3 Œillet
「何になさいますか?」
「えっ、あ……。すいません、わたし、あまりお酒に詳しくなくて…。何か、飲みやすいものをお願いします」
彼はにこっと微笑み、「かしこまりました」と早速何かを作り始めた。
扉を開けてすぐに帰るという選択肢もあった。けれど、なぜか引き込まれてしまって、彼に言われるままカウンター席に座った。まだ早い時間だからか、客は私しかいない。つまり、お店には男性と私の2人きりだ。
彼はハーフだろうか。瞳は濃い灰色、目鼻立ちがくっきりとしていて、肌は透き通るように白い。ぱっと見た感じは20代後半といった印象がある。
「この近くにお住まいなんですか?」
突然話しかけられて、飛び上がりそうになるぐらい驚いた。
「あ、はい…。隣の○○駅の近くです」
「へえー、あのあたりは住みやすいですよね。お店もたくさんあるし。どうしてまた、こんな裏通りのバーなんかに?」
「私、たまに一駅前で降りて歩くんです。散歩してる間に頭のなかがすっきりするし。それに、このあたりの街並みも好きなんですよ」
「ああ、俺も好きです。落ち着きますよね」
さっき、扉を開けたときにも感じたけれど、彼はにこっと笑った顔がとても印象的だ。
私は男性が苦手なはずなのに、気づけばすんなりと話せてしまっている…。
「どうぞ」
彼が、す…と出してくれたカクテルは、綺麗な赤い色をしていた。
「これ、なんていうお酒ですか?」
「まあ一口、召し上がってみてください」
すすめられるまま、少し口に含んでみる。
「あ、おいしいです。さっぱりしてるのに、甘くて」
「よかった。これね、日本酒がベースになっていて、“撫子”って言うんです。清楚で可憐な雰囲気のあなたにぴったりだと思って」
やっぱり、西洋の人はこういうことをさらっと言えてしまうのかな。
私はあまり真に受けず、もう一口カクテルを飲む。
「今日は散歩しながら、何を考えてたんですか?」2組の新しいお客さんの対応を終えてから、男性は再び私に話しかけた。
「少し、恋愛のこと、とか」
「何か悩みでも?」
「…いま、わたし片想い中なんです。会社の先輩に」
「へえー。身近な人なら、いくらでも会えるじゃないですか。ぐいぐい行かないと」
「そんな簡単に言わないでくださいよ。私、男の人苦手なんです」
そう言うと、彼は目を丸くして私を見た。そんなに驚くこと…?
「せっかく美人なのに、もったいないなあ。若いうちはたくさん恋しないと」
「いいんです。いろいろ経験したって、結局はたった1人の人としか結ばれないんだから」
「……もしかして、今まで誰とも?」
ばれないようにしようと思ってたのに、つい動揺して顔を強張らせてしまった。
彼はそれで全てを悟ったとでも言うように、優しく微笑んだ。
「俺でよければ…恋愛指南、してあげようか」




