24 coming out
―――“璃子には、俺なんてふさわしくない”
その言葉に、なんとなくピンとくるものがあった。
ほんの数日前に交わした、仁史との会話の中に………。
*
「どうして……」
扉の近くからこっちを振り向いた拓海は、珍しく顔を強張らせていた。拓海のこんな表情、今まで見たことない……。
「私に、教えて…?拓海が抱え込んでること、私に全部話して」
驚いたように目を見開き、彼は一秒たりとも私から目を逸らさない。そして、困ったように眉間に皺を寄せた。
彼にどんな過去があったとしても、どんな気持ちを抱いていたとしても―――私は、すべてを受け入れる覚悟ができている。
「……璃子には、関係のない話だよ」
そう言って、拓海はまた笑顔を取り繕う。彼に気を遣わせて、そんな表情をさせてしまっている原因が自分であることは少し悲しいけれど……私はもう、逃げるわけにはいかない。
彼と、とことん向き合うって決めたから。
…そうじゃないと、私の背中を押してくれた仁史や遥子に、顔向けができないじゃない。
*
璃子が、どうして俺の過去を知っているんだろう。
…いや。彼女の口ぶりからすると、具体的に何があったのかまでは知らないような気がする。
これまで、他人に覗かれないように必死で隠してきたこと。
そして、これからも隠し続けようと心に決めていること。
そんな過去をどうして……大好きな璃子に、1番拒絶されたくない人に、明かせるというのだろうか。
彼女とはこのまま、お互いに深入りしないままに別れた方がいいに決まってる。
しかし、俺の固い決意と同じくらいの強い気持ちで、璃子も引き下がらなかった。
「じゃあ…、私の過去最高に恥ずかしかった話をしてあげる」
「……え?」
「私ね、実は中学生の頃すっごく太ってたんだよ」
突然。何を言い出すんだ。
っていうか、璃子が太ってたなんて想像もできない。まるまると太ってても、もちろん可愛いんだろうけどさ。
「1番重かった時で、80キロぐらいあった。女子校だったし、たぶん学年1…いや、学校1太ってたと思う。でも、自分の体形なんて特に気にしてなかったの。まわりにどんな目で見られようと、私はおいしいものを好きなだけ食べられるならそれでいいんだ、ってね。…だけど、中学3年のある日、事件が起こった。修学旅行で京都の神社に行った時、板張りの廊下を歩いてたら…私、突然床を踏み抜いたの!国宝指定の箇所でもなかったから、多額の修理代とかは請求されなかったんだけど、みんな見てたし、ちょっとしたニュースにもなっちゃって…。さらにそのあと、奈良のお寺に行った時もそう。大仏の鼻の穴と同じ大きさにくり抜いた穴があってね、1人ずつ並んで潜っていったんだけど…なんと、私だけ通れなかったの。男の先生でも通れたのにだよ?恥ずかしくて顔から火が出そうだった!」
璃子の打ち明け話を聞いていて、噴き出さずにはいられなかった。笑っていいのかなんて、俺には考えてる余裕もなかった。彼女は顔を赤く染めていて、本人にとってはかなり恥ずかしいカミングアウトであることに間違いない。
声をあげて笑う俺を見て、璃子は優しく微笑む。
「そんなことがあって、中学の修学旅行は…私の過去最低の思い出だけど、ダイエットを決意したきっかけでもあるの。嫌な思い出をバネにして頑張ったから、今の自分があるんだと思ってる。過去を塗り替えることは誰にもできないけど、明るい未来を作り出すことは……努力次第で、きっと誰にだって出来る。―――次は、拓海の番だよ」
「……幻滅、するかもしれないよ…?」
「絶対にしない」
璃子の目は、真剣だった。
真っ直ぐに俺を捉えて、少しも逸らさない。
「……すべてを知っても、俺から離れない…?」
俺が恐る恐る口にした言葉にも、彼女は真摯に応えてくれる。
「うん…。約束する」
―――ずっと秘めてきたこの想いを、誰かに明かす日が来るなんて…。俺は今まで、思ってもみなかった。




