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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第五章 新たなる一歩
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新たなる一歩

 二人が城門前に到着すると、既に到着していたヨイヤミたちがこちらに気が付いて手を振ってくる。

 色々と言いたいことはあるが、とりあえず何か仕返しをしてやらないと気が済まなかったので、アカツキは一目散にヨイヤミの元に近寄ると、両手で拳を握り、両側から側頭部に押し付けてグリグリとねじ込んだ。

 一足遅れて皆の元に辿り着いたアリスにロイズが話しかける。


「アカツキとの二人旅はどうだった?楽しかったか?」


「はい。とても、楽しませていただきました」


 嬉しそうに答えるアリスに、ロイズは少し驚いたように、しかし満足そうに「そうか」と呟きながら頷く。アカツキからなんとか逃れたヨイヤミがアリスの下へと駆け寄る。そして目敏く、首許にぶら下がっている首飾りに気付いて尋ねる。


「あれ……?アリスちゃん、その首飾りどうしたん?」


 恐らく大体の察しはついているだろう表情で、ヨイヤミはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。そんなヨイヤミにアリスは、少しモジモジしながら恥ずかしそうにヨイヤミの問いに答える。


「こ、これは……、アカツキ……くん……、に買っていただいたもので……」


 皆の前だったので、元から呼び辛そうにしていたのに、余計アカツキ君と呼び辛くなり、『君』の部分は聞き耳を立てなければ聞こえないほど小さな声だった。それでも誰一人として、アカツキの呼び方が変わっていることを聞き逃す者はおらず、皆揃って驚きの表情を露にし、一瞬時が止まりかけた。

 しかし、その変化を言及するものは誰もおらず、皆生暖かい表情で二人に微笑みかけるのだった。

 そんな皆の雰囲気を感じ取ったアカツキは、どこからともなく恥ずかしさが込み上げてきて、とても居心地が悪くなり、誰にも気づかれないようにそっぽを向きながら一人顔を赤くしていた。

 そんな空気が耐えられなくなったアカツキは、恥ずかしさを隠すように皆を急かす。


「ほら、遅くなる前に行くぞ……」


 確かにあまりゆっくりしていると、宿屋に戻るのが遅くなるので、一同はアカツキの照れ隠しに先程までと同じ視線を送りながら、アカツキに続いてガーランド城の中へと入っていった。

 城門の先はコの字型の造りになっている城に囲まれており、そこには左右対称に造られた庭がアカツキたちを出迎えた。

 その中央には立派な噴水が鎮座しており、花壇には様々な種類の花々が咲き誇っている。それらは全て左右対称に埋められており、芸術などに触れたことのないアカツキでも、その美しさを感じることができる。

 それらを眺めながらゆっくり歩いていくと、もう一枚の巨大な城門が口を開いて待ち構えていた。観光客に開放しているため、この城門は常に開け放たれている。


「大きいな……。ノックスサンの王宮の門の何倍あるんだろうな」


 ロイズがその巨大な城門に圧倒されながら、感嘆の声を上げる。その答えを持っていない一同は、それに答えることなく城の中へと進んでいく。

 それに対してロイズも別に気にすることなく、少しだけ遅れて城の中へと入っていった。

 中に入ると、赤いカーペットが敷き詰められた大きなワンフロアが顔を出す。入口正面から見える上階へと続く階段は縄が張られており、通行止めになっているようだ。壁には様々な絵が飾られ、それ以外にも様々な工芸品や、美術品が飾られていた。

 この大きな広間いっぱいに、そういったものが飾られており、城というよりも美術館といった印象を受ける。開放していると言っても、側面はこの城に仕える人や、関係者が住んでいる部屋が並ぶだけなので、見られるのは実質この部屋だけのようだ。

 確かにこの大きな部屋一杯の美術品というのは壮観ではあるが、期待していたものとは違った。だからだろうか、アカツキたちはあまり中を見回ることなく、案外早くに城外へと出た。


「う~ん。何か思とったんと、違ったな。本当に観光客のためだけに、開放された場所って感じやった。もうちょっと城の雰囲気みたいなもんを知りたかったんやけどな……」


 アカツキもヨイヤミと同じようなことを考えていた。あれでは、アカツキたちが今後国を発展させていくために得られるものは、正直なところ何もない。アカツキたちは別に美術品が見たくて、城に入った訳ではない。現在最も発展している国の城の造りを学んで、今後に生かすためにこの城を見に来たのだ。

