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仁史に「距離を置こう」と告げられてから、2週間が過ぎた。私は依然として、答えを出せないままだ。
恋を経験する前は…本当に好きな人が1人いれば、それだけで幸せなんだと思ってた。
だけど私の場合、現実はもっと複雑で難しい。私が何かを間違えれば、一瞬にして関係は崩れてしまうし、誰かを傷つけもするだろう。一歩前へ進むのさえ、怖くて足がすくんでしまう―――。
会社では、“先輩として”普通に接してくれる仁史。ヘンに避けられることもない。それは彼なりの優しさだろうし、気を遣わせてしまっているのだと思うと心苦しい。
私達がつきあっていることを知ってるのはごく数人だけだったから、まわりの人に特に何かを感づかれることはなかった。―――ただ1人を除いて。
*
「ねえ、加藤さんと何かあったでしょ」
「えっ!?」
驚いてミートボールを落っことし、お弁当包みを少し汚してしまった。
冬の屋上には、私達を含め数人の社員しかいない。コートを着てでも屋上へ来てしまう、物好き社員たちだ。
「だって、なーんか2人の様子がよそよそしいし、加藤さんが仕事中にニヤニヤすることもなくなったし、璃子にも覇気がなくなったっていうか…」
「ニヤニヤって…」
「え、気づいてなかった?加藤さん、たまーに璃子のデスクの方見て、幸せオーラ発してたんだよ」
「そんなの、全然気づかなかった…。って、それみんな気づいてたの!?」
「ニヤニヤの理由知ってる人は、たぶんそんなにいないと思うよ。でも、加藤さんのニヤニヤはけっこう有名」
しらなかった…!それじゃ、私達の関係がばれるのも時間の問題なんだ。
遥子はこくりとお茶を飲み下し、はあーっと白い息を吐く。
「何があったか知らないけど、あんないい人傷つけたら…きっと罰が当たるよ」
ぐさっと音を立てて、私の胸に言葉のナイフが突き刺さった。ごもっともすぎて、何も言い返すことができない。
……言ってみようか、遥子に。
もう幻滅されても、呆れられてもいい。これ以上、人を傷つけたくない。その一心で、私は遥子にすべてを打ち明けていた。
私の話を聞き終わった後、遥子は思案顔で「似てる…」と呟いた。
「似てる、って?」
「ついこの間までの私の状況と、ちょっと似てるでしょ。つきあってる彼氏か、好きになり始めてる男の人か」
言われてみれば…、そうだ。環境も人も違うけど、私達は同じような恋愛をしてたんだ。
そして、先に前へ進んだ遥子は、“いま自分が好きな人”を選んで幸せになっている。いつも軽口をたたく彼女もきっと、苦渋の決断だったことは間違いない。
「1番大事なのは、きっぱりどっちかとは決別することだよね。璃子の場合は、加藤さんはもうすぐ転勤だしバーテンダーはフランスに帰っちゃうしで、その点まだ気持ち的には楽だと思うよ」
決別、できるだろうか。私に。
“こうと決めたらやり通す”というのは私のポリシーだけど、仕事と恋愛はやっぱり違う。恋愛には、絶対的な正解がないのだから。
「まあ、璃子がどっちを選んだとしても、私は璃子の味方だよ」
―――遥子のこの一言が、私の背中を押してくれた。




