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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第六章 俺たちの戦争
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誰よりも前に

「コーネリアス様、ひとまずあの氷の壁を迫撃砲で破壊して、騎兵隊を戦場に戻した方が……」


 兵の一人がコーネリアスに指示を仰ごうとするが、コーネリアスは冷や汗を流しながらかなりの焦りの表情を見せていた。今のコーネリアスにはガリアスを止めることしか頭が無かった。


「そんなことをしていたら、あの資質持ちを止める砲弾が無くなるだろうが。使えん兵は捨て置け。資質持ちさえ止めてしまえば、後はこちらのものだ。まずはあの資質持ちに全弾つぎ込むんだ」


 コーネリアスの指示により全ての砲口がガリアスとアカツキに向けられる。ガリアスが氷の檻を創っている間に、既に次弾の装填は完了していたようだ。

 その様子を見たガリアスの顔に、焦りの色が見え始める。さすがにもう一度あの砲弾を喰らえば、動くことはおろか、下手をすれば本当に命を落とすかもしれない。


「くっ、どうすれば……」


 ガリアスが、次の砲弾に向けて足を一度止めると、それに続いてアカツキも足を止める。


「ガリアス、無理はするな次は俺が何とかするから、お前は下がっていろ」


 今度はアカツキがガリアスの前に出る。ガリアスが「しかしっ……」と声をかけようとしたが、もうアカツキが止まることはなさそうだと判断したガリアスは、黙ってアカツキの命に従う。

 砲弾を防ぐためにアカツキたちが動きを止めたことで、一瞬戦場を静けさが満たす。そして、この沈黙を狙っていたかのように、すぐさまコーネリアスの指示の声が響き渡る。


「迫撃砲、打てえええええええええ!!」


 先程と同じく、三つの砲口から巨大な砲弾が放たれた。アカツキは確かにこの戦争においては、敵国王とだけと戦うのが目的で、それ以上のことはしないというのが約束だった。

 しかし、それはヨイヤミがアカツキの魔力量を心配してのことだ。だが、目の前で仲間が傷ついている様子を、ただただ眺めることなんてアカツキにできるはずがなかった。それに今回はいきなりの襲撃ではないから、準備だってできる。

 アカツキは迫撃砲が放たれたのを視認した瞬間、自らの身体の周りに三つの、砲弾と同じくらいの炎の球体を創りだす。その球体は一度アカツキの周りをぐるりと一周すると、それぞれを砲弾に向かって、まるで意志があるかのように飛んでいった。

 砲弾と炎の球体は互いにぶつかり合い、空中で凄まじい爆破音と爆風をまき散らす。それらはアカツキを襲うが、それをガリアスが薄い氷の壁で防ぐ。アカツキがガリアスの方を一瞥すると、軽く笑みを浮かべてガリアスはこう言った。


「これぐらいのことはさせて下さい、国王様……」


 ガリアスのその言葉に少し照れながら、アカツキはこんな状況の中で頬を少しだけ赤くし、照れ隠しに一言だけ吐き捨てるように告げる。


「別に、そんなの無くたって、大丈夫だよ……。あと、国王様って言うな……」


 アカツキが炎の球体を出現させたのを見て、コーネリアスは目を疑った。しかしあれは紛れもなく、アカツキが自ら出現させたもの。そもそも、もう一人の資質持ちとはエレメントが違うため、疑いようがない。


「まさか、資質持ちが二人もいるのか……」


 コーネリアスの唖然としたその声は、焦りと驚愕に満ちていて、口許がブルブルと震えていた。いくら自分の目で確かめたからと言って、それを認められない自分がいる。建国したばかりの国に二人も資質持ちがいるはずがない。


「ば、ばかな……。資質持ちが二人だと。そんなことあり得るはずが……。そもそも建国したての国ではなかったのか」


 コーネリアスの焦りのせいで、レイドール軍の動きが滞る。その隙と言わんばかりに、アカツキたちがさらにレイドール軍の本隊に接近する。困惑で思考が停止していたコーネリアスに、兵の一人が指示を求める。


