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炉心溶融  作者: 着ぐるみ
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炉心溶解(2)

帝都経済2018年1月号より一部抜粋

「内部崩壊が進むあおばFG。金融監督庁の驚愕の解体プラン」


「振り込まれたはずの資金が口座に反映されていない。一体どうなってるんだ!」


 昨年9月1日に発生した、あおば銀行の大規模システム障害。都内のあおば銀行の支店では、連日個人から法人の顧客まで、クレームや現金の引き出しのため大混乱に陥った。月初のクレジットカード代金や公共料金などの引落だけでなく、個人や法人の資金決済の遅延200万件、ATMやインターネットバンキングでは9月15日まで取引がしにくい状況が続いた。


 あおば銀行の大規模システム障害はこれがはじめてではない。2001年4月、朝日中央銀行、安中銀行、日本商業銀行の三行が合併した直後の大規模システム障害は、誕生直後の準備不足から1ヶ月に渡るシステムの混乱が続いた。


「長い間、お世話になりました」


 システム障害発生から3ヶ月、あおば銀行の窓口では静かな異変が起きている。あおば銀行の前身、朝日中央銀行の時代から取引のある竹中洋子さん(65歳、仮名)は、38年にもおよぶ取引を解消した。5年前に、外資系の化学メーカーを退職し、今は夫と二人の年金暮らし。生活口座だけでなく、住宅ローンや2人の娘の学資ローンもあおばで組み、年金の受取ももちろんあおば。しかし、今度のシステム障害は、竹中さんの生活に大きな影響を与えた。夫の忠さん(69歳、仮名)と、毎日あおばの支店に通い詰め、なんとか現金を手に入れようとしたが、徒労に終わった。


「もう我慢できない」退職金を含めた金融資産6000万円を剣菱ユニバーサル銀行と野々村証券に移し変えた。竹中さん夫婦のように、長年取引してきた比較的運用資産が多い優良顧客が、システム障害を機に他行に乗り換える例が増えている。連日、あおばの窓口は解約の順番待ちで混雑が続いており、ライバルのメガバンクや証券会社の格好の草刈場と化している。


 法人の取引も「あおば離れ」が急速に進んでいる。横浜のある中堅の貿易商社では、先月から住之江千代田銀行に取引を変更した。「住之江千代田は準メーンとして取引関係にあったが、住之江千代田のグローバル・キャッシュ・マネジメント・システム(GCMS)は本邦でも最先端。資金の借入にも柔軟に対応してくれる。それに比べて、あおばとの取引は時代遅れなシステム」(財務担当常務)。今回のシステム障害が理由ではないが、今後はシステム障害を理由としてと取引先を変更する企業も増えていく。


 そもそも、2週間にわたるあおばのシステム障害の原因は何だったのだろうか? 11月1日に金融監督庁にあおばFGが提出した報告書を読み解くと、そこには長年あおばが抱えていた構造的な問題が浮かび上がる。あおば銀行のシステムは、2001年の合併で、個人や中小企業を取引相手とする旧あおば銀行と、大企業を取引相手とする旧あおばホールセール銀行に再編された。旧あおば銀行のシステムは、旧朝日中央銀行のACPと呼ばれるシステムに、旧あおばホールセール銀行は旧日本商業銀行のMRBSをベースに改修したものを使い、旧安中銀行のYAPSは双方のシステムに吸収された。


「あのシステム統合は、技術的な優位性を評価したのではなく、あおば内の政治的な理由で選択された」そう話すのは、あおばFGのITシステム構築を一手に引き受ける、あおばインフォメーションシステムズ(AIS)の元幹部の田中氏(56歳、仮名)。元朝日中央銀行で長年システム担当として勤務してきたエキスパートだ。その彼から見ても「ACPとMRBSは時代遅れなシステム」なのだという。


 ACPは、1980年代初頭に設計されたソフトウェアを改修し、2006年にハードウェアを更新しただけの「継ぎはぎシステム」。「例えば、あおば以外のメガバンクや郵貯公庫では、システム間の通信を一つにまとめるハブと呼ばれるシステムがあります。通信手順をハブに集中させることで、あるシステムの改修が他のシステムに与える影響を遮断する役割を果たしています」(田中氏)


 ハブがないあおばでは、例えばインターネットバンキングに新しい機能を追加すると、預金の取引を制御する勘定系をはじめとする多数のシステムで、改修が必要となり多くの無駄が発生する。あおば首脳陣も、この問題に早くから気づいており、ACPとMRBSを刷新する「共通基盤システム」の開発をあたためていた。だが、その構想は2011年に発覚した、あおば銀行の反社会勢力不正融資事件で頓挫する。暴力団の不正資金が、海外支店を経由して資金洗浄されていた事件で、国内のみならずアメリカの金融当局に50億ドル(当時4600億円)に及ぶ制裁金を課せられた。この事件の影響で、合併以来権勢を誇っていた旧安中銀行出身の大場CEO(67歳)が退任、旧日本商業銀行出身で、旧あおばホールセール銀行頭取の佐々木氏(53歳)が急遽登板する事態となった。


「あおばFGの天皇」と呼ばれた旧安中出身の大場CEOの退任と、対立していた旧日商銀出身の佐々木氏のCEO主任で、それまで膠着状態といわれたあおば内部の主導権争いは激化。勢いに乗る佐々木氏率いる旧日商銀勢力は、旧安中出身の幹部を次々に左遷し、2012年には旧日商銀が幹部の中枢を占める旧あおばホールセール銀行が旧あおば銀行を吸収する再編をやってのけた。


「この間、あおばの『共通基盤システム』は棚上げされ、旧あおば銀行のACPと旧あおばホールセール銀行のMRBSは、新生あおば銀行のシステム対応のため放置されました」(田中氏)

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