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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第六章 俺たちの戦争
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それだけで癒される

 コーネリアスがなかなか目を覚まさなかったため、戦争を終えたアカツキたちはまず、各々の傷の手当てをすることになった。キャンプに留まっていたアリスを呼び出し、重症者はアリスの魔法で治療を行った。

 アカツキが「自分は最後で良い」と頑なに譲らなかったので、アリスは先に他の者の手当へと従事した。

 こちら側の大きな負傷者は騎兵隊の内の数人だけで、アリスの治療を必要していたのは、むしろレイドール軍の方だった。


「敵国に情けを掛ける必要など無かろう。死にそうな訳でもないのだから、お前の治療の方が優先だろ」


 ロイズは足を赤黒く染め上げるアカツキのことを心配して、そのように意見した。


「相手に死なれたら困るのは、俺たちの方だろ。俺は資質の力でこれくらい何てことないから、向こうの方が先だ」


 しかし、アカツキはこう言って譲らなかった。ロイズも国王であるアカツキに対して、しつこく反対する気には無れなかったので、諦めて溜め息を吐きながら、それ以上何も言うことはなく黙ってその場を後にした。

 ロイズと入れ替わりで、ヨイヤミがアカツキの元へとやってくる。アカツキが「よっ」と軽く手を上げて挨拶すると、ヨイヤミが急に激怒の表情に変貌すると、すごい勢いで捲し立てる。


「アカツキ、お前何を調子乗ったことしとんのや。魔法を使わずに戦うやと……。これは、戦争なんや、普段お前がしとる修業とは訳が違う。しかも、相手は資質持ちやぞ。どれだけ余裕があったとしても、もし何かあったらどうするつもりや……」


 そんなヨイヤミの勢いに気圧されて、アカツキは口を開いたまま、言葉を失っていた。ヨイヤミは自分の気を落ち着かせるためか、急に深呼吸をし始めると、一度咳払いしてから落ち着いた口調で話し始める。


「まあ、アカツキが何を考えとったかは、大体予想がつくし、それが悪いことやとも言わん。むしろ、それくらいの覚悟が無いとあかんとは思う。やけどな、それで力を出さずに死んだら、元も子もないやろ。あんま無茶せんといてくれ……」


 ヨイヤミがただ純粋に心配してくれていることが、アカツキにもわかったので、ここは素直に謝っておくことにする。


「悪かった。反省するよ……」


 そんなアカツキにヨイヤミは、呆れたように溜め息を一つ吐くと、少し苦笑しながら告げる。


「まあ、ちゃんと無事でおってくれたで、文句はないんやけど……。それにしても、本当にようやるわ」


 ヨイヤミのその言葉に、アカツキは親指を立てながらヨイヤミに向けて屈託ない笑みを見せる。

 そんな反省の見えないアカツキの様子に、ヨイヤミは完全に呆れ返り、アカツキの頭に平手打ちをかますと、踵を返してアカツキに背を向けた。


「さっさと、アリスちゃんのとこ行って、治療してもらえ。ついでに、その空っぽな頭も治してもらってこい」


 吐き捨てるようにそう言うと、ヨイヤミもアカツキの元を離れて行った。アカツキは珍しくヨイヤミに叩かれた頭を抑えながら、去っていくヨイヤミの姿を目で追っていた。

 ちなみにこの頃、ガリアスは使い過ぎた精神力の回復に尽力していた。つまり、寝ていた。熟睡である。ガリアス用に、新しくテントが建てられ、今はそこで睡眠中である。いびきが煩いので、テントは少し離れた場所に建てられていた。

 敵国の最後の兵の治療が終わり、アリスがアカツキを見つけてテントの中へと招き入れる。


「アカツキ君、お疲れさま。ご無事でなによりです」


 アリスの労いの言葉に対して、アカツキは軽く微笑みながら返事する。


「だから、大丈夫って言ったろ。俺たちは強いんだ」


 アリスが真っ赤に染まったアカツキの足の甲に手を当てる。やんわりとアリスの手が輝きだし、アカツキの足を癒していく。その光はとても暖かく、心が落ち着き、優しい気持ちで満たされていく。


「お守りは役に立ちましたか?」


 アリスは治療を続けながら、視線は合わせずに声だけで尋ねる。


「ああ、お陰で無事に帰ってこられたよ。ありがとう」


 アカツキも、光で包まれて治療が続けられる自分の足を不思議そうに見ながら答える。


「いえ。私にはこうやって皆さんの無事を祈りながら待つことしか、戦争の間はできませんから……」


 アリスは少し残念そうに苦笑する。その表情を見たアカツキは、首を二、三度横に振って否定を示す。


「そんな自分を卑下するようなこと言うなよ。こうやって戦争の後に皆の治療をしてくれるだけでどれだけ助かっているか……。むしろ、治療に関しては、俺たちは何も手伝ってやれない。全部アリスに任せてしまって悪いな……」


 アリスに釣られるように、アカツキも表情を少し曇らせながら、申し訳なさそうに言う。まだ治療を続けていたため、俯いたままだったアリスから「クスッ」と笑う声が聞こえてくる。