「コーネリアス様、次の御指示を……。このままでは、彼らの接近を許してしまいます」


 その言葉で我に返ったかのようにハッとすると、二人の資質持ちがコーネリアスの視界に入ってくる。コーネリアスは慌てて、兵たちに指示を出す。


「奴らを、近づけるな。重火器部隊、前に出ろ」


 二百近い銃を持った兵たちが迫撃砲の前に出る。かなり接近を許したアカツキたちへの迫撃砲での攻撃は諦め、後衛部隊としてこの場に留まっていた、重火器部隊が顔を出す。


「狙いはそこの資質持ちの二人だ、あの二人を力ずくで抑え込め。遠慮はいらん、弾丸があるだけぶち込んでやれ」


 コーネリアスのその声と共に、アカツキたちの目の前から銃弾の嵐が吹き荒れる。重火器部隊が銃器を構えるのを見たガリアスは、アカツキに静止を促し氷の壁を出現させた。

 銃弾の嵐はそれで何とか防ぐことができるが、これでは先に進むことができない。そうしている内に、迫撃砲の次の砲撃の準備が着々と行われている。

 どうやら重火器で時間を稼いで、至近距離から迫撃砲で攻撃を仕掛けてくるようだ。ガリアスがどうしたものかと冷や汗を流しながら困惑していると、後衛部隊から救いの声が響いてくる。


「弓隊構えっ。放てええええええ!!」


 ヨイヤミのその声と共にルブルニア軍の五十人近い弓兵が一斉に天高く矢を放った。しかしその矢はどう考えても、勢いにせよ、放った方向にせよレイドールの本隊に届く訳がない。


「どこを狙っている。資質持ちの二人が動けなくなったら、残りの兵は照準すら合わせられんクズだけか……」


 どこからか、嘲りの声が聞こえてくる。アカツキにも、何故そのように天に向かって矢を放ったのか、理解ができなかった。だが、アカツキがルブルニア軍の方を一瞥すると、ヨイヤミは余裕の表情でこちらを見ていた。その表情に、ヨイヤミには何か考えがあるということが確信できた。

 そしてヨイヤミは赤く発光する手を矢が上がった方向へと突き出し、魔法の名を叫ぶ。


「いっけええええええ。バーニングアロー」


 ヨイヤミが手に纏っていた赤い光素が弾け飛ぶように飛散すると、五十本の矢が急激に発火した。そしてその炎は鳥の形を模すと、まるで意志があるかのように、方向を変えて速度を増し、敵後衛部隊へと襲いかかった。

 コーネリアスは自分の周辺に襲いかかってきた数本の矢を自分の魔法によって防いだが、残りの数本は地面へと落下すると爆炎を上げて、他の後衛部隊に襲いかかった。

 重火器部隊が持っていた弾薬は、その炎により次々と誘爆を起こし、使い物にならない状態になっていた。

 後衛部隊の連中は誘爆から逃げるように走り回り多くの者は死ぬことはなくとも、火傷を負ったり爆風で飛ばされて意識を失ったりと、無力化されていた。

 これはあくまでも、ヨイヤミの微調整によるもので、何とか敵兵が死なないように攻撃を加えていた。


「あんまり僕はこういう調整に向いてないんや……。はずみで何人か殺してもうてもおかしくないんやで。はよ終わらしてや、アカツキ……」


 小さく愚痴を零しながらも、ヨイヤミの表情は先程比べるとかなり落ち着いたものとなっていた。

 この時点で、レイドール軍は実に五割の戦力を削がれていた。たった三人の資質持ちにより、一千もの兵が無力化された。


「さ、三人目だと……。何がどうなっている?」


 二人目の資質持ちの出現で思考が停止していたコーネリアスは、三人目が出てきたときには、最早思考することを諦めた。他の者など何の信用もできない。もう、自分が出るしかない。


