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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第五章 新たなる一歩
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懐かしき地に足を踏み入れて

 アカツキたち一行は、一週間近く掛けて砂漠を抜け、緑の豊かな森林地帯まで足を運んでいた。木々に囲まれた、どこか懐かしさを覚えるようなこの場所に、アカツキたちは国を作ることにした。奴隷のための奴隷による奴隷たちの国を……。

 この土地は実はルブールがあった森と同じ場所なのである。かなり巨大な森のため、ルブールからは遠く離れており、雰囲気はだいぶ異なるが、それでもこの場所にいると昔を思い出す。昔と言っても、まだそれほど時間が経った訳ではないが……。

 この数か月アカツキは、平凡な生活から一転して、様々なものを見て、様々な戦いをした。まるで、今まで生きてきた時間に匹敵するかのごとく、この数か月は長く感じられた。だから、アカツキには久しぶりに故郷に帰って来た、そんなような感じがしたのだ。

 何の整備もされていないこの土地に新たな国を作るため、まず木々の伐採などから始めなければならない。そこは手間が掛かるが、この土地には近くに川があり、水には困ることは無さそうだ。また、伐採した木々は木材として利用できるため、土地の開拓と住居の建築を並行して進められる。

 当面の目標は、住居の確保である。木々がそのまま利用でき、皆が働くことに慣れている者たちなので、力仕事に苦労することは無いだろう。後は建築のための知識である。だが、幸い元々建築家をしていた人と、相変わらずどこで手に入れたのか、ヨイヤミの豊富な知識があるため、そこは問題なく進みそうだった。

 後は、食料である。家畜や農業をして自国で食料を賄うのが普通だが、今のところそこまでの知識を持つものがいなかった。ただ、近隣に川があり、元々木々が生い茂っていた場所を開拓するので、土壌などの問題は少なそうだ。

 そして、金銭的な面が一番の問題かと思われたが、それについては、すぐに問題になることは無さそうだった。何故なら、ヨイヤミがノックスサンからいくらか財宝を盗ってきたからである。これには、アカツキとの間で少し揉めることとなった。


「お前、何盗賊まがいのことやってんだよ。俺たちは、人を殺すとか、物を盗んだりとか、そういうことはやらないって決めたじゃないか。俺たちは俺たちの力で、国を作るんじゃなかったのかよ」


 ノックスサンを出た次の日の昼頃、長い眠りから目を覚ましたアカツキが、ヨイヤミが財宝の一部を盗んできたという事実を知ったアカツキは、その後ヨイヤミと口論になった。


「確かにそうや。僕もちゃんとわかってる。でもな、考えてみ……。それでもし、今から国の予算もなく皆を連れていって、何も食べれんと飢え死にでもさせたら、アカツキは責任取れるんか?」


 ヨイヤミのその言葉にアカツキは苦い顔を浮かべ、言葉を失い、反論できなくなってしまった。ロイズはその様子を、少し離れた所から苦笑しながら見守っていた。

 計画性や知識に関しては、アカツキよりもヨイヤミの方が余程有能である。というよりも、大半のことはヨイヤミがアカツキを上回っている。しかし、それはお互いに理解しているのだ。だからこそ、二人は無意識のうちに役割分担をしている。

 今回の戦争でも、戦闘においての主役はアカツキ、裏方はヨイヤミといった風に役割分担がされていた。実際その役割分担は正しく、アカツキの人を思う気持ちが、ガリアスの心を動かしたのだ。そういうところは、アカツキの方がヨイヤミよりも上回っているだろう。感情で動くアカツキと、論理や知識で動くヨイヤミ。そうやって二人はお互いを補いあっていた。

 ヨイヤミとアカツキの二人だけでなく、ロイズたちも巻き込んで、地図を見ながら国を建てる大まかな場所を決めると、皆はそこに向かった。そしてこの土地に落ち着いた今、これからについての話し合いをしていた。


「まずは、木々の伐採をどうするかやな。やっぱ近隣の国で色々買い集めなあかんかな」


 ヨイヤミが皆に向けて尋ねる。ここに集まっているのは、アカツキ、ヨイヤミ、ロイズ、ガリアス、アリーナ、ハリー、アリスである。要は、資質持ちと元兵士だ。ヨイヤミの質問にロイズが応える。


