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普通な話  作者: ツバキ
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西岡

 ああ、佐藤君は今日も普通。なんであんなに普通なんだろう。長すぎず、短すぎないさらさらの髪。170cmというちょうどよい身長。得意教科も苦手教科も特にないという平均ぶり。写真を撮る時は、端でもなく真ん中でもなく、要は端と真ん中の真ん中である。無難な位置だ。


 私は、そんな彼に恋をしていた。なぜ彼を好きになってしまったかなんてよく覚えてない。見ているうちに、これは恋だとふと思ったのだ。

 彼のどこに惚れたか。それは言わずもがな彼の普通ぶりだ。普通な彼の「特別」を見たかったし、私自身が彼の「特別」になってみたかった。佐藤君のいつもと変わらない落ち着いた感じ、要は普通なところが、私には魅力的だったのだ。


 じっと佐藤君を見つめ続けていると、彼は私の視線に気づいたらしい。バッチリと目が合った。

 さて、私と目が合ってしまった彼はどうでるのか。


「ねえ、佐藤君」


 ……なんてことだ。人に話しかけられることによって、目を逸らすという少々気まずい行為を回避した。相手の記憶にも残させないような、そんな普通な流れだ。少女漫画や小説の「普通」であれば、こうはいかない。


 例えば、佐藤君が少女漫画のヒロインが恋するイケメン君だとしよう。そして、このヒロインは私になる。漫画の場合、私と目が合った佐藤君はイケメンスマイルを振りまきながら小さく手を振るはずである。もしかしたら、照れながら顔を逸らしてしまう場合もあるかもしれない。


 だが、佐藤君はこれを回避した。私をキュンとさせることもなく、不安にさせることもなく、まあしょうがないよねと認められる目の逸らし方をしたのだ。やはり彼は本物だ。


 だが、普通じゃないことが1つある。それは、話しかけた相手がこの学校1のイケメン池崎君だということだ。


 スポーツ万能、成績優秀、優しさとしっかりした性格を持つ彼は、まさにイケメンの名を我が物にしている。彼のかっこよさは、認めざるを得ないだろう。


 だが、いくら池崎君が話しかけたからといって相手は佐藤君。どうせ普通な内容だろう。例えば、「山田先生が呼んでたよ」とか。呼ばれて行ってみれば、先生がいなくて学校中探し回るとか。ああ、割と普通だ。


 チャイムが鳴った。退屈な授業が始まる。私は息をついて教科書を取り出した。私から少し離れた斜め前の席に座っている彼は、もうシャーペンを手にしていた。




 放課後。彼は今日も普通に過ごした。どんな行動も、私と目が合った時のようにするりとかわしてしまう。休み時間は友達と喋り、帰る時はイヤホンを耳に入れ、特に大きなアクションを起こすわけもなく教室を出る。彼の背中を見送って、私もイヤホンを耳に入れた。


 今日もまた佐藤君に話しかけれなかった。そもそも会話のネタがないというのもある。彼は普通故に、普通なことをしていれば案外すぐに共通点が見つかると思うのだが。


 教室を出て息をつく。最近人気の4人組バンドの音楽を再生した。軽やかなリズムが、私の心を少しだけ明るくさせる。


 すると、突然腕を掴まれた。びっくりして振り向くと、そこには池崎君がいた。イヤホンを外してみせると、彼はホッとしたように笑う。


「ごめんね、急に腕掴んじゃって」

「い、いや、大丈夫」


 目の前のイケメン池崎君に戸惑ってしまって、まともに目も見れないし返事もできない。


「掃除の時、上野先生が西岡さんのこと探してたよ」

「あっ、そうなんだ。わざわざ教えてくれてありがとう」


 池崎君は爽やかに笑ってみせた。


「どういたしまして。また明日ね、西岡さん」


 彼は軽く手を振ってすぐに友達の輪の中に入ってしまう。本当に優しいんだなと、私はまた彼を崇めたい気持ちになった。


 せっかく池崎君が教えてくれたことだ。上野先生の所に行こう。そういえば、数学の課題を提出してなかったから、もしかしたらそのことで用があるのかもしれない。


 私はイヤホンをポケットにしまい、職員室に向かったのだった。

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