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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

共犯者

作者: 田中真矢

ぼくはしんだ

いじめられてしんだ

あのとき、せんせいはちかくにいたのに

なんでたすけてくれなかったの?

なんでそのあとつめたいつちのなかにうめたの?



ある夏の日

昼間に雨が降ったため

湿度が高くジメジメして寝苦しい夜


またあの夢を見た

あれから10年も経ったがあの日の事を

まだ忘れる事が出来ない


あの時の俺はどうかしていた


10年前

当時俺は、母校の小学校で5年生の担任教師をしていた。

この学年の生徒には3年生の時から何らかの形で関わっていた為

各クラス生徒の特徴を毎回把握出来ていた。

クラス担任を任されるのは初めてであったが、事前の情報で

成績が優秀な子、悪い子、いじめっ子気質な子、いじめられっ子気質な子など

それぞれの情報を把握していた。


それ故に、あの日の光景は斬新であった


俺自身の中で優等生だと思っていた"加藤 武"がいじめっ子である”安藤 通”と一緒に

いじめられっ子の”斉藤 健太郎”をいじめていた。

しかも、加藤は斉藤を直接的にいじめるのではなく

いじめっ子の安藤に指示をして、斉藤の反応を見てゲラゲラと笑い楽しんでいる。

加藤自身の手は決して汚さないのである。


次の日に加藤と安藤が何もない顔で登校して来た時は胸が高鳴り、一日楽しく過ごす事が出来た。


「こんな事が起きていたなんて・・・面白いな・・・」


学生時代いじめられていた俺が、いじめを見てこんな気持ちになるなんて・・・

人間というのは不思議だとしか、思っていなかった。


この時、このいじめを止めていれば結果は変わっていたのかもしれないと思う。

そんな事を思っても時間が戻るわけではないのだが・・・


そして、加藤と安藤による斎藤へのいじめは日に日にエスカレートしていった。

ある日は裸で校内を走らされ

ドロや汚物を食わされ

ある日は教室の窓を割ってくるように命令され

ある日は女子の体操服とカッターでズタズタに引き裂くように命令されていた

命令自体は小学生らしい内容が多かったが毎日となると

斎藤が反抗するする事もあった。

だが、断った日には罰ゲームと言う名の一方的な暴行を受けていた。

時には手足を縛られプールに落とされた事もあった。

この時は音に気づいた他の先生が斎藤を見つけたが

加藤と安藤は逃げ、斎藤はさらなる罰を受けないために2人の名前を明かさなかった。


俺はそれを影で見つめながら

斎藤が死ぬような事にならなければ大丈夫だ

最悪の場合、俺が出て斎藤を助ければいいんだ!

もっとやれ!もっとやれ!と念じて楽しむ毎日だった。

自分がクズな男だと感じてはいるが、逆にそれがスパイスになっていた。


夏休み前のある日だった

安藤は罰ゲームの時間に園芸用の倉庫から1メートル30センチ程の

大人が使うような大きな鉄製のシャベルを持ってきた

加藤はそれを見て笑顔で安藤に指示をした。


「やめて!」


その言葉が斎藤の最後の言葉だった

小学生の安藤にとって自分の身長程の鉄製のシャベルは重かったのだろう

思いっきり振り上げられたシャベルは振り下ろすことが出来ず

やり投げのように斎藤のいる場所に投げ捨てられる形になった

そのため、安藤は失敗したと思ったのだろう


「悪い悪い、これ重くてうまく使えないや

 他に罰ゲームで使えそうなの探してくるわ」


そんなような事を言っていた


「お、お前・・・斎藤を見ろよ・・・」


安藤が振り返ると

頭が陥没した斎藤が存在していた。

おそらく、投げ放たれたシャベルが斎藤の頭にぶつかり

頭部を鋭角に抉った後、地面に落ちたのだろう。

俺が見た角度からはよく見えなかったが

一部始終を見ていた加藤は

「脳が・・・脳みそが・・・・」

と、つぶやき続けていた。

優等生であっても、所詮は小学生だと思った。


安藤に関しては頭の処理が追いつかなかったのか

「俺は悪くない、悪くない、悪くない」

などと、何やらぶつぶつ言った後に気を失い倒れてしまった。


俺も大分困惑していたが、この場から離れるのが一番良いと判断し

その場から去ろうとしていた。

その時だった


せんせい

そんなところにいたのに

なんでたすけてくれなかったの?


