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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第六章 俺たちの戦争
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仲間と共に

 戦争当日、アカツキたちのキャンプから少し離れたところで、レイドールの一軍は待ち構えていた。目の前に構える軍勢は、二千を超えている。この平原は本当に平らな土地で、辺り一面を見渡すことができ、横一列に並んだ軍勢が漏れなく視界に入ってくるため、敵の数の多さがひしひしと伝わってくる。


「ヨイヤミ、お前の予想大外れじゃねーか。倍はいるぞ、あれ……」


 騎兵や弓兵、銃を持った兵士たち。そして、その後ろに構える、巨大な砲口。


「すげーな、あれ。しかも、あんなもんが三つもあるし……。あれを見せられるとさすがに緊張してきたわ。資質持ちの僕らでも、どうしようもないかもな……」


 ヨイヤミは、昨日の夜の様子とは一転して、皆の前ではいつもの軽いノリで話していた。

 ヨイヤミが驚いたのは、敵の所持する巨大な迫撃砲。砲口はおよそ直径五十センチはあろうかという、かなり巨大な迫撃砲だ。

 あれを生身で受ければ、人間などひとたまりもあるまい。ただし、ここには人間でないものが数人混じっている。あんなものを見せられたくらいで、士気が下がるようなことはない、はずだ……。


「ガリアス……、あれ本当に大丈夫やと思うか?いくら資質持ちの力があるとは言え、あんなもん喰らったら、ひとたまりもないんちゃうん……」


 ヨイヤミの表情が少し歪んでおり、その頬を一筋の雫が滴り落ちる。軽いノリを見せてはいるものの、表情がノリとはかみ合っていない。本当に大丈夫なのか……。


「迫撃砲は、自分が何とか抑えましょう。生身で受ければ危険かもしれませんが、自分の氷の壁で受ければ、死ぬことはないでしょう」


 話を振られたガリアスの言葉で、ヨイヤミの表情が少しほぐれる。そして、いつまでも戦う前から心配事ばかりを並べていても仕方がない、といった様子で表情を引き締めると、この場にいる皆に向けて呼びかける。


「じゃあ確認するで。騎兵隊はアカツキとガリアスが道を開くまで待機や。弓隊は騎兵隊のフォロー。僕は弓隊と共に、後方支援に回って、皆の指揮を執る。騎兵隊の細かい指示はロイズに任せる。アカツキとガリアスはとにかく、相手の前衛部隊を早めに無力化してくれ。そのままアカツキは敵の大将と一対一で戦えるように、皆でお膳立てしたる。その間、ガリアスはアカツキに敵の兵を近づかせんようにしてくれ」


 ヨイヤミが各々と視線を合わせながら、最終確認を取る。敵国は、この中の誰が国王なのかすら解っていないかもしれない。建国したばかりの小国など、そんな情報を集めるまでもなく一網打尽にできるだろうと考えるのが普通だ。

 そもそも情報収集したところで、地図により国の場所がわかるのと、アカツキの顔写真は帝国側から発行されているだろうからわかるくらいのものだろう。

 それ以外の情報はおそらく皆無だ。ルブルニアは歴史もなく、これから名を上げる国なのだから。


「敵の国王が誰だろうと構わん。数と力でねじ伏せろ。相手はたったの数百だ。こちらには十倍以上の数がいる。恐れる必要はない」


 敵国の国王である、コーネリアスが自軍の兵の士気を高める。彼の言葉に呼応して、二千を超える軍勢が一斉に雄叫びを上げる。二千の声が響き渡ると、その土地がまるで揺れ動くかのような感覚すら覚える。


「うわあ……。あんだけの数が一斉に叫ぶと、流石にちょっと身構えてまうわ。負けることはないやろうけど……」


 ヨイヤミが少し顔を引きつらせながら、何とか作り笑いをして見せる。ヨイヤミは内心穏やかではないのだろう。昨日の夜の彼の雰囲気からして、今は案外無理をしているのだということが、アカツキにはわかる。


