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Ma chérie  作者: 華百合
24/29

23 serrer dans les bras


 ―――彼女の涙を見たら……なぜだか、気持ちを抑えられなくなってしまった。


 初めて抱きしめた彼女の体は、スリムな見た目よりもっと華奢で、ほんのりと良い香りがした。俺の腕のなかにぴたりとはまって、何とも言えないような安心感がある。

思えばずっと前から、こうしたかったような気がする。彼女を――璃子を、自分の胸に抱きしめたかった。俺には、そんな資格なんてないのに……。


 璃子が身じろぎしたのをきっかけに我に返って、彼女から慌てて距離をとった。俺は一体、何をやってるんだろう。

「ごっ、ごめん…!」

イスから立ち上がって、カウンターの中に戻ろうとしたら……なんと今度は、璃子が後ろから抱きついてきた。他には誰もいない深夜の店内で、どくんどくん、と俺の心臓が大きな音を立て始める。

「……なにも、謝らないで…。きっと、私が好きなのは……ずっと前から、拓海だった」

そう言って、彼女は俺の背中に顔をうずめた。こんな打ち明け、嬉しくないはずがない。

一度だけ過去に戻って、“あの頃”からやり直せるなら…。今ごろきっと、手放しで璃子の告白を喜んでいただろうに。…いや、それ以前に、自分から彼女にアプローチすることさえできたのに。

勇気を出して気持ちを明かしてくれた、彼女の手を………俺は、ゆっくりと解く。

「……ありがとう」

涙の零れる彼女の目を見つめて、ただ、そう言うだけで精一杯だった。


 どういうことなのかわかっていない彼女は、カウンター越しに俺を不安げな目で見つめた。そんな彼女を傷つけないよう、なるべく優しい口調で告げる。


「―――璃子には、俺なんてふさわしくないよ」


眩しいくらいに純粋で、真っ白な彼女には…俺のような男は似つかわしくない。彼女の幸せを思えば、俺がこの気持ちを押し殺すことなんて容易いこと。

こうやってバーカウンターを隔てて、バーテンダーとお客さん。その距離感が、俺と璃子には1番良かったのかもしれない。…俺がこれ以上、彼女に近づくわけにはいかないんだ。

俺はもうすぐフランスに帰るし、俺がいなくなれば彼女だって…。


「ふさわしくないって、どうして…?」

納得いかないといった様子で、璃子が身を乗り出す。彼女の悲痛な声に、心がずきんと痛んだ。その真っ直ぐな気持ちを、そのまままるごと受け入ることができたなら…どんなにいいだろうか。

璃子の問いかけには答えず、扉のほうへ歩いて行ってCLOSEの札を掛けた。


……大丈夫。彼女に、笑顔を見せてあげられる。そう思いながら、店内を振り返ろうとしたとき。


「―――昔のことが、原因なの……?」


彼女が、小さな声で言った。


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