「木々の伐採は、ガリアスに頼めないのか?お前やアカツキの力だと、木を燃やして無駄になるが、ガリアスなら資質の力を使って木々を切断するくらいのことは訳ないだろう」


 そう言いながらロイズは、返事を求める様にガリアスの方を向く。ロイズに視線を向けられたガリアスは無言のまま静かに頷いた。ガリアスが常に無言のまま頷くだけなのは、ガリアスが言葉を話すことができないからである。

 今までは、命令を理解するために、相手が話している言葉は大体解るようにはしていたのだが、自分から言葉を発したことが無く、そしてその必要も無かったために話すことができないのだ。

 今は少しずつ、アリーナが面倒を見ながら勉強しているが、今のところは成果が見られない。ちなみにそれは子供たちにも共通することで、アリーナを師として、子供たちのための学校を開くことが決まっていた。アリーナは子供の面倒を見るのが好きなようで、やる気満々といった様子で、そのことについては了承してくれた。


「伐採はそれでええにしても、まぁこの財宝たちを金に替える必要はあるわな」


 ヨイヤミがリュックを持ち上げ、ジャラジャラと音をさせる。アカツキはそれが気に入らなかったのか、ヨイヤミから視線を外す。


「確かに、これから国を動かしていこうというのなら、それなりの金は必要だろう。私はヨイヤミに賛成だが……」


 そう言いながらロイズがふて腐れているアカツキへと視線を移し、お前はどうなのだ、と暗に尋ねる。


「気は向かないけど、そうするしかないんだろ。俺も……、賛成だよ」


 アカツキは、あからさまに気の無さそうな声音で答える。ヨイヤミはアカツキのその様子を見ながら、妥協はしてくれてもなかなか受け入れてはくれないか……、と軽く溜め息をついて苦笑した。


「じゃあ、換金と木々の伐採とその加工がまず今日からの目標やな。じゃあ、アカツキとロイズとアリスが金銭確保の係、僕とガリアスとアリーナとハリーは伐採と建築係としてここに残る。それで文句はあらへんよな?」


 その役割分担を聞いて、アカツキが少し苦い顔をしていた。その分け方だと、アカツキ以外が全員女性となってしまう。

 何よりアリスが問題だった。アリスに初めて会ったときは、戦争の中の勢いに任せて、何も気にすることなく、手を握ったり、頭を撫でたりしてしまったのだが、我に帰ってその行動を思い出したアカツキは、そこから数時間、頭を抱えて悶えていた。結局そのあと、アカツキはアリスとは一度も目を合わせてすらいない。

 ヨイヤミがアカツキとアリスを一緒にしたのは、嫌がらせ以外の何物でもない。アカツキたちが出発する間際、ヨイヤミはロイズにアカツキには聞こえないところでこんなことを耳打ちした。


「どうせ、アカツキは馬鹿正直に最初の提示額で換金しようとするやろうから、その辺はしっかり気にしといたってくれ。後、アリスちゃんとアカツキのことしっかり見守っといたってくれ。よろしくな」


 意地の悪い憎たらしい笑みを見せながらヨイヤミはロイズにそう告げた。それを聞いたロイズも苦笑しながら、呆れたようにヨイヤミに言った。


「お前たち本当に仲が良いんだな……」





 三人は森を抜けて、近隣の国へと向かっていた。

 アカツキたちは馬に乗って移動していた。ノックスサンからこの土地に来る途中、馬の群れを見つけたロイズは、それらをいとも容易く手懐けて見せた。これには、さすがのヨイヤミも呆然としており、その手腕に賞賛を贈っていた。

 ラクダはさすがに砂漠の間だけで、砂漠を抜けるときに野生へと帰してやった。そして、足が無くなったアカツキたちは、ロイズのおかげでこのように、移動するための足を確保することができていたのだ。

 そんなこんなで、今アカツキたちの元には七頭の馬が存在する。馬小屋の建設も急いでやらなければならない作業の一つとなっている。

 今アカツキたちがつれてきている馬は二頭であり、アカツキが一人で、ロイズが後ろにアリスを乗せて近隣の国へと向かっていた。アカツキは今まで馬などに乗ったことはなく、この土地に来るまでの間の休憩の時間に、ロイズに指導を受けて、やっと乗れるようになったところだった。


