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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第七章 偽りと目覚めの果て
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不安を残して

 

 レイドールとの一戦から更に半年が経とうとしていた。

 ルブルニア軍はその間に、グランパニア軍傘下の国との戦争に更に二つ勝利し、レイドールと同じように奴隷解放、貿易関係、金銭的援助を要求し、事を納めている。

 そのため、ルブルニア王国の国民は既に二千近くに達していた。人数が増えるにつれ、様々な知恵を持った奴隷たちが集まり、やれることが着々と増えてきている。森を斬り倒すのは少し心苦しいところはあるが、国土も着々と広がってきている。

 ルブルニア軍も少しずつ様相を変えている。レイドールとの戦いの時は、有志で集めていた数百人だったが、今ではルブルニア軍兵士として五百を超える者たちが、正式に軍への加入を果たした。

 ロイズはその隊長として、日々軍の者たちに指導を行っていた。アリーナやハリーもその手伝いをしているが、アリーナに関しては学校を開き子供たちに勉強を教えているのでその限りではない。

 皆自分たちのできることを最大限に活かし、ルブルニアの繁栄に努めていた。


「金銭的な問題は当分大丈夫やけど、やっぱ土地の問題はおっきいな……。このままどんどん国民が増えれば、その分土地が必要となる。その度に木を斬り倒しとっては、いつか森がなくなってもおかしないしな……」


 ヨイヤミはいつも通り頭を抱えていた。今のアカツキたちの問題は、今後の国土をどうするかについてだった。


「しかし、我々の農業が上手くいっているのは元々森だった場所を開拓したお陰だぞ。平原で農業をしたところでこんな上手くはいかないだろう。このまま、森を切り開いて土地を広げていくしかないんじゃないか?」


 ロイズの意見に腕を組んだまま「ううん」と唸りながら、ヨイヤミは思考に耽る。そんな中、普段こういう話にはあまり参加しないアカツキが口を挟む。


「まあ、今すぐにどうこうなる訳でもないんだし、そんなにこの事について急いで考える必要無いんじゃないのか?」


 アカツキの気楽そうな態度にヨイヤミは溜め息を吐きながら、諭すようにアカツキに注意を促す。


「あのなあ、アカツキ。事が起こってから考えとっても遅いんや。事の先々を考えとかな、国なんて直ぐに廃れる。これまで上手くやってこられたのは、僕やロイズやアリーナが相当考えて対処してきたからや。頭空っぽのアカツキは黙っとき」


 最後はあしらうように、手を払いながらヨイヤミは言った。アカツキは表情をむっとさせたが、ヨイヤミに反論したところで論破されてしまうだけなので、ここは大人しく黙っておいた。

 アカツキたちは現状、グランパニア傘下の小国との戦争に勝利することにより奴隷解放を行っているが、グランパニア傘下の小国は三十や四十は存在する。一国、一国が小さいため、国の数は多いのだ。

 その全てと戦っていては時間が足りないし、そもそも国民をあまり抱え過ぎるのは得策ではない。どこかで目処をつけて、グランパニアと直接戦争をしなければならない。

 それにゆっくりしていると、レジスタンスに先を越されるという懸念もある。目的は同じでも、彼らのやり方では被害が大きすぎる。

 しかし、今のアカツキたちに彼らを止めるだけの力は無い。だからこそ、少しでも先回りして奴隷を解放することで彼らの目的自体を奪ってしまう、というのが当面のアカツキたちの目標になるだろう。


「そういえば、この前アルバーンに買い物行ったとき、ルブルニアのこと少し噂になっとったわ。さすがに建国してたった半年で、小国とはいえ三国も戦いに勝利したとなると、どんだけ領土や王権を奪ってないとしても、噂にはなるんやな……」


 ヨイヤミが少し困惑したように表情を歪めながら、机に肘を置いて腕で顔を支える。それに対してアカツキが首をかしげながら疑問を呈する。


「なんか不味いのか、それ?」


 アカツキの疑問に、視線だけをアカツキの方に向けあからさまに気の無い声音でヨイヤミは答える。


「今は傘下のかなり下っ端の国ばっかりを相手にしとるから、グランパニアが直接介入することはない。でも、もう少しグランパニアにとって大切な国との戦争になれば、グランパニアも直接動くことになるやろ。領土や王権を奪わずにことを済ませれば、その国自体が敗けたという事実を秘匿してくれるんやないかと思とったんやけど……。それでも、噂ってのは簡単に広がってしまうもんやな……」