 しかしよく考えれば、この国は戦争というものが忘れ去れるくらいに、戦争をしていない訳だし、そんな国の造りを真似たところであまり意味が無い気がする。

 装飾や建造美などの為に使う資金の余裕など、これっぽっちも無い。だから期待外れも何も、そもそも検討違いだったのだ。

 そんな自分たちの思惑通りにいかなかったことにがっかりはしたものの、そんなことは気にする気配もなく、一同は宿へと向けて談笑しながら歩いていくのだった。


 ガーランドに来てからの宿は男三人、女三人に別れて宿泊している。ちなみにベッドの並びは入口からガリアス、ヨイヤミ、アカツキの順番で、ベッドに入ると隣からもの凄く視線を感じるのだ。ガリアスは早々に寝てしまっていたので、その視線の主は一人しかいない。


「なんだよ、ヨイヤミ……。その気持ち悪い笑顔は……」


 その視線に耐えきれず、アカツキは呆れた顔でヨイヤミの方に視線を向ける。すでに灯りは消えているので、あまりはっきりとは見えないが、それでも、ヨイヤミが楽しそうに満面の笑みを浮かべているのは明白だった。


「なあ、今日どうやった?楽しかった?アリスちゃんとどんな感じやったん?」


 ガリアスに気を使ってか、囁くような小さな声でアカツキに尋ねる。まあ、アカツキもヨイヤミが宿でこういうことを聞いてくるのは、大体予想がついていた。もちろん、それに真面目に答える気もない。アカツキは再度ヨイヤミから視線を逸らして窓の方を向く。


「まあ、楽しかったよ。ああいうのも、たまには良いかもな。だから別に、口で言うほど、お前に怒っている訳でもないし、むしろ、少しは感謝してる。ありがとう」


 アカツキはそのまま目を瞑る。もう、さっさと夢の中に逃げたかったから。こんなことを言えば、ヨイヤミが余計に茶化してくるだろうと思ったから。

 しかし、アカツキの予想は外れていた。ヨイヤミは特に何も言葉を発することはなかった。予想が外れたアカツキは、ヨイヤミが一体どんな表情をしているのか気になってヨイヤミに視線を戻したが、彼はガリアスの方に身体ごと方向を変えており、それを覗うことはできなかった。


「なんだよ、ったく……」


 アカツキはヨイヤミの意外な反応に少し困惑しながら、もう一度窓から見える月明かりに視線を戻して目を閉じた。後ろでガサゴソと布団の衣擦れ音がしたが、もう今更視線を戻す気にもなれず、アカツキは夢の世界へと旅立った。


 そこから三日間はちゃんと五人で纏まって観光し、そしてルブルニアへの帰路へと就いた。

 国民へのお土産を忘れずにちゃんと買っていく辺り、ヨイヤミはやはりしっかりしている。その辺の気の使えるところは、見習わなければならないのだろうな、と思いながらアカツキは自らを戒める。

 でも、ヨイヤミから何かを見習おうとすると、そういう面より恐らくあの腹立たしいところばかりが目に入ってきそうで、自分の精神が持ちそうにないということで、やっぱり止めておこうという結論に至る。

 ヨイヤミがどこまで計算していたのかは解らないが、この旅でアカツキは確実にアリスとの距離を縮めることが出来た。

 最初はかなり渋ったものの、あの教会に行ったのは正解だったと断言できる。きっと二人きりでなければ、あんな雰囲気にはなっていなかっただろう。そういう意味では、やはりヨイヤミに感謝している。いや、あいつに感謝することなんて何もない。どうせ、あいつは楽しんでいるだけなのだから……。

 そんなことを思いながらアカツキは前を走るヨイヤミの背中を、じとっとした冷たい目付きで眺めるのだった。そんな視線に気付いているのかいないのか、ヨイヤミは振り返ることなくアカツキの前をひたすらに馬を駆って、走っていた。




 数日後、ガーランド帝国から発行される世界地図がルブルニアにも届けられた。ハリーを除く六人の幹部たちは皆身を乗り出して地図を覗きこむ。丸められた地図にヨイヤミが手を添える。


「じゃあ、いくで……」


 皆がそれぞれに、ヨイヤミに返事をするように、静かに頷くと、ヨイヤミが丸められた地図をゆっくりと机の上に広げた。世界地図の上部分、北側のグランパニア領の森の中に、その名前は刻まれていた。


『ルブルニア』


 皆から感嘆の声が上がる。これには、さすがのヨイヤミも感動が抑えられないといった様子で、口を開けたまま、目をキラキラと輝かせて、その一点を見つめていた。自分たちの国が認められ、世界中に知れ渡ったことをはっきりと自覚した瞬間だった。

 これから先、大変なことも色々起こるかもしれない。どこかの国が襲ってくることもあるだろう。それでも、自分たちの創りあげた国が世界地図に載るということは、とても感慨深いものがある。

 ようやく、ここまできた……。いや、やっとここから始まるのだ。この国から、いつか世界を変えるために、俺たちは新たなる一歩を踏み出した。


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