「アカツキ、大丈夫か?乗れるようになったと言っても、振り落とされなくなったくらいだろう。無理に馬で来ることは無かったんじゃないのか」


 ロイズの言葉に、アカツキは馬に必死にしがみつきながら応える。馬を操りながら、アカツキへと視線を向けるだけの余裕があるロイズに対して、アカツキは馬に集中しているため、ロイズへと視線を移すことができない。


「大丈夫ですよ。何事も慣れですから。何もなければ、乗るだけならできるんですから。ただ、こんな大荷物持ってるとなかなか……」


 大荷物とは、言うまでもなく財宝の入った布袋のことである。かなりの量の財宝が入っているため、重量は相等のものだった。最初ロイズは、財宝の方を持とうかと言ったのだが、アカツキがそれを断固拒否した。なぜなら、財宝でない方がアリスを後ろに乗せることになるからである。

 アカツキは現在、必死の思いで財宝を運んでいる途中である。一番近い国は別にあるのだがなるべく高い金額に換金したいため、繁栄している国がいいということで、アカツキとヨイヤミがよく知る国に行くことになった。

 商業都市アルバーン。先程も述べたように、ルブールと同じ森の中に国を建てようとしているため、アルバーンは案外近い場所にある。ただし、これまでのように徒歩で二時間とまではいかない。馬で三、四時間はかかってしまう。だからこそ、アカツキは少々無理しても、馬に乗っての移動にしたのだ。


「それにしても、過ごしやすいところだな。砂漠育ちの私からしたら、少し寒いくらいだよ」


 なんとなくロイズが発したその言葉に返事をしたのは、意外なことにアリスだった。気の弱そうな、聞こえるか、聞こえないかの瀬戸際のような声でアリスは呟いた。


「そうですね。私たちの国は砂漠のど真ん中でしたから、こんな緑に囲まれたところは、見たことがありません。これも、アカツキ様のおかげですね」


 少しぎこちない笑顔で、アカツキの方を向いて礼を言うアリスを、アカツキはちらっと、つかまっている馬から覗き見る。そしてアカツキは苦い顔をしながら、アリスには視線を合わすことなく答える。


「別に俺たちはただみんなの檻を壊しただけさ。それ以外のことは何もしていない。大変なのはこれからだよ」


 アカツキは様を付けるのを止めてくれ、とアリスに何度も頼んでいるのだが、その頼みは聞き入れられず、アリスと話すときは毎回のように苦い顔をしていたのだ。

 その上、例の一件のため、顔も合わせられていないので、アリスとの会話にはかなりの精神力を削られる。ガリアスと向かい合った時とはまた別の、正直アカツキの中ではそれよりも辛い精神攻撃を受けていた。今も、アリスの顔は見ないで進行方向を真っ直ぐに見据えながら応えていた。


「確かに大変なのはこれからだが、彼らを救ったのはお前たちだ。それは紛れもない事実で、奴隷では無いが、私も救われた人間の一人だ」


 ロイズのような大人にそうやって言われると、なんだか照れるな、とアカツキは自分が彼らを救えたことをもう一度噛み締めて、少し頬を紅潮させながら、馬との葛藤を続けるのだった。

 そんなやり取りをしながら、四時間ほど馬を走らせたところで、久しぶりにアルバーンが見えてきた。数か月前までは、毎日のように通っていた国。もう、会えないかもしれない幼馴染と文句を言いながらも、なんだかんだ楽しく買い物をしていた国。

 アカツキは、この国を見た瞬間、胸が締め付けられるような痛みに襲われた。彼女は今でも元気にしているのだろうか。どこか別の国で、両親と幸せに過ごしてくれているだろうか。

 アカツキはそんな思いを二人に悟られないように、必死に押さえつけて平気な振りをする。いつか笑顔で会えるその日まで、忘れることのできない思い出を、心の片隅に仕舞い込んだ。

 アルバーンに入った三人は、まず馬小屋を探して馬を預けた。別れ際に馬を降りたアカツキは、その馬に感心を覚えていた。あれだけの重量を抱えたまま、四時間休むことなく走り続けてくれたのだ。アカツキは感謝の念を込めて、優しく馬の頭を撫でた。どういたしまして、と返事をするように、馬は鼻を鳴らして、ブルルッ、と鳴いた。


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