6 déjeuner
「っていうことがあったの!でも、まだ次の約束はできてなくて…」
「それはもう、璃子から行ってもいいんじゃない?向こうだって、璃子と飲みに行きたいって思ってるんだし」
「そうかなあ…」
こうやって、遥子とのランチタイムに恋バナをするのは何度目だろう。少し前の私なら、相談をされることはあっても、自分の恋愛話をすることなんて考えられなかった。
「でも、最近の璃子はほんと輝いてるよ。私が男だったら絶対惚れてるわ」
「え!?」
遥子の予期せぬ言葉に、おにぎりの具を地面に落としてしまった。ああ、鮭が…。
「あたし以外の人も、みんなそう思ってると思うよ。最近、すごく明るく前向きな印象だもん。絶対、加藤さんの目にも魅力的に映ってるって」
具なしになった私のおにぎりを哀れんで、遥子がお弁当の卵焼きを1切れ乗せてくれながら言った。それと同時に、なぜだか拓海の顔が脳裏に浮かぶ。
あの夜の…『貴女は魅力的』という言葉と優しげな微笑みが。
…でも、考えてみると、私が変われたのはそもそも拓海のおかげなんだから、べつに頭から消えなくてもおかしいことじゃないような気もする。週1で会ってるわけだし。
「やっぱ、女は恋すると綺麗になるんだねー。あーあ、私も恋したいな」
「遥子は彼氏いるでしょ」
「でも遠距離だもん。いつでも会える人がいいんだよねえ」
遥子には大学時代から続いている彼氏がいて、今年で交際4年目になるらしい。就職と共に彼が関西へ行ってしまって、泣く泣く遠距離恋愛をするハメになったのだ。
「大阪の女と浮気でもしてるかもしれないしー」なんて軽々しく言いながら、遥子はミニトマトを口に放り込んだ。トマトを最後に食べるのが、彼女のポリシー。
「そんなことないよ。遠距離なのにこれだけ続いてるんだし」
ごく…と喉を鳴らして飲みこんだ後、遥子が急に黙り込んで私をじっと見る。
「ど、どうしたの?」
「……私ね、ほかに好きな人できた」と、彼女は深刻そうな声で言った。
「えっ!?彼氏以外にってこと?」
「そう。陶芸教室の先生なんだけど…」
遥子は月に2回ほど、趣味で陶芸教室に通っている。たしか去年通い始めたとき、イケメンの先生がいるとか言ってたっけ…。
「それって…彼氏と別れて、その人とつきあいたいってこと?」
「うーん。そこまではまだわからないけど、彼氏と電話するよりも先生と話す方が楽しいなって思って…。なんとなく向こうも、好意的に接してくれてるような感じがするんだよね」
そう言って笑う遥子は、もう完全に恋する乙女の顔をしていた。
好きな人がいるはずなのに、また別の人を好きになるって…やっぱりあるのかもしれない。加藤さんのことだけでいっぱいになってしまう私には、きっと無縁の話だけれど。
ランチを終えてオフィスに戻ると、社内用アドレスにメールが届いていた。送り主は、同期の男性社員だ。
一体何事かとメールを開くと、今夜2人で飲みに行かないかという内容が書かれていた。
少し話したことがあるぐらいで、それほど仲が良いわけでもない人だし…。きっと、送り間違えたんだろう。そう思って、私はそのメールを削除しておいた。
―――それがある災いを招くことになろうとは、私は予想もしていなかった。