「皆、元々相手の数が上回ることは解っていたことだ。数がどれだけ増えようが、俺たちがやることは変わらない。皆の命は俺が守る、だから俺を信じて、ついてきてくれ」


 ヨイヤミの表情を見たアカツキが、ヨイヤミを落ち着かせるのと、皆の士気を上げるために声を掛ける。

 それに答えるように、ルブルニアの兵士たちも雄叫びを上げる。二千の軍勢と比べれば、なんと小さな声だろうか…。だが、声の大きさでは負けていても、気持ちでは負けない。

 こちら雄叫びを聞いてか、向こう側の国王がついに突撃の指示を出した。


「レイドール騎兵隊、掛かれええええええええ!!」


 向こう側の国王がこちらを指差して叫ぶと、レイドールの兵の内のおよそ五百の騎兵が、咆哮を上げながらこちら側に突撃してきた。

 相手の数がどれだけ多かろうとも、俺たちは絶対に勝つという思いを込めて、アカツキは目の前の大群に向けて全力の咆哮を上げる。


「ルブルニア軍、行くぞおおおおおおおおお!!」


 アカツキも負けじと叫びながら、自分が一番に飛び出す。前衛はたったの二人。ガリアスとアカツキだけが地面を蹴って前へと走り出した。

 敵国の騎兵五百に対して、たったの二人で突撃してくる様を見た敵国王は、鼻を鳴らして笑いながらこちらを卑下する。


「はっ……、気でも狂ったか?五百の騎兵相手に、たった二人で何ができる」


 そんな窮地に追い込まれているはずのアカツキは笑みを浮かべながら、五百の騎兵と相対する。


 その鼻先すぐにでもへし折ってやるよ。


 アカツキは心の中でそうつぶやきながら、騎兵へと突っ込んでいく。敵国の騎兵との距離が残り百メートルを切ったところで、アカツキは一旦足を止めガリアスに向けて叫ぶ。


「ガリアスっ。頼んだぞ」


 その言葉を受けて、ガリアスは手に魔力を込めて、薄い青色に輝く手を地面へと押し当てる。すると、地面から十メートルは超えるかという、巨大な氷柱が現れた。

 氷柱からは、温度差により水蒸気が溢れだし、それがその氷柱から溢れ出すオーラのようにも見える。ガリアスはそれを根元から引き抜き、後ろへと引いて構える。


「なっ……、な、な、何だとっ」


 ガリアスのその姿を見た敵騎兵隊は、驚愕と焦りの表情を浮かべてこちら側を眺めていた。そこら中から驚愕の声が漏れてくる。


「止まれ、後退だ。あんなもの喰らえば、ただじゃ……。う、うわあああああ……」


 隊長と思われる人物が急停止を指示するが、馬はすぐには止まらない。騎兵隊はそのままガリアスの攻撃圏内に入っていく。


「少し大人しくしていてもらおうか。ふんぬっ」


 ガリアスは先頭を走っていた騎兵に向かって、十メートル近い氷柱を横薙ぎに振りぬいた。

 氷柱は前にいた百近くの騎兵を襲い、彼らをアカツキたちの進路から吹き飛ばした。そして彼らの後ろから止まることができずに走ってくる騎兵を、もう一度振り抜いて吹き飛ばす。


「なっ、何だと……。二百の騎兵が一瞬で……。き、貴様ら、何をやっている。迫撃砲で残りの騎兵を援護しろ。奴らを焼き払え」


 驚愕の面持ちで、その様子を見ていたコーネリアスは、後衛部隊に指示を出す。その指示により慌てて動き出した後衛部隊は、砲弾を迫撃砲に詰めていく。

 その間アカツキたちは更に相手との距離を縮めていた。資質の力により強化された脚力は、馬の速度をも凌駕する。

 ガリアスは逃げ惑う残りの騎兵たちをどんどん薙ぎ払っていく。だが、殺さないのがアカツキとの約束。ガリアスは微妙な力加減を保ちながら、少しずつ敵の数を減らしていく。アカツキは今のところ、それに追従するように、ガリアスの背後を何も手を出すことはなく追っていた。

 ヨイヤミやロイズたちも少しずつ進軍を始めていた。距離を取っていたところで、たった二百では手の打ちようがないため、なるべく後衛部隊も距離を詰めていく。


「アカツキたちに後れを取るな。どうせ、後方部隊と言っても、僕らには弓ぐらいしかあらへん。なるべく近づいて、アカツキたちを支援するんや」


 ルブルニア軍が少しずつ近づいていく中、ついに迫撃砲の準備が終わったレイドール軍は、すぐさま砲撃を開始する。


「まずは、あの資質持ちを片付けろ。なあに、資質持ちがいたのは予想外だったが、いざとなれば私が出れば良いだけの話だ。それにあの巨大な迫撃砲を喰らえば、資質持ちだろうとただでは済まん。そのために、大金を叩いて手に入れたんだ。何も怯えることはない。さあ、放てえええええ!!」


