18 retrouvailles
なんでよりにもよって、璃子にあんな話をしてしまったんだろう。
誰にも覗かれないよう、笑顔で取り繕って隠してきたものを……彼女は簡単に暴いてしまおうとする。
「…もう、そんな苦しそうに笑わないで」
彼女のその言葉が、俺の鉄仮面を剥ぎ取ってしまった。
初めて会ったときから、彼女の印象はずいぶん変わった気がする。
大人しくて、借りてきた猫状態でちょこんと椅子に座っていた彼女。初心なところが可愛くて、軽いノリで話しかけたけど……。実際の彼女は芯が強く、そしてどこまでも優しい女性だった。俺なんかには到底太刀打ちできないぐらいの包容力に、もう脱帽しまくりだ。
―――眩しいくらいに輝いている彼女に、俺のような男は相応しくない。
彼女の手の優しいぬくもりを感じながら……俺はそんなことを考えていた。
*
璃子が帰った後、自宅にしている2階に上がると、スマホの通知ランプが光っていた。緑色だから、きっとLINEだ。
『日本に戻ってるって聞きました。一度2人で会いたいな』
同様の内容が、6件。俺は何も返さずそのまま電源を落とした。
璃子との幸せな時間で一日を終えられたら、どれほどよかっただろう。これまでの悪行のせいであることは間違いないのに、そう思わずにはいられなかった。
その数日後のこと。ゴミ出しに外へ出ると…
「拓海!」
こちらへ駆け寄ってくる女性の姿があった。その華奢な体型は、1年前と何も変わっていない。
できれば、もう一生会いたくないと思っていた女性…。
「どうして返事をくれなかったの?気になって、直接会いに来ちゃった!」
そう言って、彼女は俺の腕に触れた。触るな、と目で訴えてみるも、知らんふりを通されてしまう。
「…もう、あなたと僕は無関係ですから」
「そんな寂しいこと言わないで。晃彦のことは私が説得するから、またうちの店で…」
「お断りします」
ぴしゃりと言い放ち、足早に店へ戻る。そして、3つ取り付けられた鍵を全て乱暴に掛けた。
浮かび上がってくる記憶の片鱗を振り払うように、俺は慌てて店の掃除を始めるのだった。
時間は午後8時。そろそろ開店準備をしないといけない。
店を再開して、今日で3日目になる。一か八かで常連さん達にダイレクトメールを送ってみると、ありがたいことに1日目・2日目は客足が途絶えることがなかった。さて、今夜はどんな感じかな…。
グラスを磨きながらそわそわしていると、さっそく今宵1人目のお客さんがやって来た。
「いらっしゃいませ」
この店にしては珍しい、男性の1人客。長身で爽やかな感じのする、若いビジネスマンだった。スーツが紺色の良く似合っている。
彼は奥寄りの席にストンと腰を下ろし、ネクタイを少しだけ緩めた。
「ウィスキー、水割りでください」
久しぶりに聞いた関西弁が、なんだか耳に心地よく響く。そして、その顔は―――どこかで見たことがあるような気がした。




