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Ma chérie  作者: 華百合
5/29

5 la jolie fille

 私は毎週水曜日、隣の駅の近くにあるBar『Ma chérie』に通っている。

目的はお洒落な空間でおいしいカクテルを飲むこと、それから……



 「え、飲みに誘われたの?すごいじゃん!なかなか進展してきたな」

「ふふっ、拓海のおかげだよ」

「お。嬉しいこと言ってくれるね」

ここへ来ることも最初は少し緊張していたけれど、回数を重ねるごとに自然と和らいでいった。なにより、拓海とだんだんと打ち解けてきたのが大きかったんだと思う。

「今日は、拓海のおまかせで」

「いいよ!何にしようかなあ」

腕組みをして、うーん…と少しの間、思案顔になったあと手際よく何かを作り始める拓海。その合間に、隅の席に座る女性にお水を出してあげていた。

私の相手をしながら、他のお客さんのこともきちんと気にかけている彼は、本当に気の利く人だと思う。

おまたせ、と言って拓海が私の前に出したのは、赤紫色のお酒。

「“カクテル言葉”って、知ってる?花言葉みたいに、カクテルにも意味が込められてるものがあるんだよ」

「え、そうなの?知らなかったー。どんなのがあるの?」

拓海はグラスのふちに真っ白な花を飾りながら、

「貴女は魅力的」

と、そっと囁いた。

「え…?」

カシスソーダ(これ)のカクテル言葉だよ。いつも真面目で一生懸命な璃子に、作ってあげたくなったんだ」

そう言って、柔らかく笑った拓海。

別のお客さんに呼ばれて、彼は「ちょっとごめんね」と言い残して歩いて行った。


なに、今の…。

わたし、なんでこんなにドキドキしてるの?


                    *


 今夜は加藤さんと飲みにいく約束をしているけど、定時を過ぎてもなかなか仕事が終わらない。

それは加藤さんの方も同じのようで、課長としきりに何かを議論している様子。

時計を見ると……もう20時だ。これはもう、今日は無理かな。


 「はい、どうぞ」

はっとして書類から目線を上げると、すぐ隣に加藤さんが!

「えっ…!?」

驚いて立ち上がると、加藤さんが「おおっと…」と後ろに1歩下がる。彼は手に、カップラーメンを2つ持っていた。

「このまえ、コーヒー淹れてくれたお礼。俺の非常食やけど、1つあげるわ」

「いいんですか?ありがとうございます」

右手に持っていたラーメンを私のデスクに置き、加藤さんはもう1つの蓋をぺりりと開けた。そして、デスクに腰をもたせかけたままラーメンを食べ始める。

こ、こんなところで…。

「もう3分経ってるし、のびるよ」私が緊張して固まっていると、早く食べるよう促された。

「い、いただきます…」

できるだけ音を立てないように…。汁を飛ばすなんて、もってのほかだよね。

私も好きなメーカーのはずなのに、味がよくわからない。

「…今度また、改めて飲みにいこ」

「……えっ?」

「今日はラーメン(これ)で許してな」

そう言って、先輩はにこっと微笑んで自分のデスクへ戻っていった。


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