「ええい、もう良い。こいつらは私が相手をしてやる。残りの騎兵隊は左右に別れて、敵の後方部隊を襲え」


 コーネリアスの指示により、四百の兵がアカツキたちの進路から離れるように、左右に均等に分かれてヨイヤミたちのいる方向へと向かった。ガリアスとアカツキは、それらに一瞬焦りの様子を見せたが、ヨイヤミがこちらに向けて大きな声で叫ぶ。


「アカツキ、左右に分かれた騎兵隊はこっちに任せろ。なるべく、早く決着つけてくれよ。こっちはまだまだ戦い慣れてないんや。長くは持たんで」


ヨイヤミの言葉に、アカツキは振り向かずに軽く手を上げて返事をする。残っていた後衛部隊が重火器をもう一度整えて、アカツキたちへの攻撃の準備を始めていた。それを見たガリアスがアカツキに向けて進言する。


「アカツキ殿、残りの兵は全て私が引き受けます。元の作戦通り、アカツキ殿は敵の国王との戦闘に向かってください。ご無礼ですが、アカツキ殿を敵国王のところまで投げ飛ばします。異存はありませんね」


 アカツキは無言のままガリアスの言葉に頷くと、ある程度の距離に到着したところで跳躍し、ガリアスの片手に膝を抱えるような体勢で飛び乗る。


「では、私は後衛部隊の連中の無力化を図ります。ご武運を……」


 ガリアスはそう言い残すと、アカツキを勢いよく投げ飛ばした。アカツキは空高く飛翔し、レイドール軍や迫撃砲の頭上を通過する。

 そしてアカツキはレイドール軍を飛び越え、一番後ろで構えていたコーネリアスと視線を合わせた。アカツキが飛翔してくるのを視認した、コーネリアスは遂に動きだした。


「舐めるなよ。たかが小僧が、私の攻撃範囲に踏み込んだことを後悔させてやる。喰らえええええええ!!」


 薄い黄色の光素がコーネリアスの手へと収束していく。そしてコーネリアスがアカツキに向けて手を突き出すと、そこに展開した魔法陣から雷光の光線がアカツキに向けて一直線に走る。

 コーネリアスが魔法を放つ予備動作を行ったのに気付いたアカツキは、手に退魔の刀を出現させる。アカツキは自分に向けて一直線に走ってくる雷光に、切り刻むように刀を振り下ろした。

 雷光は真っ二つに割れアカツキを挟むように左右に逸れていく。アカツキは重力に任せて、まるで紙を切るかのように雷光の光線を両断する。


「な、なんだ、その力は……。魔法を斬っただと。そんなこと、できる訳が……」


 コーネリアスはこの戦いの中だけでも見飽きたというぐらいの焦り顔を浮かべて、手から魔法を繰り出していた。

 しかし、コーネリアスの気持ちもわからないでもない。建国したての国に三人もの資質持ちが存在し、そして目の前にいるのは、魔法を斬ることのできる刀を持った資質持ちだ。

 もう、何が何だか分からなくなって、おかしくなってしまっても不思議ではない。だが、コーネリアスは何とか踏ん張って、正気を保っていた。

 コーネリアスの驚愕の表情を見たアカツキは、コーネリアスの精神力がぶれ始めていることを悟り、そこで退魔の刀を完全に振り切った。すると、雷光の光線は完全に飛散し、コーネリアスの魔法は消滅する。そのままコーネリアスの目前に着地したアカツキは、一度コーネリアスを睨み付けると、拳に魔力を込めて左頬目掛けて思いっきり殴り飛ばした。

 数メートルは飛んだであろうコーネリアスは、地面に手を付きながら何とか立ち上がり、殴られた左頬を抑えて、焦りと驚愕混じりの引きつった表情と声音でアカツキに尋ねる。


「な、なぜ……、建国したての国に三人も資質持ちがいる。貴様ら一体……」


 アカツキはコーネリアスから投げ掛けられたその質問に対して、あまり答えにはなっていないような答えを告げた。


「俺の名は、ルブルニア国王、アカツキ・ルブリエスト。さあ、場は整った。国王同士、けりを付けようじゃないか」


 ルブルニア国王としての、アカツキの初めて戦争が始まった。


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