13 mauvais pressentiment
案の定、私が加藤さんとつきあい始めたら高橋くんが声をかけてくることもなくなった。もともと加藤さんが好きだったとはいえ、利用するような形になって…本当に悪いことをしてしまったと思う。だから私は、その分も彼を幸せにしてあげないといけないんだ。
入社以来、外出や出張のとき以外は毎日のように遥子と過ごしてきた昼休み。遥子が気を利かせて、他の人とランチへ出かけるようになってしまった。……ちょっと寂しいな。
自分に彼氏ができても、友達をないがしろにするなんて絶対したくないと思ってたのに。
「いま、何考えてたん?」
「えっ!?」
突然話しかけられて目線を上げると、隣から加藤さんに顔を覗きこまれていた。
私ったら、加藤さんと一緒にいるのに考え事してたんだ…。
「あ…、なんでもないですよ」
「…とりあえず、その敬語やめへん?あと、“加藤さん”いうのも」
「いや、それは無理です!先輩だし…。私が加藤さんにタメ口なんて、100年早いっていうか…」
「璃子やったら、そう言うと思った」くすくすと笑いだす加藤さん。その大きな手にある、食べかけの焼きそばパンが揺れた。その様子をなんとなく見ていたら、横からひょいっと手が伸びてきて、出汁巻き卵が一切れ攫われていった。
「ん、うまい!俺も卵焼きは甘めの方が好きやで。奇遇やなあ」
嬉しそうに、おいしそうに食べる横顔がとっても素敵で。ついつい見とれてしまう。一緒に食事するのが楽しい人って、やっぱりいい。
今度、加藤さんの分もお弁当作ってきてあげようかな。
「来週の水曜って、空いとる?よかったらご飯いかへんかなー思って」
「もちろん行きます!…あ、そうだ。わたし、毎週水曜日に通ってるバーがあるんですけど、ご飯のあと一緒に行きませんか?」
「え、毎週バーに通ってるんや。おしゃれやなあ。どんな店なん?」
「フランスと日本のハーフの人がやってるお店ですよ。カウンター席だけの小さなお店なんですけど、内装も凝っててすごく落ち着く空間で。あ、もちろんお酒もおいしいですよ!」
「へえー、そうなんや。良さげな感じやし、水曜に一緒に連れてって!」
「はい!」
拓海に加藤さんを紹介するって…、なんてカオスな状況だろう。
私はそのことに、あとから気づいたのだった。
*
そして、約束の水曜日。会社帰りに、加藤さんおすすめのおいしい洋食屋さんで夕飯を食べたあと、2人でMa chérieへ足を運んだ。
「この道をちょっと進んだところにあるんです」
「へえー、隠れ家的なとこなんやな」
小さな雑貨屋さんの前を通り過ぎたところに、いつもの白い立て看板が―――あるはずだった。
通りからお店の方を覗いたとき、少し妙だなと思った。もとからひっそりとした場所ではあるけれど、まるで人の気配が感じられない。
「もしかして今日、定休日なんかな?」
「いえ、お休みは月曜日のはずなんですけど…」
加藤さんと話しながらお店の方へ進んでいくと、白い扉に貼り紙がしてあるのに気付く。
―――『臨時休業』
このときの私は、たぶん体調を崩してるとかだろうなあなんて、軽く考えていた。
“来週はきっと、お店で拓海に会える”―――そう信じて、全く疑わなかった。




