19 dos
「そういえば、あのバーが再開したんだよ。よかったら、今度一緒に行かない?」
前に誘った時は臨時休業になっていて、仁史と一緒に行くことができなかった。何度か話題にも上ったし、仁史も気にしてくれていたから聞いてみたのに。
仁史は私の顔をじっと見て、
「…もう、あの店には行くな」
そう強く言い放ったのだった。そして反対方向に寝返りを打ち、背中を向けられてしまった。
彼の肩にそっと触れるも、いつものように手を重ねてはくれない。
「一体、どうしたの?なんで急にそんな…」
「それは、璃子が一番ようわかっとるんちゃうん?」
心臓が、止まるかと思った。
「え……」
仁史は首をもたげて、目線だけ私の方へ向ける。その表情は、怒っているというより…少し、悲しそうだ。
「俺ら、しばらく距離置こう」
「ちょ、ちょっと待って、なんか誤解してるよ?」
慌てて起き上がるも、彼はもう私を見てくれてはいなかった。全身の血の気が一気に引いていくのを感じる。
どうして、突然そんな…。わけわかんないよ。
「…俺とあいつ、ほんまに好きなんはどっちか、ちゃんと答え出してほしい」
―――気づいてる。
仁史は、私の気持ちに気づいてたんだ。たぶん、お店が再開するずっと前から…。
知っていながら、知らないふりをしていてくれた。
私は一体、何をやっているんだろう。
翌朝起きると、仁史は先に家を出ていた。うちの合鍵を新聞受けに置き去りにして。
*
私はせっかく再開したMa chérieにも行けず、1人ぼっちで水曜日の夜を過ごした。
仕事してる間は、忙しくて他のことなんて考える余裕もないけど、1人になると、いろんなことが頭の中を過っていく。
すすんで考えたくはないけれど、私はなるべく早く答えを出さなくちゃいけない。仁史のためにも。
遥子にこんなこと相談したら、きっと呆れられる。そう思って、せっかく一緒に過ごせたランチタイムにも言いそびれてしまった。
彼女なら、どうするだろう。…きっと、自分の気持ちに正直に行動できるんだろうな。
―――私も、もっと素直になれたなら。




