2 riz tardif
私が勤める会社のノー残業デーは、毎週水曜日。
みんなで飲みに行ったり、早く帰って料理をしたりできるから好きだ。大学卒業と共に実家を出て、一人暮らしを始めてから早いもので3年。少しは料理の腕も上がった…つもり。
定時にオフィスを出ると、エレベーターホールは社員たちで溢れかえっていた。6台あるものの、こんなに人がいたら少し待たなくてはいけない。
ごった返している中に、見知った顔を見つけた。向こうも私を見ていて、気づかないふりをするには遅すぎたようだった。
「か、加藤さん、お疲れ様です」
「お疲れ。もう体調は大丈夫?」
「はい!先日はご心配おかけしました…」
「佐倉は無理しすぎるとこあるから。自分でなんでもかんでもやろうとせんと、たまには誰かに頼ってもええんやからな」
…ああ、まただ。この人はどうしてこんなに、的を射た物言いができるんだろう。
欲しいときに、欲しい言葉をくれる。そんなところも、まわりに慕われる所以に違いない。
こういうとき、きっとデキる女子は食事に誘うんだろうな…。なんて思いながら、今夜は映画でも借りてゆっくり晩酌するという加藤さんと別れ、私は駅へ向かった。
なぜ食事に誘わないのかって?…だって、どんなふうに誘えばいいかとか、おしゃれなお店もあんまり知らないし。突然こんなチャンスが来ると思ってなかったから、何も用意できてないし。下手にポイントを下げるよりは、とりあえず現状維持をキープすべきなんじゃないかと思ったの。遥子には呆れられるだろうけどさ。
私はいつも、最寄駅まで電車に乗らない。あんまり遅い時間になったときは、さすがに最寄まで乗っていくけど、一駅前から歩いて帰るのが好きだ。
今日は時間もまだ早いし、違う道から帰ろうかな…。そう思って、いつもとは違う角で曲がってみる。
車道ではないから、若干の裏道感がある通りだった。味のある一軒家とか、小さな教会や雑貨屋さんとかそういうものが並んでいるなか、私はある白い看板をみつけた。
Ma chérie
とだけ書かれ、他には店の方向を示す矢印のみ…。何かのお店だろうか。シャンプーみたいな名前だけど。
興味本位でその方向を見ると、奥まったところに白い建物があって、大きな茶色の扉があった。窓も見あたらないから、店内を覗くこともできない。
変な店だと怖いし、このまま帰ろうか。でも気になる…。
ええい、入ってしまえ!
「いらっしゃいませ」
そこには、白を基調とした素敵なバーの空間が広がっていて…。優しい笑みを浮かべた1人の男性が、突然やって来た私を迎えてくれたのだった。




