1 en premier amour
「佐倉、顔色悪いけど…大丈夫?もしかして、具合悪いんちゃうか」
「あ……。いえ、大丈夫です」
「そんなこと言っても、ふらふらなん見ててわかるよ。ええから医務室行っておいで」
佐倉璃子。インテリア業界で働く25歳。
中・高・大の10年間、女子校育ちの実家暮らしだった。そのせいか、いままでつきあったことはおろか恋もしたことがない。…いや、それは言い訳。
特に大学の頃なんて、まわりの友達は他大の男子と遊んだりしてたけど、私はそもそも男性というものに興味がなかった。だから電車に乗り合わせた男子大学生にときめくこともなかったし、バイト先の店長(塩顔)と特別親しくなりたいとも思わなかった。
でも、やっぱり結婚はしたい。そう思って、社会人になってからは合コンに参加したり、会社の男性となるべく話すようにはしてみたけれど、どうもピンとこなかった。
―――そんな私が、ついに恋をしてしまった!
相手は会社の3つ先輩、加藤智樹さん。神戸出身で、会社にいるときは関西弁で喋る人。ちょっとぶっきらぼうなところがあるけど、たまに優しい。さらには仕事もできる、みんなの憧れの先輩だ。
きっかけは些細なこと。私の体調不良を一目で見抜き、医務室で休憩できるよう上司に進言してくれた。たったそれだけのことなのに、心配そうに私の顔を覗きこむ彼の顔が……もう、頭から離れない。
以前から仲良しではあったけれど、恋愛対象としては考えたこともなかったのに―――。
数日後のランチの時間、私は同期の三上遥子に打ち明けた。
彼女とは1番仲が良いけれど、今まで誰ともつきあったことがないということは話せていない。25にもなって、全く男性経験がないなんて…なかなか他人に言えたことではないと思う。
「それは、間違いなく恋だね」
「やっぱり!?なんか、前みたいに加藤さんに話しかけられなくなったの…。すごく意識しちゃって、緊張して」
「なにそれ、かわいすぎでしょ。もっとアタックしなきゃ。璃子と加藤さん、飲みに行ったこともあるぐらい仲良しじゃない。気に入ってくれてるのかもしれないよ」
「えー?あれは仕事の相談に乗ってもらっただけだよ。加藤さんは頼れる先輩だしさ」
恋してても、私は食欲不振とは無縁だわ…なんて思いながら、サンドイッチをむしゃむしゃ。
今日のはちょっとマスタードを塗りすぎてしまった。辛い。
「でも、璃子だって美人だよ。同期の中で1番綺麗って噂になってたもん」
「うそだー。そんなの聞いたことないよ」
「そりゃ、男子の噂話だからね。本人に聞かれたら恥ずかしいでしょ」
「…ふうん」
“顔は綺麗だね”
“美人なのになあ”
“なんか、損する性格だよね”
私はそんなことを、男性に度々言われてきた。
思い返せば、小学校の頃からすでに、女の子と仲良くできても男の子とはうまく話せなかった。理由はわからないけれど。
街を歩けば、知らない人に声を掛けられることもよくある。でも、私はそんな人を求めてるわけじゃない。ただ、恋がしたいだけ。心の底から、本当に好きだと思える人に出会いたいだけ。
そしてその相手に、ようやく出逢えたんだ。