 そこでアカツキはふと思うことがあった。シリウスに対しては直接グランパニアが手を下しに来た。ともすると、それだけシリウスの力が強大だったということか……。シリウスの本当の強さを知らないアカツキは一人そんなことを思っていた。

 「はあ……」と大きな溜め息をつきながらヨイヤミは話を続ける。


「実際、既にグランパニアはレジスタンスに対策を打とうとしとる。こっちに目が向くのも時間の問題やろな……」


 部屋の中に重い空気が漂う。グランパニアという言葉の重圧は、部屋の雰囲気を一変させてしまうほどの力をもつ。アカツキはそこでふと、疑問を口にする。


「でも、俺たちノックスサンを堕としたじゃないか……。あの国は、グランパニアにとってもかなり重要な国じゃなかったのか?」


 アカツキの言葉にヨイヤミは少し驚いたように顔をあげると、大きく目を見開いたまま、アカツキを眺める。ヨイヤミのその態度が少し鼻に障ったアカツキは「なんだよ……」と訝しげに見返す。


「いや、アカツキにしては珍しく、ええとこに気付いたなと思て」


 アカツキがヨイヤミに自分のことを相当低能だと思われているのではないかと危惧していると、ヨイヤミはアカツキの質問に答え始める。


「大事なんは油田であってあの国やない。やからあの国がなくなっても、グランパニア傘下の国が油田自体を確保すれば、グランパニアにとって大きな問題にはならん。ノックスサンの国王もそれくらい解っとるやろうから、下手に戦争に敗けて大事な戦力を失ったことをグランパニアに伝えたくはない。そんなことをすれば自分の地位が危ういことぐらい誰だってわかるからな。だから、俺たちの戦い自体が無かったものとなっとるんやろな」


 ノックスサンからガリアスが失われたと知れば、グランパニアは力のある別の者を国王とするだろうし、少なくとも別の国がすぐにでも襲ってくるだろう。

 セドリックがノックスサン国王としての地位を維持するためには、敗北の事実を秘匿し、ガリアスという過去の遺物に頼って他国を牽制し、戦争自体を避けるしかない。

 グランパニアは来るもの拒まずで傘下に加えているが、弱肉強食の考えなので、名を貸すことはあっても、弱いものに一々手を貸すことはない。

 レジスタンスほど目立った動きをしていると放っては置けないのだろうが、基本的には他の国がどれだけ戦争に敗けようと、気に掛けることはないのだろう。


「それでも、時間の問題やとは思うけどな……。どんだけ隠そうが、いずれは何処かから漏れてまう。情報なんてのは、何時までも隠し通せるもんやないからな。俺たちも同じように……」


 ふと、ヨイヤミが黙っていたロイズへと視線を向けた。母国がいずれ無くなるかも知れないという話を聞いて、ロイズはどういう感情を抱いているのだろうか。


「どうした?ああ、ノックスサンのことなら気にするな。お前たちが来なければ、いずれ国民たちが暴動を起こしていた。まあ、そんなことが起こっていればガリアスに皆殺しにされていただろうが……。むしろ、そんな未来から守ってくれたお前たちに感謝をしているくらいだ。自分の母国がいずれなくなるかもしれないというのは心苦しいが、お前たちが後ろめたく思う必要は無いよ。なっ、ガリアス、アリーナ、アリス」


 ロイズはその場にいた、ノックスサンの頃からの仲間たちに一人ずつ目配せする。ロイズに視線を向けられた彼らは、一人ずつ優しげな笑みを浮かべながら頷いていく。ちなみにハリーはいつも通りここにはいない。