「ぇ!!!!」


俺はつい大声を出してしまった。

死んだはずの斉藤の声が後ろから聞こえたからであった。


「誰かいるんですか?って先生!!」

先ほどの大声で加藤に気が付かれた。


「先生は、見ていたんですか?」

「あぁ」


俺は、加藤にここにいた理由や今までの事を暴露した。


加藤はその事を聞くと、急に笑い始めた

加藤の笑いは、斉藤をいじめてる時にしている笑い方とそっくりであった。

この子は、根っからの悪人であるのだろう

俺はその笑いを見て恐怖感を抱いた。


「って事は、先生も共犯じゃないですか!」


俺は痛い所を突かれた

正直自分自身でも感じていた事だ

いままで斉藤がいじめられている現場には何度も遭遇していた

なのに一度も助けた事はなかった

最悪なクラス担任だ

共犯と呼ばれて当然だった


「そうだな、俺も共犯だ・・・一緒になんとかしよう」


そして俺は加藤と共に斉藤の死体をシャベルで解体を始めた

よく死体の解体は難しいと聞くけれど、斉藤の体は小柄だったためか

解体作業は大人1人子供1人で順調に行う事が出来た。

途中、加藤が「理科の実験みたいで楽しい」とか言っていたが

俺は聞こえていないふりをして作業を進めた。


次に俺たちは学校のプール下にある地面に穴を掘り

ばらばらにした斉藤を埋める事にした。

ここならば人はなかなか来ないはずである

来るとしたら水道メータを事務員が確認しにくると思うが

水道メータから離れた場所をいちいち確認する事はないだろう


そして仕上げに加藤に交番に行くように指示をした

出頭ではなく、嘘をついてもらうためだ

加藤は斉藤と共に冒険ごっこをしてる途中

水深がとても深く、また流れが急なため立ち入り入り禁止になっている川へ行き

斉藤が流されてしまったと警察に報告した

俺は、気絶している安藤を担ぎ安藤の家へ送っていた

途中、安藤が起きて混乱をしていたが

俺が何であんな所で倒れてたのかを聞いたら、だんまりを貫かれた

俺も共犯なのは安藤には伝えなかった


その後の展開はこうだった

斉藤が川に流されたのは学校中の誰もが知る話題となり

警察も2週間、全力で川を捜索したが死体を見つけることが出来なかった

まぁ斉藤はそこにはいないので当然だと俺は思っていた

加藤は何もなかったかの様に日常を過ごし

安藤は不登校となり、その後転校をする事になった

斉藤の家族に至っては息子を失ったショックからか

斉藤が行方不明になった川で母親が自殺

父親はこの地を離れた後、行方不明になったという

俺は他の保護者に責任を問われたりしたが、冬休みになった頃には落ち着いていた

他の親にとっては所詮他人事にすぎなかったみたいだ。


俺は次の年も同じ学年の担任を任され、加藤の卒業を見送り

加藤との共犯生活から解放された気持ちになった。

まぁ加藤が今回の話を話す危険はあるが、奴は自分がにリスクがある事はしないはず

誰よりも俺は奴に近い存在だからわかる気がした

加藤の卒業後に俺は教師を辞め、田舎に戻り実家の梨園を継ぐことにし、今に至る


教師をやめた理由は、あの日の事を忘れられなかったからだ

今日見たように毎晩のようにあの日の出来事が夢に見るし

がたいの良い生徒を見ると、こいつは解体するの大変そうだなぁ~と思ったりしてしまう

気が狂いそうだった・・・

だから俺はこの地を離れた


田舎暮らしは思った以上に良かった

田舎に帰った後、あの夢を見なくなったし変な思考になりもしなかった。

だけど、今日はあの夢を見てしまった。

最悪の目覚めだった


「呼んでいるのか?」


俺は霊という存在は信用していない

ただあの日、斉藤が死んだあとに斉藤の声が聞こえた気がした

