瞳を閉じ、両手でスカートの左右両端の裾をはらりと持ち上げる。
「どうぞ宜しくお願いいたします」