「私は皆さんのお役に立てて嬉しいですよ。それに、これは私が率先してやっていることですし、お気になさらないでください。こうやって、アカツキ君と二人きりでいられることなんてなかなかありませんから、嬉しいですし……」


 アリスの言葉に「なっ……」と驚いて、アカツキが言葉を失っていると、治療を終えたアリスが、不思議そうな顔をして首をかしげる。しかし、自分が言った言葉を頭の中で反復したのか、アリスが口を押さえながら、顔を一瞬で真っ赤に染めあげた。

 それに対して何も答えないのは失礼だと思い、アカツキも小さな声でどもりながら答える。


「そ、そっか。あ、ありがと……」


 アカツキは正直なところ、何に対して自分が感謝の言葉を告げているのか、自分でも解っていなかったが、とりあえずそう言っておく。


「い、いえ。め、滅相もございません……」


 アリスも感謝の気持ちを告げられたので、とりあえず返事をしなければ、といった感じで返事をしていた。

 二人の間にそれ以降の言葉が続かず、テントの中を沈黙が満たす。その沈黙が何故だか可笑しくなってきて、アカツキは急に吹き出す。


「ふっ。あははははは……」


 それにつられてアリスも声を上げて笑いだす。急に二人の笑い声がテントの中から漏れだしてきたので、周りを行き交う人たちは、立ち止まって不思議そうにテントの方を眺める。


「本当に、何をやってるんだか……。まあ、楽しそうで何よりだ」


 ロイズは二人がいるテントを、微笑みの表情を浮かべながら見守っていた。




 それから数時間して、やっとコーネリアスが目を覚ますと、アカツキ、ヨイヤミ、ロイズと、コーネリアスとその付き人二人の六人での話し合いが設けられていた。


「僕らの出す要求は三つや。一つ目は全ての奴隷をこちらに受け渡してもらうこと。それと、今後の奴隷売買の禁止。二つ目はグランパニア傘下の国と同様の金額での衣類の取引。別にただで明け渡せって言ってる訳やない。ちょっと安くしてくれればそれでいい。んで、三つ目は色々とこちらも痛手を負った訳で、賠償金としてこちらの提示額を支払ってほしい。その三つの要求が受け入れられない場合、全力でレイドール国を堕とし、我が国の領土とする。どうや、戦争に負けたにしては、悪い条件やないやろ」


 ヨイヤミの言葉を、コーネリアスは歯噛みしながら聞いていた。だが、現状の戦力でレイドール軍がルブルニア軍に勝つのは不可能なのは、身をもって理解した。戦争に負けたにも関わらず、国自体は見逃してくれるというのなら、この提案には乗らざるを得ない。

 コーネリアスは悔しそうにゆっくりと頷くと、ヨイヤミは嬉しそうに紙を机の上に置いた。


「じゃあ、この書面にちゃんと署名してや。じゃなきゃ、信用ならんからな」


 ヨイヤミの出した紙に、コーネリアスは自分の名前を署名すると、投げ捨てるようにヨイヤミに返却する。


「ありがとさん。これさえあれば、この件については国際法が適用されるから、逃げ隠れはできへんでな。じゃ、その他諸々の受け渡しについては、後日そっちに直接行かしてもらうわ。それで構へんな?」


 コーネリアスは黙ったまま、ヨイヤミを睨み付ける。ヨイヤミはそれを了承ととったのか、手を顔の前でパンっと叩いて立ち上がる。


「よし。なら、僕らはそろそろ、自分の国に帰らしてもらうわ」


 そう言って、気分揚々とスキップをしながらテントの外へと出ていく。


「おいっ。ちょっと待てよヨイヤミ」


 アカツキも、コーネリアスのことを一瞥してから、ヨイヤミの後を追うように急いでテントの外に出ていく。

 ロイズはコーネリアスに礼儀正しく一礼した後、テントを後にした。

 三人がテントを出ると、中から「クソッ」という叫び声と、コーネリアスが机を蹴り飛ばしたのか、ガシャンと言う音が聞こえてきた。

 その音を聞きながらロイズが「荒れてるな……」と呟いたが、ヨイヤミは相変わらず嬉しそうに、書面を握りしめながらスキップをして、軽い足取りで歩いていた。


「なあ、グランパニアへの報告の禁止とかしなくて良かったのか?レイドールはあくまでもグランパニアの傘下の国だろ。あいつらがグランパニアに泣きついて、俺らに攻撃を仕掛けてくることもあるんじゃないのか」


 先程から心配していたアカツキの杞憂に対して、ヨイヤミは軽い感じで答える。


「ああ、それなら心配ない。ああいう小国は、大体がグランパニアって言う肩書きが欲しくて、頭を下げて傘下になっとるような国や。やから、レイドールがグランパニアに泣きついたところで、相手にされる訳がない。そんなことは、たぶんあいつらも理解しとる。つまり、アカツキが心配しとる事態には絶対にならん」


 そんなヨイヤミの言葉にアカツキの杞憂は完全には取り払われることはなかったが、とりあえず納得しておくことにする。そういうことは、自分よりヨイヤミの方がよほど詳しいので、自分が口出しをする気はない。

 アカツキはそれ以上の質問をすることなく、ヨイヤミたちと共に仲間の元へと戻っていった。


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