もしも、霊という存在がいて斉藤が霊としてあの場所にいるのなら

謝りたい

ただただ謝りたい

謝ってこの苦痛から解放されたい

そんな事を思ったら、いてもたってもいられなくなり

俺は田舎から車を出し、あの学校に向かっていた。




日付が変わる頃に学校に着いた

あの頃と何も変わっていない懐かしき小学校

忌まわしい記憶がフラッシュバックしてきて、何度か足がすくんだが

余計に斉藤に呼ばれている気がしたので、なんとかあの場所にたどり着く事が出来た

あの場所には先客がいた


「お前は・・・」

「!!

 もしかして先生ですか?」

「あぁ久しぶりだな・・・」


そこには、加藤がいた

なぜここにいるのか問いただすと、こいつもあの日の夢を見てここに来たらしい


「先生はもうここを離れたみたいですけど、他の小学校にいるんですか?」

「俺はもう教師を辞めて、実家を手伝っている」

「そうなんですかぁ」

「あぁ、お前は最近どうなんだ?」

「はい、おれはあれから中学に進学した後、勉強に目覚めて高校は進学校に入りました

 それで今は東大の経済学部でいい会社に入るために就活中です」

「東大の経済学部!すごいじゃないか!当時から秀才だったから納得は出来るな」

「そう・・・納得してくれますよね・・・先生・・・」


ゴンっと

強い衝撃が俺を襲う


「へっ?」

俺は変な声を出して倒れこんでしまった


「あぁやっと先生に会えた、斉藤のおかげだ・・・」

加藤はコンクリートブロックを持って笑っていた

一瞬の出来事で俺はしばらく痛みを感じていなかったが

血が頭を触った手に血が付いているのを見て現状を把握した

血を瞬間から頭から痛みがやってきた


「うぅぅぅ・・・加藤、お前なんで・・・」

「高校の時からずっとこの瞬間を待っていましたよ先生!

 あなたはこれからの俺のキャリアに傷をつける可能性がある唯一の存在だった 」

「うぅぅ・・・俺はそんな事しないぞ・・・」

「人はいつ急変するかわからない・・・俺は人を信用しない、考えられるリスクは排除するだけです」


俺はこいつの理解者で、こいつは俺を理解していてくれるのだと思っていた

それが共犯者というモノだと信じていた。

だが、俺はこいつのその後の人生を知らない

そこでこいつは変わってしまったのだ

何がこいつを変えたのか?

そんな疑問をこいつに聞いてみたかったが、俺の意識はどんどん薄らいでいく


「久しぶりの再会でしたが、そろそろ終わりにします」


そう言うと加藤は手斧を振りかざし俺の首を切断した

一撃でうまく切断出来た俺の首を見て


「おっ!意外と大人でも簡単に行けるもんだね~」


こういう性格は変わっていなかったようだ


そして俺は斉藤が埋められた付近に同じように埋められた

この場所は発見されない場所だと証明されているからだろう

流石、俺の教え子の中で一番の秀才だ




おれはしんだ

おしえごにうらぎられてしんだ

きょうはんしゃとしてわかりあったなかだったのに

おれはあいつのことをりかいしてやれていなかった

どうすればよかったのか?

しんでしまったいまとなってはもうやつにきくこともできない


じゃあかとうくんにもここでしんでもらえばいいとおもうよ


そうか

そうだ

そうすればここでいつまでもはなせるな


うん

ぼくもそうしたい

さんにんでいっぱいはなしたい

せんせい、いっしょにがんばろうね


あぁそうだな

こんどはさいとうがきょうはんしゃだな



数十年後、この小学校は廃校になった

廃校後の解体工事ではプールの下から

数十体におよぶ身元不明の白骨死体が見つかったそうだ

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