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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第六章 俺たちの戦争
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それぞれの戦い

 左右両方に分かれた四百近い騎兵に対し、ヨイヤミは騎兵を右の二百に、弓兵と自分を左の二百に当てた。

 弓兵に自分が加わったのは、騎兵の方にはロイズ、アリーナ、ハリーがおり、指揮を執る者がいるのに対し、弓兵は有志で集まってくれた国民たちの集まりで指揮を採れる者などいなかったからである。ただし、ヨイヤミは少しだけ騎兵隊の方に力を与えた。


「僕の魔法で、皆の剣に炎の力を加える。それで敵の騎兵の剣の刀身を斬れば、敵の剣は溶け落ちて使い物にならんくなるはずや。これなら相手を殺さずに何とかなるはずやろ。アカツキが頑張っとるんや、僕らもあいつの気持ちに答えたらなあかん。なるべく相手は殺すな。後は、ロイズたちの実力に掛かってるで」


 ヨイヤミがそう言いながらロイズたちに向かって、両手をかざす。すると、ヨイヤミの手が発光したのと同時にロイズたちの剣が赤い光に包まれ熱を帯びる。


「後な、なるべく早く終わらせてくれ。魔法も無限に使える訳じゃなくて限界はあるから、あんまり長いことは持たへんのや。そこらへんよろしくな」


「おお、凄いな……。魔法は他人に掛けたりすることもできるのか?しかも、こんなに大勢に……。ヨイヤミ、お前って他の奴らよりも実は凄かったりするのか?これまでに多くの資質持ちを見てきたが、他の奴がこんな大量の数の魔法を使ったところ何て見たことが無いぞ」


 ロイズは驚きながら、赤く発光する剣をマジマジと眺めながら、ヨイヤミに尋ねる。

 他の騎兵たちも、自分の剣が発光したのに驚き、ロイズと同じように見るだけに留まった者や、それがどうなっているかを確かめるために剣に触れ、グローブを溶かしている者まで、反応は様々だった。


「あぁ、もうはよ行かんかい。長くは持たんて言うてるやろ。そこらへんは僕にもわからん……。ただ、僕の魔法って、一つずつは弱いけど、それを大量に出すのは得意なんや。わかったらさっさと行って来い」


 ロイズたちが自分に掛けられた魔法に興味を持っている内に、敵兵たちはドンドン攻め込んできていた。距離はいつの間にか大分縮められており、ロイズも流石にそんなことに興味を持っている余裕はないなと踵を返して、右から攻めてくる騎兵隊に向き合った。


「国王の頑張りを無駄にはするな。ここからが私たちの踏ん張りどころだ。腕に自信が無い者も少なからずいるだろうが、無理はするな。何よりも自分の命を優先しろ。では行くぞ。皆掛かれええええええ!!」


 ロイズが剣先を敵騎兵隊に向けると、二百の敵の騎兵隊に向かって、百の騎兵隊が咆哮を上げながら突撃していく。

 ロイズが先頭に立ち、真っ先に敵騎兵と剣を交える。すると相手の剣は、まるで木の枝を折るように、刀身の部分が切断される。刃先を失った剣は、ただの柄付きの棒と化し、最早剣としての意味をなさない。

 ロイズは向かってくる騎兵たちの剣を自らの剣が届く範囲で次々と、切り落としていく。それに続いてアリーナ、ハリーそして、腕に多少は覚えのある国民たちがロイズほどではないが、どんどん敵を無力化していく。

 しかし、それだけで全員の無力化を図ることはさすがにできなかった。戦いを全く知らないが、この国のために少しでも役に立とうとしてくれた者たちに、敵の騎兵隊が襲い掛かる。中には情けない声を上げならがら落馬し、地面を這って戦場を逃れようとする者もいる。

 だが、誰もそれを責めることはできない。彼らは軍人ではない。戦ったことのない、ただの市民だ。それでも国のために戦おうという意思を示してくれただけでも褒めてやりたいぐらいだ。敵の半分以上はすでに無力化されていたが、取り残した者たちがそこで乱戦になる。

 敵の一団を一旦抜けたロイズたちは、すぐに体勢を変えて、もう一度背後からの接近を試みる。意図したものではなかったが、そこではさみうちの体制を取ることができ、みるみる内に相手の兵が無力化されていった。

