表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ma chérie  作者: 華百合
19/29

18 retrouvailles


 なんでよりにもよって、璃子にあんな話をしてしまったんだろう。

誰にも覗かれないよう、笑顔で取り繕って隠してきたものを……彼女は簡単に暴いてしまおうとする。


「…もう、そんな苦しそうに笑わないで」


彼女のその言葉が、俺の鉄仮面を剥ぎ取ってしまった。


 初めて会ったときから、彼女の印象はずいぶん変わった気がする。

大人しくて、借りてきた猫状態でちょこんと椅子に座っていた彼女。初心なところが可愛くて、軽いノリで話しかけたけど……。実際の彼女は芯が強く、そしてどこまでも優しい女性だった。俺なんかには到底太刀打ちできないぐらいの包容力に、もう脱帽しまくりだ。


―――眩しいくらいに輝いている彼女に、俺のような男は相応しくない。

彼女の手の優しいぬくもりを感じながら……俺はそんなことを考えていた。


 *


 璃子が帰った後、自宅にしている2階に上がると、スマホの通知ランプが光っていた。緑色だから、きっとLINEだ。

『日本に戻ってるって聞きました。一度2人で会いたいな』

同様の内容が、6件。俺は何も返さずそのまま電源を落とした。

璃子との幸せな時間で一日を終えられたら、どれほどよかっただろう。これまでの悪行のせいであることは間違いないのに、そう思わずにはいられなかった。


 その数日後のこと。ゴミ出しに外へ出ると…

「拓海!」

こちらへ駆け寄ってくる女性の姿があった。その華奢な体型は、1年前と何も変わっていない。

できれば、もう一生会いたくないと思っていた女性…。

「どうして返事をくれなかったの?気になって、直接会いに来ちゃった!」

そう言って、彼女は俺の腕に触れた。触るな、と目で訴えてみるも、知らんふりを通されてしまう。

「…もう、あなたと僕は無関係ですから」

「そんな寂しいこと言わないで。晃彦のことは私が説得するから、またうちの店で…」

「お断りします」

ぴしゃりと言い放ち、足早に店へ戻る。そして、3つ取り付けられた鍵を全て乱暴に掛けた。

浮かび上がってくる記憶の片鱗を振り払うように、俺は慌てて店の掃除を始めるのだった。


時間は午後8時。そろそろ開店準備をしないといけない。

店を再開して、今日で3日目になる。一か八かで常連さん達にダイレクトメールを送ってみると、ありがたいことに1日目・2日目は客足が途絶えることがなかった。さて、今夜はどんな感じかな…。

グラスを磨きながらそわそわしていると、さっそく今宵1人目のお客さんがやって来た。

「いらっしゃいませ」

この店にしては珍しい、男性の1人客。長身で爽やかな感じのする、若いビジネスマンだった。スーツが紺色の良く似合っている。

彼は奥寄りの席にストンと腰を下ろし、ネクタイを少しだけ緩めた。

「ウィスキー、水割りでください」

久しぶりに聞いた関西弁が、なんだか耳に心地よく響く。そして、その顔は―――どこかで見たことがあるような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