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炉心溶融  作者: 着ぐるみ
3/3

胎動

私が、あおば次期システムプロジェクト、NGAPプロジェクトに参画しはじめたのは、あおば銀行入行5年目の2012年のことだった。NGAPとは「Next Generation Aoba Platform」の略であり、一般的には行内では次期シス、またはエヌジーと呼ばれていた。後者で呼ぶものは少なかったが、アレはだめだという意味を込めて呼ばれていたのではないかと思う。


中堅私大文系卒で、あおば銀行(ABK)にもぐりこめたまではよかったのだが、最初の配属店からつまづいた。ほとんど資金需要もなければ、客層も老人ばかりという埼玉の古びれたベットタウンの資金吸収店。そこで、のちにパワハラで早期退職を余儀なくされる支店長と、虚言癖のある女性課長、それからやる気だけは全くない若ハゲの石田という先輩について、最初の半年は出納係としてマグロと呼ばれる現金の入った袋をかついだり、ATMの世話をしたりして、のこりの1年は投信をひたすら売りまくった。ノルマはきつく、資格試験や商品の勉強でほとんど土日もないようなものだったが、吸収することも多くそれなりにやりがいを感じていた。一般職で配属されていた一年先輩のあかりと付き合い始めたのもこのころだ。


このまま似たような郊外店に異動となり、投信営業をさせられるか、それなりに実績を積んでいたこともあるので法人営業にチェンジになるかと期待していた三年目の春、突然千葉の印旛事務センターに転属となった。銀行の人事でいえば、これほどきつい左遷人事もないのだが、わざわざ事前に本社の人事がやってきて、「これは左遷ではない。詳しくは言えないが、今あおばでは組織を横断した業務プロセス改革を推進していて、そのための人材育成のために若手を現場に張り付けて研鑚するプロジェクトを推進している。決して腐らず、知識の吸収に努めてほしい」と説得された。


真に受けたわけではないのだが、実家が近いことと、当時死期の迫った祖父の見舞いには勤務時間が短いことを考えれば何かと便利であること。それから、あかりとの交際を考えると電車で20分程度の場所なので、いろいろな点で目を瞑ったというのが正確なところだろう。思えば、辞めるにはこの時が最良のときだったかもしれない。


事務センターというのは、一言でいえば「工場」だ。支店も確かに本社・本店から見れば、商品を売り、融資というプロダクトを機械的に売るという意味では工場に近いのだが、そこには顧客という直接目に見える存在に対してモノを売るという側面がある。コンビニやスーパーマーケットに近い存在だと思うのだが、事務センターはその支店にから送られてきた書類を処理し、郵送物を送り、それらを制御する巨大なコンピューターを運営するという仕事で、やはり工場といったほうが違いのではないかと思う。


印旛事務センターは、主に銀行のコンピューターシステムの中核である勘定系システムの運用と、後方事務処理、いわゆるバックオフィスの二つの部門がある。私はそのバックオフィスのほうに配属され、形としては本店の事務企画部の下にぶら下がっている組織の一員として、バックオフィス業務の効率化業務を担当した。


想像していたよりも仕事は楽しく、支店ではあまり経験することのなかった効率性の追求という仕事は、自分にもこういう才能があるのかと気づかされる毎日だった。確かに、プロパー出身の行員というと他で何か問題を起こして飛ばされてくる癖のある人が多かったが、事務センターにきて結構適応する人も多く、本当に問題がある人というと4割程度ではなかったと思う。一方で、実務を担当するスタッフは、ほとんどが派遣社員やパート社員が占めていて、中には30年近くこの仕事をやっているという人もいた。多くは家庭を持っている女性で、本当に献身的に業務をこなしている姿は、支店のパート社員とはまた違った印象を受けた。


仕事としては、本店の事務企画部とのやり取りが多いので、月に半分弱は本社との往復となったので、思ったほど時間に余裕があったわけではなかったが、私生活としてはあかりとの交際も順調だったので満たされていた。印旛に移って2年目の冬、長患いの末祖父が死んだ。印旛に移った直後は、転職も考えていたのだが、ここでもう少し経験を積んで異業種への転職も考えてもいいのでは、とぼんやりと考えていたころだった。

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