5 la jolie fille
私は毎週水曜日、隣の駅の近くにあるBar『Ma chérie』に通っている。
目的はお洒落な空間でおいしいカクテルを飲むこと、それから……
「え、飲みに誘われたの?すごいじゃん!なかなか進展してきたな」
「ふふっ、拓海のおかげだよ」
「お。嬉しいこと言ってくれるね」
ここへ来ることも最初は少し緊張していたけれど、回数を重ねるごとに自然と和らいでいった。なにより、拓海とだんだんと打ち解けてきたのが大きかったんだと思う。
「今日は、拓海のおまかせで」
「いいよ!何にしようかなあ」
腕組みをして、うーん…と少しの間、思案顔になったあと手際よく何かを作り始める拓海。その合間に、隅の席に座る女性にお水を出してあげていた。
私の相手をしながら、他のお客さんのこともきちんと気にかけている彼は、本当に気の利く人だと思う。
おまたせ、と言って拓海が私の前に出したのは、赤紫色のお酒。
「“カクテル言葉”って、知ってる?花言葉みたいに、カクテルにも意味が込められてるものがあるんだよ」
「え、そうなの?知らなかったー。どんなのがあるの?」
拓海はグラスのふちに真っ白な花を飾りながら、
「貴女は魅力的」
と、そっと囁いた。
「え…?」
「カシスソーダのカクテル言葉だよ。いつも真面目で一生懸命な璃子に、作ってあげたくなったんだ」
そう言って、柔らかく笑った拓海。
別のお客さんに呼ばれて、彼は「ちょっとごめんね」と言い残して歩いて行った。
なに、今の…。
わたし、なんでこんなにドキドキしてるの?
*
今夜は加藤さんと飲みにいく約束をしているけど、定時を過ぎてもなかなか仕事が終わらない。
それは加藤さんの方も同じのようで、課長としきりに何かを議論している様子。
時計を見ると……もう20時だ。これはもう、今日は無理かな。
「はい、どうぞ」
はっとして書類から目線を上げると、すぐ隣に加藤さんが!
「えっ…!?」
驚いて立ち上がると、加藤さんが「おおっと…」と後ろに1歩下がる。彼は手に、カップラーメンを2つ持っていた。
「このまえ、コーヒー淹れてくれたお礼。俺の非常食やけど、1つあげるわ」
「いいんですか?ありがとうございます」
右手に持っていたラーメンを私のデスクに置き、加藤さんはもう1つの蓋をぺりりと開けた。そして、デスクに腰をもたせかけたままラーメンを食べ始める。
こ、こんなところで…。
「もう3分経ってるし、のびるよ」私が緊張して固まっていると、早く食べるよう促された。
「い、いただきます…」
できるだけ音を立てないように…。汁を飛ばすなんて、もってのほかだよね。
私も好きなメーカーのはずなのに、味がよくわからない。
「…今度また、改めて飲みにいこ」
「……えっ?」
「今日はラーメンで許してな」
そう言って、先輩はにこっと微笑んで自分のデスクへ戻っていった。




