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月蝕  作者: 双月 
1/1



この世にいる人は皆、心に鬼を飼っているらしい。


「いいかい、望月もちづき。よぉく聞くんだ。

人は心に鬼を飼う。鬼は心に何時も在る。

鬼は人が死んだ時に初めていなくなる。

決して、鬼に負けてはならないよ。」


小さいころ、私は祖父にそういわれ続けた。

そのたび、私はいろんなことを思ったものだ。


――鬼ってなぁに?


――どうして人は鬼に負けちゃいけないの?


――鬼はどうして、人の心に在るの?


――負けるときって、どんなとき?


でも、何故か、私はそれを祖父に聞けなかった。

大好きな祖父でそのほかのことは何でもいえたし聞けたのに、

何故かそれだけは、聞けなかったのだ。

祖父は聡い人であったから、多分私が聞けないでいることにも気づいていただろう。

だけど、祖父はそれを私に尋ねさせようとはしなかった。

だけどその代わり、必ずこうしてくれた。


まず、穏やかに笑う。

それから、私の頭をやさしく撫でる。

そして、穏やかに私に向かって云うのだ。


「鬼っていうのはな、本来怖いものではないんだよ。

むしろ、優しいものなんだ。本来はね。」



――なら、どうして負けちゃいけないの?



そんな疑問は常にあった。

だけどやっぱり、私は祖父に聞けなかった。


月日は流れた。まるで祖父のように穏やかに。

月日が流れれば、私も成長する。祖父も同様。

いや、祖父は成長、というよりも、

確実に人生の終着点へと向かっている。

すなわち、段々と老いていった、というのが正しいけれど、

でも、成長、という言葉を私は使った。

そのほうが、なんとなくしっくり来たのだ。私には。


とにかく、月日は流れた。

私と祖父は、お互いに『成長』した。

そして私が中学を卒業した翌週に、祖父は『成長』をやめた。

最後の最後まで穏やかに、ゆったりと優しく『成長』を止めたのだ。

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