 一部の有志の兵の必死な抵抗により、結果的に相手の無力化にものの数分で成功した。

 彼らはただ必死に喰らいついていただけで、自分たちが如何にこの戦いで活躍したかなんて気が付いてないだろうが、無力化に成功した瞬間の彼らの安堵の表情は、戦闘終えた間近のロイズを苦笑させるほどに一体感があった。


「さあ、アカツキ。こっちは終わらせた。後は、お前が全てを決めてこい。国王として、一人の資質持ちとして、敵の国王に負けるんじゃないぞ……」




 一方、弓隊とヨイヤミは、左から来る騎兵隊と相対していた。しかし、こちらもほとんどが軍人ではないただの一般人だ。だから、正確な位置を射るなどといった、難しいことはほとんどの者に期待ができない。先程のように、ヨイヤミの魔法の触媒にするのが最善だろうと思われた。

 敵の数も二百なら先程、ヨイヤミが無力化した数と変わらない。ただ問題なのは、今回の相手は動いているということ。動く標的に対して、直撃しないように調整して、爆風により無力化を図るのは、かなり困難を強いられる。

 しかしそれくらいしか策の考えられなかったヨイヤミは、先程と同じように敵にめがけて、適当に矢を射るように兵たちに指示を出す。

 射られた矢は先程と同じように全く敵の騎兵隊と関係の無い方向にアーチを描きながら飛んでいく。それが急激に発火し、敵の騎兵隊へと襲い掛かる。

 だが、敵も一度見た攻撃に対して、ただ突っ込んでくるような真似はしてこない。彼らは陣形を崩してバラバラになりながらも、こちらに向かってくる。ヨイヤミはそれに合わせてなるべく火の矢を操作するが、その全てを追うことは不可能だった。

 二百の内の七十を捉えることはできたが、まだ三分の二の騎兵隊がこちらに向かって駆けてくる。大勢で近づかれれば、弓兵しかいないこちらに打つ手はない。その距離約五百メートル。

 弓隊の実力も考えて、矢を放つことができるのは、相手がこちら側に到着するまでに一人一本が限度であろう。残り一回の攻撃で、後何人減らすことができるか…。

 弓兵たちの動きを確認したヨイヤミは、残りの兵に向かって指を指し、大声で叫ぶ。


「弓隊、放てええええええ!!」


 ヨイヤミの叫びと共に、弓隊の矢が残りの兵へと放たれる。放たれた矢に、もう一度ヨイヤミの魔法が込められ、鳥の形を模しながら敵の騎兵隊へと襲いかかる。

 騎兵隊はその攻撃に対して、さらに一人一人の距離を取って行動し、ヨイヤミからの襲撃を躱していく。それでもヨイヤミは少しでも多くの矢を操作しなるべく多くの数の無力化を図る。

 現在ヨイヤミがしていることは、六本くらいの腕を持って、それぞれの指を別々に動かしているようなもの。そんなもの、精神力が持つ訳がない。

 ヨイヤミは全ての着弾を確認すると、大勢を崩してその場に跪く。騎兵隊に魔法を掛けている上に、大量の弓矢を操るという離れ業を見せたせいで、早くも精神崩壊の前兆が現れだした。

 しかし敵兵はまだ六十近く残っている。こちらの弓兵がどれだけの数がいようとも、間合いに入られてしまえば最早打つ手はない。


「くっ、どうすれば……。このままじゃ、こっちの弓隊は全滅や。いや、僕にやれることは一つしかない。資質の力で、相手を全て殲滅すること……。この際、相手の命をどうこう言うとる場合やない」


 ヨイヤミが覚悟を決めて、最後の力を振り絞って、敵の騎兵隊に魔法を撃ち込もうとしたその瞬間、跪いたままのヨイヤミの横を、数十の馬が駆けていく。その先頭を行く者が、ヨイヤミに振り返って言い残していく。


「バテるのは少し早いぞ、ヨイヤミ。もう少し我慢しろ。後は私たちが何とかする。この魔法、絶やすんじゃないぞ」


 藤色の髪を揺らしながら駆けていくその女性騎士は、先程まで反対側から襲ってきていた騎兵隊と戦っていたはずの人間だった。

 ヨイヤミは唖然としながら後ろを振り返る。そこに広がっていたのは、剣や腕、中には足を無くして無力化されている、二百の騎兵隊がそこら中に横たわっていた。


「たった数分で、あれを全部無力化したって言うんかい。その上で、こっちのサポートまでくるなんて、どんな神経しとるんや……。やっぱり本物の軍人は違うわ。まあ、それもこれも、僕の資質の力やけどな」