 コーネリアスの合図とともに、敵国の砲撃が始まる。三つの砲台からは、それぞれ巨大な砲撃音と硝煙と共に、砲弾が凄まじい速度でアカツキたちの元へ飛来する。


「アカツキ殿っ」


 ガリアスは持っていた氷柱を前方に投げ捨て、アカツキを庇うように仁王立ちをする。そして巨大な砲弾はガリアスに直撃する。砲弾は凄まじい爆破音と爆炎を上げながらアカツキたちに襲い掛かる。


「アカツキ、ガリアスっ」


 ヨイヤミが爆炎の上がった場所に向かって、悲鳴にも似た不安の叫びを上げる。

 やがて、辺りを満たしていた煙がゆっくりと晴れていき、その中から二人がしっかりと地に足をつけて立つ姿が見えた。その姿をみたヨイヤミは、強張らせた表情を緩め、安堵の溜め息を吐いた。


「大丈夫ですか、アカツキ殿?アカツキ殿は敵の国王と戦うまでは、しっかりと力を温存してください。自分がそれまでは、しっかりと盾になりますゆえ」


 ガリアスは砲弾が自分たちを襲う直前に氷の壁を作り出し、二つの砲弾を防いだ。だが、直径五十センチもあろう砲弾の威力は凄まじく、最後の一個を防ぎ切ることはできなかった。

 そこでガリアスは仕方なく、アカツキの前に立ち盾になることを選んだ。砲弾に背を向けて氷の鎧を纏いガリアスは砲弾を直接受けとめた。

 氷の鎧のおかげで死ぬことはなかったにしろ、背中には大きな火傷の痕が見られ、その立ち姿は痛々しくも勇敢で、決して折れることのない巨木のようだった。

 そんなガリアスの姿を見て、アカツキは一瞬足を止めようとしたが、すぐさま前を見据える。


「行くぞ、ガリアス。こんなところで立ち止まる訳にはいかない。無理をさせるが、お前にはまだまだ頑張ってもらわなきゃならない」


 その言葉にガリアスが笑みを浮かべながら答える。


「はい、私の命はアカツキ殿と共に……」


 そして、至る所から悲鳴を上げる体を叩き起こし、ガリアスはアカツキと共にもう一度立ち上がる。ガリアスの動きが止まったのを見た敵国の騎兵隊は、この隙を逃す訳にはいかない、といったように急転回してアカツキとガリアスの元へともう一度突撃する。


「いまだ、あの資質持ちの動きが止まっている間に、打ち取れえええええええ!!」


 更に、敵国の迫撃砲の部隊も、すぐさま次の砲弾の装填に取り掛かろうとしている。

 敵国の騎兵たちがこちらに向かってくるのを見て、アカツキがついに動き出そうとしたが、ガリアスはアカツキの前に腕を伸ばしてそれを制止する。しかし、今から氷柱を出して、引き抜き振り回している余裕などない。だが、アカツキはガリアスを信じ、魔法を使うのを止めた。

 ガリアスは身体を逸らした後、力強く地面に両腕の拳を叩きつけた。その瞬間、敵国の騎兵たちの前に巨大な氷の壁が出現する。そして敵国の騎兵たちは、止まることができずに、次々と壁に激突していく。

 アカツキはその様子を見て、少しだけ笑みが零れた。なぜならその光景が、数か月前にどこかで見た光景にとても似ていたから……。アカツキとガリアスが初めて会った日。アカツキとガリアスがまだ、敵同士だった日。

 そして、氷の壁にぶつかって動けなくなっている二百近い兵を取り囲むようにガリアスは、四方に同じような壁を創りだし、氷の檻に閉じ込めた。

 本当に頼りになる。敵の時はその滲み出る力の差に、戦々恐々としたものの、これだけの力を持つ者が味方で自分の身を護ってくれるとなると、これ以上に頼もしいことはない。


「アカツキ殿行きますぞ。まだ、半分の無力化できていません。立ち止まるにはまだ早いですぞ」


 その背中には大きな火傷の痕があり、きっと我慢できないほどの痛みが体中を襲っているだろうに、ガリアスはそんなことをおくびにも出さずにただ前へと視線を向けている。

 そんな奴に心配の言葉なんて必要ない。だからアカツキは、心配そうな顔ではなく、笑みを持ってガリアスに答える。


「それさっき俺が言っただろ。真似すんじゃねえよ……。さあ、行くぞ」


 二人は氷の檻を避けながら、さらに前へと進む。



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