 ロイズは最後にアカツキとヨイヤミにも視線を向けてきたので、二人も皆と同じように笑みを浮かべて頷いた。

 そんなこんなで、いつも通りの解決の見えない会議を続けていると、小さく扉を叩く音が部屋にこだました。


「誰や?」


 ヨイヤミが扉の向こう側の人物に尋ねると、向こう側から聞き慣れた兵士の声が聞こえてくる。


「門番をしている者ですが、急用により入室を許可していただきたく存じ上げます」


 ヨイヤミは「なんやろ?」と首を傾げながら、


「入ってええよ」


 と扉の向こう側にいる門番に入室を促す。

 門番は「失礼します」と言って扉を開けると、一枚の紙切れを懐から取り出し、それをヨイヤミに差し出す。ここで、門番がアカツキではなくヨイヤミに真っ先に紙切れを渡しに行くあたり、国民たちも彼らの関係を理解している証拠だろう。

 ヨイヤミはその紙を受け取り、書いてある文字を黙読していく。読んでいくヨイヤミの表情は訝しげなものに変わっていき、読み終えたヨイヤミは溜め息をつきながらアカツキへと紙切れを渡す。

 ヨイヤミから紙切れを受け取ったアカツキは、その紙に目を通していく。

 そこに記されていたのは、ラドニアという国からルブルニアに同盟を持ちかける内容のものだった。

 だが、これが罠である可能性はアカツキにでも予測できた。建国して一年経っていないこのルブルニアに、同盟を求める相手側の利益を見いだせない。それこそ、この国から襲われるのを避けるためか、この会談自体が罠であるかくらいしか考えられない。

 ただ一つ疑問なのは、ラドニアはグランパニア傘下の国ではない。自分たちがこれまで戦ってきたのがグランパニア傘下の国というのは、これだけ噂が流れているのだから、誰が見ても明白だろう。

 ラドニアが奴隷制度のある国であれば話は別だが、そういった情報は無い。例のごとく、ヨイヤミが他国のそう言った情報は引っ切り無しに集めているため、おそらくこの情報に偽りは無いだろう。

 ならば、ルブルニアとの戦争を避ける必要は無い。かといって、自分たちを罠に嵌める必要も皆無と思われる。

 他の可能性があるとすれば、協力してグランパニアに対抗しようという持ち掛けか……。


「これは何とも言えんな……。もし相手が、結託してグランパニアと戦おうってんなら、戦力が増えてくれるのは僕らとしては嬉しい限りや。ただこの御時世に、僕ら以外にわざわざグランパニアに楯突こうなんて考える国が、そうそうおるとは思えん。そう考えると罠である可能性はやっぱり拭えんな……」


 ヨイヤミは神妙な顔でもう一度アカツキから文書をもらい、目を通し直す。熟考するヨイヤミを眺めていたアカツキが、ドンっと机を叩いて立ち上がった。


「よし、会談に行ってみよう。こんなとこで迷っていても埒が明かない。罠だったら、叩き潰してやればいい。俺たちは、それだけの力を持ってる。罠であることも考えて、俺とヨイヤミとガリアスの三人でラドニアに向かう」


 ヨイヤミが何かを言うだろうと予想していたところに、アカツキが急にそんなことを言い出したので、周りの皆は呆気にとられて一斉にアカツキを眺めていた。そこから、いち早く抜け出したのはヨイヤミだった。


「まあ、それも一つやけど…。なんで、その三人なん?」


「そりゃ、国王の俺が行かない訳にはいかないし、俺は政治に関しての知識が皆無だからヨイヤミは絶対いるし、襲われたときのために、この国で一番強いガリアスも必要だと思って……。それにこれは国王命令だ。反論は許さないからな」


 アカツキは腕を組みながら自慢げにそんなことを言う。アカツキが言うことも一理あるといった感じでヨイヤミは何度か頷く。不安は確かに残るがそうするのが一番良い気もする。


「まあ、確かにそうやろうな。これが罠やったら、それに対処できる能力のある人間を連れて行くのが一番や。そうなると、ガリアスと僕ってことになるわな。まあ、さっさと終わらして、さっさと帰って来るか」


「じゃあ、明日早速出発して早いとこ終わらせようか。俺たちが国を開ける間、この国を頼むぞロイズ」


「あ、ああ……」


 アカツキの言葉に対してロイズは歯切れの悪い返事を返した。


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