 ヨイヤミは聞こえるはずのない距離のところにいるロイズに軽く悪態をつきながら、彼女の後姿を眺めた。

 その後ろ姿は強く、気高く、美しく、まるで戦場を駆る獅子のように、次々と敵を無力化していく。たった六十の相手に、ロイズが率いる軍が手こずる訳もなく、たった数分で全ての兵を無力化した。

 敵の全ての兵が動かないのを確認したヨイヤミは、ロイズたちに掛けていた魔法を解除し、その場に仰向けになって横たわる。


「後は頼むで、アカツキ……。僕はそろそろ限界みたいや。アカツキを信じて、少し寝させてもらうわ……」


 そうつぶやきながら、ヨイヤミはゆっくりと瞼を閉じていった。




 ガリアスは単騎で敵の後衛部隊に突撃していた。アカツキが戦っている間に、迫撃砲でヨイヤミたちがいるところを襲撃されたら、おそらくそれを防ぐ術はない。

 まずは自分に照準を合わせさせ、今装填されている迫撃砲をやり過ごしたあと、動き出すのが得策だろう。後は、三発の迫撃砲に自分が耐えられるかだけだ……。

 ガリアスは後衛部隊を襲撃するために、一番最初にやったのと同じく、巨大な氷柱を出現させて、それを引き抜いた。

 それを見た後衛部隊は、迫撃砲、重火器共にガリアスに照準を合わせようとする。そしてガリアスの狙い通り、氷柱での攻撃が来る前にガリアスをハチの巣にしてやろうと急いだ後衛部隊は、ガリアスに向けて一斉射撃を開始した。

 ガリアスはフェイクだった氷柱をすぐさま放り投げ、自分の前に分厚い氷の壁を創り出す。

 まず真っ先に襲い掛かってきたのは、銃弾の嵐。しかしそんなものガリアスの氷の壁からしたら、どうということはない。この氷の壁をこんなにも厚くしたのは、その次に来るであろう迫撃砲を防ぐため。

 そして、遂に迫撃砲の一つが爆音を上げて火を噴いた。その砲弾によって、ガリアスの氷の壁に大きく罅が入る。そして、間を置くこともなく次弾が、ガリアスに向けて飛んでくる。このままでは、氷の壁は次の砲弾で砕け散り、三発目を防ぐことは適わない。

 ガリアスは氷の壁に両手を付いて一気に魔力を込める、そして二発目、三発目がガリアス向けて放たれる。


「負けるものかあああああああああああああ!!」


 ガリアスは雄叫びと共に、氷の壁に更なる魔力を注ぐ。そして、ガリアスのその雄叫びをかき消すように二発目、三発目が轟音を上げてガリアスの元に着弾する。

 その後、爆炎が上がり、周りからガリアスの姿を確認することが出来なくなる。


「ついに、やったのか?あの化け物を倒したのか……。……うっ、ま、まさか……」


 時間を経てゆっくりと晴れていく爆炎の中にその猛々しい姿はあった。巨木のように、しっかりと地に足をついてガリアスは立っていた。

 その姿を見た敵の後衛部隊は、倒すことのできない怪物への恐怖によって、一人残らず後ずさりをした。

 そしてその一瞬の隙にガリアスは次の行動に出る。


「アカツキ殿の道は自分が切り開こう。少々の間、お前たちには大人しくしていてもらおうか……」


 そう言いながら、ガリアスは砲弾によって焼土と化した地面に空色に輝く両の手を付く。

 するとガリアスの元に、目で見て解るほど凄まじい冷気が収束していく。それはやがて、ガリアスの立つ場所から順に、草原の草がみるみる内に凍らせる。その氷が一気にガリアスを中心に広がっていく。


「ニブルヘイム!!」


 それは、周囲の全てを凍らせて白銀世界へと変える、ガリアスの最強魔法。この魔法を保つ間、ガリアスは動けない上に膨大な魔力を消費する。だが、その魔法は一時的に残りの後衛部隊の兵の動きを完全停止させた。

 ガリアスの微妙な魔力調整により、体の動きを止めるだけに留め、息はできるようになっている。そのため、氷の中で窒息するということはない。

 ニブルヘイムへの魔力の供給に集中するため、ガリアスは最後に一言だけ、届くはずのないアカツキへの言葉を投げかけた。


「アカツキ殿。長くは持ちませんぞ……。早急に終わらせてくだされ」


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