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Ma chérie  作者: 華百合
3/29

3 Œillet

 「何になさいますか?」

「えっ、あ……。すいません、わたし、あまりお酒に詳しくなくて…。何か、飲みやすいものをお願いします」

彼はにこっと微笑み、「かしこまりました」と早速何かを作り始めた。


 扉を開けてすぐに帰るという選択肢もあった。けれど、なぜか引き込まれてしまって、彼に言われるままカウンター席に座った。まだ早い時間だからか、客は私しかいない。つまり、お店には男性と私の2人きりだ。

彼はハーフだろうか。瞳は濃い灰色、目鼻立ちがくっきりとしていて、肌は透き通るように白い。ぱっと見た感じは20代後半といった印象がある。

「この近くにお住まいなんですか?」

突然話しかけられて、飛び上がりそうになるぐらい驚いた。

「あ、はい…。隣の○○駅の近くです」

「へえー、あのあたりは住みやすいですよね。お店もたくさんあるし。どうしてまた、こんな裏通りのバーなんかに?」

「私、たまに一駅前で降りて歩くんです。散歩してる間に頭のなかがすっきりするし。それに、このあたりの街並みも好きなんですよ」

「ああ、俺も好きです。落ち着きますよね」

さっき、扉を開けたときにも感じたけれど、彼はにこっと笑った顔がとても印象的だ。

私は男性が苦手なはずなのに、気づけばすんなりと話せてしまっている…。


 「どうぞ」

彼が、す…と出してくれたカクテルは、綺麗な赤い色をしていた。

「これ、なんていうお酒ですか?」

「まあ一口、召し上がってみてください」

すすめられるまま、少し口に含んでみる。

「あ、おいしいです。さっぱりしてるのに、甘くて」

「よかった。これね、日本酒がベースになっていて、“撫子”って言うんです。清楚で可憐な雰囲気のあなたにぴったりだと思って」

やっぱり、西洋の人はこういうことをさらっと言えてしまうのかな。

私はあまり真に受けず、もう一口カクテルを飲む。

「今日は散歩しながら、何を考えてたんですか?」2組の新しいお客さんの対応を終えてから、男性は再び私に話しかけた。

「少し、恋愛のこと、とか」

「何か悩みでも?」

「…いま、わたし片想い中なんです。会社の先輩に」

「へえー。身近な人なら、いくらでも会えるじゃないですか。ぐいぐい行かないと」

「そんな簡単に言わないでくださいよ。私、男の人苦手なんです」

そう言うと、彼は目を丸くして私を見た。そんなに驚くこと…?

「せっかく美人なのに、もったいないなあ。若いうちはたくさん恋しないと」

「いいんです。いろいろ経験したって、結局はたった1人の人としか結ばれないんだから」

「……もしかして、今まで誰とも?」

ばれないようにしようと思ってたのに、つい動揺して顔を強張らせてしまった。

彼はそれで全てを悟ったとでも言うように、優しく微笑んだ。

「俺でよければ…恋愛指南、してあげようか」


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